喫茶店の騒がしい一日

 「うわぁぁぁぁん、シノ~!」

 「お出口はあちらでございますよ、お客様~」

 「何よ! せっかくお客としてやって来たのに、その態度は無いんじゃないの!?」

 「水しか頼まない奴は客とは呼びませんよ、クソ野郎様~」

 「だってお金がないんだもん、仕方ないもん!」

 「働くという事を学ぶチャンスですよ、ニートゼリー様~」

 「あ、あんた、言っていい範囲の常識ってものを知らないの!? ね、ね、そう思うでしょ、ローグさんも! シノは常識的な態度ってものがさぁ……」


 結局上手くいかなかったリーンが、ドアを激しく開けてやってきたのは、商店街から少し外れた位置にある『聖なる風』という、車が数台止めれるスペースと、レンガの壁にツタが巻き付く姿が印象的な、ややレトロな感じ漂う喫茶店。

 そしてモダンなバーのような店内で、リーンにニッコリした笑顔で毒を吐くバーテンダー風の格好のグラマーな長身女性、それが桜井シノだ。

 やや長いポニーテールに基本的にニコニコしており、細く色気を感じさせる釣り目が特徴の美人だが、敬語で毒を吐く為、近所からの評判はあまり良くない。

 が、そんな評判に反して、店を訪れる常連が何人もいる為、とりあえずは繁盛しているらしい。 

 ただ、揃って癖のある(一般の客層と言えない)常連ばかりという事だが……。


 そして店内の椅子に座るもう一人。

 ローグと呼ばれた短い金髪で大柄の若い男は。


 「そうだな、実にその通りだな。 まず、お前の様な存在がいること自体、以前の俺たちにとって常識的ではなかったのだから。 つまり、非常識最高って事たな」


 と不敵な顔を浮かべて、ピザを口に放り込む。

 ローグはこの喫茶店の一番の常連で、お金を毎日この店に落とす一日を繰り返している。

 働いている様子がない彼が何故そんな生活が出来るのか、それ以前に彼が何者なのか、知っている人物は殆どいないが……。


 さて、そんなローグの一言にリーンは。


 「そ、そんな態度はないんじゃないの!? 乙女が傷ついた時は、励ましてあげるとか、そんな態度をしてもいいんじゃないの!?」


 と不満げな一言。

 だが、そんな言葉を鼻で笑いながら。


 「この室内に乙女はいないから問題はないだろう?」


 と余裕を持って返す。

 が、この返しはもう一人の女性にも喧嘩を売っている訳で……。


 「おや? 乙女がいないとは、たまには良い事を言いますね。 ありがとうございます、ニート様」

 「お褒めに預かり光栄だ、シノ。 その汚れて腐ってしまった心のせいで、その礼儀正しいきれいな口が腐らないことを祈るとしよう」

 「ふふ……、腐った生活態度の方が言うと、実に面白く感じますね」

 「だろう? 性格が腐った奴に、面白いと思わせるのは得意でね」


 おかげで、本日も『聖なる風』と言う店名とは真逆の雰囲気が店内に吹き付けるのだった。

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