Halloween Au revoir

 おとといかな。中野にキャプテン・アメリカとか、堕天使とかが歩いていた。そういやハロウィンか。どうせならMALICE MIZERくらい気合が入った格好をしてほしいものだ。mana様のブティック「Moi-même-Moitié」がハロウィン特集してたし。まぁ若者にそんな金ないか。それぞれが思う思うに仮装をして愉しめばいいわな。



 でもさ、がっかりしたことがあるんだよ。そいつらがお菓子のマチオカで「トリックオアトリート!」って言ってたのを見てさ、がっかりしちゃったんだよ。普通に財布から金払っているのを見て「それは違うよなぁ」って思っちゃったんだよ。



「これお願いします!」「198円です……500円お預かりします。 302円のお返しです」「「トリックオアトリート!」」「ありがとうございました」とか止めてくれよ。そんな格好してダサいから。



 やるならジャックオーランタンの入れ物持って、お菓子を恵んでくれないマチオカにイタズラするぞって突きつけてくれよ。マチオカは苦笑いしながら、そういう客にミルキーの一粒でも恵んでやればいい。そうすれば風情があるのになぁ。日本は他国の文化の上澄みばっかり真似して、肝要な部分は魔改造しやがる。



 でも、こうやって文を書いてて思い出したことがあるんだ。それは、我が国の国民性は理由がないと弾けられないってこと。酒の席の無礼講って言葉とか最たる例だろう。酔っ払わないと調子を外せないってことなんだから。




 それをクリスマスとか、正月とか、お盆とか……休むにせよ弾けるにせよ理由を求めたがる不器用な民族なんだなぁ。町中で変な格好して「トリックオアトリート!」って言うだけで、本人たちにとっては充分なストレス発散になっているんだろう。




 いや違う。冷静に考えたら、中野には平日休日問わず変な人がゴロゴロしてる。ブロードウェイはサファリパーク。どこにカテゴリすればいいか分からない人たちがブロードウェイ周辺に群雄割拠していて、毎日がカーニバルのパレードみたいなもんだ。




 あいつら何なんだろう?俺の仮説が正しければ、日本人じゃないってことになる。日本人を辞めた人か? だからまんだらけで外人と肩くんで「パンツァーフォー!」とか叫んでるのか? だから裏通りの女装した黒服の「生乳、金○充電パブ!」という呼び込みに「ストロンガー!」とか叫んで付いていけるのか? 国際派なのか?



 やだ、中野の住人ったら最先端? グローバルな日本人って、もしかして中野の住人? いやいや、んなことはない。吹っ切れてしまっただけだろう。なんか合わせるのに疲れちゃって、一時的に甘えたいだけなのかもしれないだろ?




 そんなことを考えながらパチンコ屋にふらりと。



 1.5Lの水を片手に、タバコの煙を鼻から出しながら遊戯に興じるアナトミーなキャバ嬢。その横には狂ったようにボタンを叩いて、台に向かって手のひらから念を送るシャーマンなおばあちゃん。



 おばあちゃんに「当たんねぇなぁ!」って笑いながら語りかけるフレンドリーなジイさん。ズボンが下がって、紙おむつが見えている。それをれふ亭の大判焼きを食べながら嘲るカナルイヤホンの大学生。ゴリラのように屈強な現場作業員が、まどマギの激アツハズレにいらついて、店中に響くほどの強さで台を殴りつける。彼は液晶のガラスに入ったヒビにビビって逃げていった。それを走って追いかけるバイトリーダー。



 パチンコホールは、そいつらをジャムみたいに1つにして狂気を外界に撒き散らさないようにしている。客たちは遊戯代として金を突っ込み、投資金額に応じたレベルで動物性を解放している。



 あぁ、全国どこのホールでも見る風景。我が心のふるさと。人から猿やゴリラへと堕ちた同士たち。存在自体がハロウィンなパチンコファンたち……。


 ホールというリザベーションがなければ生きられない不器用で孤独な人間たちよ。弾けてしまって帰り道を失くしてしまった昔のエンジェルたちよ。君たちは毎日、現実がトリックだと言ってくれと願いながら今日も朝から来たんだろう?  せめてもの心の慰めを玉に求め、大当たり連チャン確変閉店取り切れずという夢を抱いて、パブロフの犬みたいに玉貸しボタンを押しているのだろう?? 僕もそうだ! 一瞬の享楽を共に味わおうじゃないか!



 ハロウィンでテンアゲになっている者たちよ、中野で一匹狼を気取るグローバリストよ……まだまだ君たちは甘い。人生を掛けて弾け、射幸心に頭を焼かれて、人間性を失ってトリックに生きている人はパチンコホールにいる。



 彼らは中野だけにいるわけではない。貴方の半径10km圏内に存在するパチンコホールに生息しているのだ。大井町とか蒲田とか凄いんだから。レベルが違うんだから。



 そんなことを考えていたら、いつの間にか一万円が失くなっていた。僕は「Au revoir」と呟いてホールを後にした。外は秋の風が吹いていて、かぼちゃを模した提灯が少しだけ揺れていた。

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