ジンギスカン
熱量は技術を凌駕するって話。
YOUTUBEを見ていたら、ジンギスカンのジンギスカンがサジェストされた。誤植ではない。ジンギスカンというグループの「ジンギスカン」という楽曲だ。Berryz工房とかがカヴァーしている。
79年にデビューした西ドイツ出身の男女混声グループ。全世界でカバーもされている超有名グループ。全員が白人なのに「俺たちはモンゴル人だからな! HAHAHAHA」とか歌っちゃうグループ。
服装もダンスも歌唱力もなっちゃいない。しかし、かっこいいのである。勘違いしないでいただきたい。本当にダサいのだ。
曲の冒頭では、王様の格好をしたグループリーダーのルイス、満面の笑みを浮かべて、デューク更家みたいなウォーキングをしながらイチカメに迫ってくる。 出だし20秒で「なんかヤバイの来た……」という不穏さが漂ってくる。
しかもだ、彼は真ん中にいるのに歌わない。マイクすらない。バックシンガーを連れたフロントダンサーなのだ。この表現方法は未だに時代が追いつかない。グループ魂の港カヲルみたいなもんじゃない。あれより狂気的だ。
曲の終盤になると、一番後方に周りポーズを決めて終曲だ。真ん中のリーダー席にいるのは「お前、何しに来たん?」と言いたくなる、黒い服を来た地味なグループメンバー。あえて言うならヒゲ。グループで二番目くらいのヒゲだけが個性の男である。
一曲を通じてジンギスカンを聞くと、例えようのない脱力感に襲われると思う。
ここまで書いたことを見ると、なにもかっこいい要素はないと思う。おっしゃる通りである。だが、全体で見るとお分かりになってもらえると思う。
僭越ながら、映像制作に携わっている身から述べさせて頂く。
まず、当時の映像技術ではCGもなければ特殊な加工も出来ない。フィルムで撮り、使う部分のみを手動で切り取り、後ほどつなげ合わせて作品を作る技法だ。 音は後ほどアテレコで合わせていると思うが。現代の方が断然楽に編集できる。ぶっちゃけ、素材がイマイチでも加工して強引に使うことも出来る。フィルムは重ね撮りが出来ないため、一回でもとちったら使えなくなってしまう。また、すごい高価だ。そのため、一発撮りが基本の時代である。
さらに、広角で撮影しているということもポイントだ。
普段パフォーマンス映像を撮ろうと思ったら、寄りで撮るのが基本だ。しかし、70年代の映像に多いのだが、広角で広く見せるように撮っている。舞台や風景など、背景も含めてのアート作品を撮る時は広角と寄りを組み合わせて作るが、6人ほどのグループ・サウンズならメンバーだけを撮るのが基本だ。しかし、ジンギスカンは広く撮っている。これは、PVというより舞台の撮り方である。だからこそ、ルイは動き回って、見るに耐えられる画を作っているのだ。
こういった制作サイドの悩みを、ジンギスカンは最高のパフォーマンスで解消してくれている。
まず、フロントマンのルイは、表情の作り方も動きも、すべてお見事だ。 縦横無尽に動き回っていても、バミ位置を間違えないし、きちんとカメラに自分が映るように考えて動いている。ほかのメンバーも動くが、きちんと元にいた場所に寸分たがわず戻る。当たり前のように思えるが、個人でもグループでも、練習に練習を重ねないと出来ないことだ。派手に動き回るだけが表現ではない。静と動の対比だって表現なのだ。
さらにだ、プロモーション方法が素晴らしい。
アース・ウィンド・アンド・ファイアーやアバ、ジャクソン5などのグループ・サウンドが台頭していた時代に、白人がモンゴルの英雄チンギスハンを名乗って、わけがわからない歌詞を完成度の高いパフォーマンスに乗せて歌う。誰が考えるのだろう。そして、やりたいって言う人たちって、どういう人達だったんだろう。しかし、わけがわからないものを楽しそうにやるのは子供にもウケやすい。さすがプロデューサーが経済学者なだけあるなと感服した。
実験的なことが許されていたおおらかな70年代。ジンギスカンは色物的なグループであったが、その土台には恐ろしいほどの計算と狂気的な鍛錬を積んでいたのだろう。だからこそ、未だにネットの海に漂流し続けられ、視聴者を苦笑させながらも完走まで見続けさせるのではないだろうか。良かったら、Berryz工房とジンギスカンを見比べてもらいたい。言わんとすることが分かると思う。
ジンギスカン、お見事。
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