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死にたいと思った。だからあんな行動に出たのだ。だというのに。
「どうして生きているの……?」
はるか上空、そこから飛び降りて無事? 爆弾が爆発した記憶もあるのに、無傷な上に無事?
「あり得ない」と呟きながら、検査を終えた佐羽は病院の階段を上がる。あの状態で死なない人間などいない。これではまるで、自分が人間ではないみたいではないか、そんなオカルトチックなことを考えてしまいそうになる。
佐羽は何気なく最上階の通路の突当りにあった大きな窓を開いて地上を見下ろす。
「上空に比べると低い……」
変な感覚に表情を曇らせる。身を乗り出して地上をさらに凝視する。この高さでも人は充分死ねる。なのに、どうして自分は生きているのか、不思議以外にない。試してみようか――などと考えていた佐羽は前方へ、倒れ込む。頭から落ちて行く。懐かしい一瞬だけの浮遊感を感じながら、しかし――しかし、佐羽はその浮遊感の中で、奇妙な感覚に囚われる。
自分の意思とは関係なく、身体が勝手に動き始める。器用に身体を捻り、壁に蹴りを叩き込むと、そのまま近くの木々に身体を丸めて飛び込んだ。露出した肌を、まるで傷付かないようにと枝葉が避けているように佐羽には見えた。木枝がクッションとなったのか、それすらも佐羽にはわからない。落下速度はみるみる落ち、しかし落下先――そこには車いすに乗ったおじいさんがいた。当たる――そう思った直後、幹を蹴る自分がいた。自分でも驚くほど綺麗で無駄のない受け身を取って速度を殺す。勢いがなくなり、ついに無事着地。
おじいさんは驚き目を丸くさせている。ぼんやりする頭で言い訳を生み出す。
「木登りって難しいのね」
言って、その場を離れる。
「……何これ」
戸惑い、佐羽は自分の手の平を見つめる。まさか――まさか、と佐羽は考える。
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