第6話 Go to hell

 


「終わった…」


  俺の顔が、徐々に崩れてゆくのが分かる。身体ごと地面に崩れ落ちていく。まっすぐと地面の上に立つ事が出来ない。

  俺の職業が『奴隷(スレイヴ)』という事実が、氷華にバレてしまったのだ。


 怖くて、氷華の方を見る事ができない……あいつは今、どんな顔をしているだろうか?

 騙されたことに怒り、眉間にしわを寄せてこちらを睨んでいるのか。

  それとも『奴隷(スレイヴ)』と聞いて、憐れみの目でこちらを見ているのか。



 どちらにせよ今までの関係を続けることは出来ないだろう。


 鮫島め…俺の人生で唯一の楽しみだったんだぞ。氷華と話す事が…唯一の……



「ゔぅ…」



  俺は、誰にも聞こえることのない声量で泣いた。

 表情を周りに見せないように顔を下に向けて、片手で涙に濡れた顔を擦る。



 だが幼馴染は俺が思っている程、薄情ではないようだ。地面に顔を向けていたので、彼女の表情は

 分からないが大きく張り上げた声は聞こえた。

  鮫島に対する、怒りの咆哮だ。



「そんなの、知ってるわよ!」



 こちらも鮫島と負けないくらい大きい。山の中全体に響き渡る音だ。

  鮫島も突然の反撃に顔を歪めて驚いているようだが、1番驚いたのは俺だった。


  顔をすぐさま上げて、彼女の表情を確認したよ。本当に、氷華が言った言葉が真実なのかって。



 俺の職業の事、分かってたのか…



 氷華の視線は、鮫島を睨みつけていた。あんな怖い表情、俺は見た事がない。

  対する鮫島は、顔を歪めながら首を傾げていた。

  まるで氷華が嘘をついていると言わんばかりの口調で話しだした。



「なんで蓮の職業が、分かるんだ。他人のステータスを見る魔法は『王(キング)』にしか与えられてないんじゃねえのか?」

「簡単よ。私『王(キング)』だから」



 そう言うと氷華は、自身の胸に手を置いてステータスを空中に表示させた。


 ―――――――――――――――――――――――

 ●基本ステータス

 ・名前…安藤氷華

 ・性別…女

 ・年齢…17歳


 ●能力ステータス

 ・Lv.1

 ・職業→『王(キング)』

 ・魔法攻撃→『800』

 ・物理攻撃→『500』

 ・魔法防御→『900』

 ・物理防御→『900』

 ・知力→『1000』

  ↓↓↓↓↓ ―――――――――――――――――――――――



  氷華の職業には、しっかりと『王(キング)』と記されていた。

  俺はそれを見て、驚かされたよ。登校中に教えてもらったとは言っても直接見るのは初めてだから。

 でも、驚いているのは俺だけじゃなかった。松尾も鮫島までもが驚いている様子だ。



「おいおいマジかよ。『王(キング)』か。ここで一戦しとくか?」

「いや、いいわ。ダンジョンの方が優先だからね」

「あと、私達が先にダンジョンを攻略する。そして、安全にしておくから」

「ふん!好きにしろ」



 氷華達は再びダンジョン内へと入ろうとしたが、氷華だけは俺の方を振り向いて、また叫んだ。



「蓮〜!何で朝、嘘ついたの!また明日聞くからね」



 なんだ、氷華は俺が『奴隷(スレイヴ)』でも全く気にしないじゃないか。思わず口元が緩んだ。



「わ、分かったよ」



 それを聞いた氷華は、ホッとした表情をみせて再びダンジョンへと進んでいった。



 ■□■□


 そして、その10分後、鮫島、松尾、蓮の3人がダンジョンへと挑戦する事になる。



 意気揚々で乗り込む鮫島だったが、この時は、まだ誰も知らない。

 通常の『王(キング)』ですら、ダンジョン攻略には全くの力不足であるということを。

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