1分は拷問、3分で中毒、4分で病。

 今の仕事はネットを徘徊して面白そうなネタを拾うこと。そんな中で、面白いMVを見つけた。 タイトルは勝手に付けたキャッチコピーだ。 このMVの魅力を音楽、文学、映像の観点から紐解いていく。


 しかし、一つ警告。患うまで4分なんて、どんなウィルスでもない。

タイトルにもあるように、この作品は中毒性・依存性が非常に強いスルメ曲だ。 中毒になる覚悟がない者には一切オススメしない。気になるって人は、まずは俺のレビューを読んでから作品を見ても遅くはないはずだ。


 それが貴方の心に潜むウィルスになっても責任は持たないが。


 すり足ですりすり/伊賀奈々楓

 https://www.youtube.com/watch?v=PiMkBPqk4j0&fbclid=IwAR0gdRl6qMJ_CFtzrsdk1mabdFuN1dvvT48eGN2dDIVUVicVdBi_RMGQFTk



 まずは彼女についてだ。名前は伊賀奈々楓、服部半蔵を祖とする伊賀忍者の末裔。自称・忍者の末裔シンガーソングライターだ。自己表現の塊のようなシンガーソングライターと諜報活動を主とする忍者を両立させた、まったく忍ばないくのいちだ。「それって中二病なだけじゃ……」と思われるかもしれないが、ちょっと待って頂きたい。 彼女は正真正銘の忍者であり、その秘術の数々がMVで披露されているのだ。 


【音楽面について】

 今作の「すり足ですりすり」は、有り体に言うならば演歌だ。我々日本人の郷愁を誘うメロディと、心臓の鼓動にも似たゆったりとしたリズムで構成されている。使われている楽器は、キーボード、和楽器、ドラム、オヤジの合いの手。アニメ声と称せる彼女の声と、中年男性の合いの手、我々日本人に馴染みのあるリズムが絡み合う。その果てに、私が見たのは田舎のスナックだ。 音量を上げすぎて割れてしまった音のスピーカーから流れる伴奏で、浜崎あゆみとかを歌う若い女が見えた。

 サビまでおよそ1分強。 ここまでは初見の若者で、動画や音楽について一般の審美眼を持つ方なら「意味分かんねぇw」と視聴を止めてしまうだろう。 しかしだ、終わる今作を最後まで見た時、あなたはシークバーを0に戻しているだろう。サビの部分である「どこまでもスゥリースリー。なんの迷いもなくスゥリースリー」には、自分の意思では抗えないのだから。  この若さでブルースのような哀愁を醸し出せ、伝統技術の呼称をキャッチーに出来るのは才能と言って良い。だから私は、彼女に「ブルージーなアニメだね」と言ってあげたいんだ。ブルージなアニメの意味は私も分からないけど。


【文学】

 4分の尺を使って、ひたすら歩き方を歌っている歌詞だ。しかし、すり足だけではなく、伊賀の秘中の秘である深草兎歩や犬走りなど様々な歩き方を紹介してくれている。 歩き方にバリエーションを持たせたい方には良いのかもしれない。 しかし、すり足という言葉には作者の執着にも似た熱意を感じられる。 様々な武術の基本になっているすり足を、こんなにキャッチーに出来て、依存と言っても良いくらい多用出来るものなのか。 名曲と言われる作品には、伝えたいテーマを表す言葉が歌詞にある。 戸川純の「好き好き大好き!」や米津玄師の「ウェ!」は、それにあたるだろう。 文学的に言えば、特定の言葉を繰り返すことは「繰り返し」という技術だ。 繰り返しは感情の強調で使われる技術だが、伊賀奈々楓はすり足をどんな意図で伝えたかったのだろうか。彼女が様々な発音で繰り返した「すり足」は、私の脳を完全に焼き直してしまった。 その結果、気がつくと「スゥゥリースリー」と呟く体になってしまったよ。 ここまで言っときながら、米津玄師が「ウェ!」にどんな思いを込めたのかは知らない。別れた女は吐き気がするほどの女だったということだろうか。知らんけど。


【映像面】

 謎が残るミステリー風時代劇だ。はじめに町娘が忍者たちに囲まれる。彼女は興味深い腕の振り方をしながら、囲みを駆け抜けようとするが、願い虚しく倒れ伏してしまう。 目元に狂気を宿した一人の忍者が渾身の力で手にした棍を彼女に振り下ろさんとしたその時! 彼女は胸元から取り出した煙玉で、文字通り忍者たちを煙に巻く。 それが晴れた時、町娘は消えて伝説の忍者の末裔・伊賀奈々楓が現れるのだ。 

 様々な武器を手にした忍者たちが奈々楓に襲いかかる。 しかし、奈々楓は脈々と受け継がれた技術を持って、屈強な忍者たちを次々にいなしていく。 全ての敵を倒した奈々楓は、仕事人の主水のような鋭い眼差しを送る。 その視線の先には天守閣が現存する城……そう、奈々楓は城に忍び込もうとしていたのだ。

 城に潜入した奈々楓は、受け継がれたすり足を始め、様々な歩行で任務にあたる。しかし、敵も甘くはない。奈々楓の侵入に気が付き、奈々楓に襲いかかる。 奈々楓は受け継がれた技術を持って! 敵と仲良くなってすり足ダンスをするのだ! 庭で! 畳で! 町中で! そして体育館で! すり足ダンスをするのだ! 体育館ってなんだよ! 敵もすり足してたじゃねぇか! あれか!?倒したら仲間に出来んのか!? ポケモンか!? タイマン張ったらマブダチだぜ!的な感じか? 昭和か! この辺くらいから、映像の温度というか、潮流が変わったというか……何かしらの悪意を感じた(中村文則風)

 任務を忘れて忍者たちと踊り狂う奈々楓に悲劇が起こる。一人の真面目な忍者が「これ以上やってられるか! ギャラはもらうぞ!」と言わんばかりに、彼女が腰紐につけていた小判を奪って逃走するのだ。 怒る権利はないと思うが、奈々楓はブチ切れて仲間(手下?)となった忍者たちと共に追いかける。 敵も一人前の草の者、どこに忍んでいるのかは分からない。 体育館を走り回って懸命に探す奈々楓と仲間たち。 ついに冒頭の神社に裏切り者を追い詰めた時に異変が起きる。 彼女のポケモンたちが牙を向いて襲ってきたのだ。 神社には人を変えてしまう妖力があることに気づく奈々楓。 彼女は心を殺し、同士と呼んだ忍者たちを打倒していく。 その様は凄惨……伝説の忍者の末裔である彼女でさえも、思わず「thrilling……」と呟いてしまうほどだ。 

 独りになった奈々楓は、仲間の面影だけを共に、神社をすり足で立ち去ろうとする奈々楓は、不自然に立つ木に何故かぶつかりに行く。 それは見上げるほどの大木、いや、見上げるほどの大忍者だ。 奈々楓と同じく忍ぶことを放棄した草の者だ。 そう、この神社は妖を生む魔境だったのだ。 唐突に出会った怪異に、奈々楓は怯えてしまい、その場に座り込んでしまう。 大忍者は手にした箸で奈々楓を摘む。 どこからか湧いてきた忍者たちが心配の眼差しを向けるが、奈々楓の抵抗ごときでは大忍者の怪力には抗えない。 徐々に宙へと浮かぶ奈々楓の目には、助かりたいと切望する涙が浮かんでいた。


 映像面の評価はね、意味わからんの一言やね。



【総論】

 俺は性格悪いなって思いました。 でも、大好きです。「すり足ですりすり」の再生回数は間違いなく50以上は上げてます。 伊賀奈々楓さんのHPを見ると2017年から更新されてないので、近況が気になりますね。

 一つだけ嫌いなとこがあるとしたら、すり足だってのに走り回るとこかな。すり足で走れるのかもしれないけどね。


それでは俺でした!

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