第5話 禁忌/4
一応の方針を固め、議会は解散となった。学長室へ続く回廊を歩きながら、学長の従者であるエドエルは、前を行くセファウド学長の背中に物申す。
「私は反対です。生き人形を処分し、アールダインも禁忌者として処断すべきです。そもそもアールダインがこの地にやってきたときに、そうすべきでした」
エドエルは一連の事件の原因をヴェイルに求めていた。ヴェイルがアルムゼルダにいることがわかった以上、エメドレアは死霊術師たちにつけ狙われることになる。それだけでなく、禁忌者を庇護していると諸外国に知られることになれば、特にイシュリアは徹底的にエメドレアを非難するだろう。
棘を隠さないエドエルに、セファウド学長は編み込んだ顎髭をいじりながら、立ち止まった。
「確かに、それはアルムゼルダの安寧に、ひいてはエメドレアの安泰につながるだろう。しかしだ……」
幾重にも皺が刻まれた目元は優しく、それでいて隙のない眼光を湛える。セファウド学長はエドエルにゆっくりと語りかけた。
「見たくないものを遠ざけ、聞きたくないものに耳を塞ぐのは、真理を求める魔術師としての生き方に反しているとは思わないかね」
「それは……」
エドエルもまた見習いながら魔術師である。そしてその魔術師の信条が形骸化している現実も認識していた。セファウド学長はこれを機に大きく舵を切りたいのだ、とエドエルは悟った。
「我々は長らく、死霊術を封じてきた。深淵に滑り落ちる魔術師があまりにも多いからだ。かの力は強大で、抗いがたい……死霊術に興味の尽きない者もいるだろうが……脅威を、特に君のような若い子供達に、どう理解させるか。それはアールダインにしか教えられない」
セファウド学長は再び歩き出した。エドエルはその数歩後ろを、だまってついていく。学長室に到着すると、セファウド学長は窓際に立ち、アルムゼルダの構内を、そして古き城下町を睥睨した。日は傾きつつあり、空には星も見え始めている。
「目を背けていられる時間は、もう過ぎたのだ」
それはエメドレアの魔術師たちに勧告するようにも、自分自身に言い聞かせるようでもあった。差し込む落日の陽が眩しく、エドエルは目を細めた。
薄明のメフォラシュ 第一部 了
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