ある日の夕方
―――狐様。お願いです。孫を連れて行かないでください。
神社。タツゾウが祈っている。彼の腰には12歳になる孫娘の雫がしがみついて泣きじゃくっている。
――母にも父にも先立たれ……爺一人で育て上げた娘なんです。どうか、どうか……普通の幸せをやってあげてください。
突如、激しく打ち鳴らす鐘の音がなる。雫の同級生・慎吾が駆けてくる。この春に小間使いで消防団に入ったと聞いていたが、あちこち駆け回っていたんだろう。足がもつれて転んでしまった。
それでも、慎吾は息も整え切らず「むらおさ! にしの森だ!にしの森にいるよ!」と叫んだ。
「雫。お社にお邪魔になってなさい」
「じっちゃ……」
「安心なさい。明日の夜には帰ってくる。そしたら、一緒に鴨鍋でも食べよう」
「やだぁ! いっちゃやだぁ!」
「困らせるでない。 ムラオサのワシが行かねば格好がつくまい……慎吾や。 悪いけど、雫と一緒にいてやってくれんかね? 」
「えっ!? で、で、でも! お、俺まだ行かなきゃ! そうそう! イナムラさんのとことか!」
「頼む」
「……むらおさが、そう言うなら、ま、まぁいいけど!」
「じっちゃ! やだよぉ……雫と居て!死んじゃうよ!」
「……慎吾、頼むな」
雫が呼び止める叫び声が境内に響いた。タツゾウは振り返りもせずに、一歩一歩と石段を降りていく。
「……もうすぐ日が暮れるのぉ。残されてるのは正味1時間かの……ムリじゃな。 朝まで待ってからにするか」
タツゾウはそう呟いた。雫に見せた好々爺のものではなく、歴戦の兵士の眼差しをしながら……
――ムラオサ! ムラオサ!
タツゾウが広場に着くと、集まっていた村の男どもが歓声を上げていた。農作業や山仕事で鍛え上げられた彼らの手に仕事道具はない。丸太や弓矢、槍など、確実に誰かを傷つけ、殺しめる凶器しかない。
――ムラオサ! ムラオサ!
彼らは娘を失った父親――タツゾウが片手で制すると、水を打ったかのように静まり返った。男たちは待っている。村長であるタツゾウが開戦を下すのを。
しばらく続いた静寂をタツゾウが破る。
「奴らはどうしている?」
丸太を持った体格が一際大きなイシモトが「あいつら、徐々に村に近づいてやがる! 早めにヤラないと!」と、苛つきながら口早に答えた。
「距離は?」
「一刻で三間くらいだ! 朝には村に来る!」
「……その見立ては甘いのぉ」
タツゾウはそう言って、近くにいた若者の槍を取り上げた。そして、振りかって森へ向かって放り投げる。
――傘寿にもなろうタツゾウのどこにそんな力があったのか? 槍は風切り音を立てて、吸い込まれるようにまっすぐに森へと消えていった。
そして、数秒後に「ぎゃあ!」という女の悲鳴が聞こえた。
「奴らだってバカじゃなかろうや」
色めきだつ男衆に一喝する。
「騒ぐな! こちらから出向いて、奴らを森深く押し込むのじゃ! イシモト! 前線で戦えるものを五人選べ! そやつらを分隊長にし進軍する! 奴らを包み込むように扇形で進め!ほかの者は、弓を手に集中砲火するのじゃ! よいか! 決戦は朝じゃ! 長老の木まで押し込んだら帰ってこい!」
――ムラオサ! ムラオサ! ムラオサ! ムラオサ!
タツゾウの鼓舞に男衆が勝どきで応える。そして、イシモトが分隊長を選び、次々に森へと駆けていく。
喧騒が収まった頃、広場にはタツゾウだけが佇んでいる。腰に携えた日本刀の茎を、手が白ばむくらい強く握りしめながら。
(辛い選択をさせてしまったの……変わり果てたとは言え、同じ血を分けた家族に手をかけろと言っておるのじゃから……)
空色は藤色。少しずつ夕暮れから夜へと変わって行く。奴らが騒いだす時間だ。意を決したかのように、タツゾウは顔を上げる。
(だが決して村は滅ばさんぞ! 生命を掛けて……普通の未来を雫に渡すのじゃ!)
自らを鼓舞するように、雄叫びを挙げた。そして、音も無く抜きさった刀を森へと向かって突きつける。
「お前らは必ず滅ぼす! 一人残らずだ! 待ってろ異色肌ギャル!!」
女性たちの「テンアゲー!!」という嬌声が森から聞こえる。その声に寄せられるかのように、タツゾウは森へと消えていった。まるで獲物を見つけた白い狐を彷彿させる速度で――
***
「って話を公募用に考えたんだけど……どうかな?」
「……お前、公募テーマ分かってる?」
「自然と人」
「……規定の尺は何分ですか?」
「20分だっけ?」
「……これ、個人で出すの? 団体で出すの?」
「えっ!? 団体で出さなくていいの? 個人で出しちゃうよ!?」
「お前さぁ!!!! この話が20分で収まると思ってんの!? 最初の神社で終わりだわ! しかも異色肌ギャルって何だよこれ(怒)!」
「最近話題になったギャル。知らねぇの? なんか肌がグリーンだったり、赤かったりって、マジすんげぇの。ソイツに会うと……」
「人と自然って言ってる人達が評価するか!? しないだろ! 絶対ダメ!」
「えぇ~……マジでぇ(泣)」
「ただ設定は面白いし、オリジナリティはあるから、違う映画賞とか小説で書けば?」
「えぇ!? マジで!(喜)」
「しっかりと完結させないとダメだけどね。これ起承転結でいうとこの起?んじゃ承転結も書かないとね」
「……マジで(だるい)」
――ムラオサ! ムラオサ! ムラオサ! ムラオサ!
ということで、あげてみました。Tさんはツンデレ気味に褒めてくれましたが、どうでしょう?
――ムラオサ! ムラオサ! ムラオサ! ムラオサ!
タツゾウが槍を投げた段階で筆者的には満足してます。続きを書くかは気分でございます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます