スライム、リーンの新たな生活

1・出会い

 それは1か月前、ローグが昼飯にビールとピザを食べながら、店でのんびり過ごしていた時の事だった。


 「ホント、ローグさんはお暇なんですね~、毎日休日で羨ましい限りです」

 「悪いが毎日仕事しているんだ。 口の悪い店主の独り言を適当に聞き流すって仕事がな」

 「おやおや、そんな事が仕事とは知りませんでした~。 精神科へ通うことをお勧めしますよ~」

 「そうか? ならそのうち予約しておこう、君の名前で」


 本来ならば、いつもと変わらず、毒ある会話を交わしながら、一日が過ぎるだけだった。

 だが、この日は違った。


 「ん? 地震か?」

 「おや、ローグ様の貧乏ゆすりかと思いましたが、違うのですか?」

 「……冗談を言ってる場合か?」

 「……そう言いつつも、座ったままですから、慌てる事もないのでは?」

 「……ピザを追加注文したいが、構わないかな?」

 「……少々お待ちください」


 ガタガタ揺れる店内。

 顔色一つ変えず気にしない二人。

 スッと天井に現れる小さな魔法陣。


 「おいおい地震か? いや、何だアレは?」

 「あら、天井に発行物質でも付けて、どこぞの誰かさんが私に愛の告白でしょうか? 陰湿で素敵ですね~」


 そして魔法陣に対して緊張感も無くそんな事を二人が口にしたその時、魔法陣の放った強烈な光が店内を覆った。


 …………。


 光はゆっくりと収まっていった。

 モダンな店内に変化は無い。

 口の悪い二人に何の変化もない。

 だが、強いて一つ上げるならば。


 「やったわ、成功よ! 異世界へやってきたのだわ!」


 小麦色の身体に、白く露出の少ないヒラヒラの上着に白い半ズボン、それはまるで民族衣装みたいだと言える服を纏い、そしてセミロングの青い髪と活発そうなパッチリ瞳が目に付く外見の少女が、右足でローグのピザを踏みつけて机の上に仁王立ちし、そしてそのまわりに、3匹のブヨブヨした動く液体の塊がキューキュー鳴き声を上げている、そんな異様な光景だった。


 さて、それを目にした二人は。


 「精神科の予約、やっぱり俺の名前で取っておいたほうがよさそうだな……」

 「お客様、イリュージョンの転移場所は、ピザの上では無く地獄ではありませんか~?」


 とそれぞれ冗談を飛ばしながらも、ローグは現状を理解できず、額にシワをよせて、次の展開をどのようにすべきか悩み、シノはニコニコしながらも、どこからか取り出した包丁でブンブン風を切り、怒りを表現する。

 そして、そんな二人に……。


 「ふふん、私はリーン! この世界にもスライムを飼う文化を広めるためにやって来た、超絶天才的なスライム族のリーダーよ! さぁそこの二人、スライムを買いなさい!」


 リーンは胸を張って大声を上げた。

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