06

「あっ…少々お待ちください。ええ、お帰りになられました」


 家に入ると、お手伝いのフキさんが電話をしながらあたしを見てて。

 息絶え絶えのあたしは…それが頼子だって…すぐ気付いた。


「…頼子お嬢ちゃまです。三分おきにかかってましたよ?」


 受話器を押さえて、フキさんが首をすくめる。


「…ご…ごめ…なさ…いっ…」


 呼吸を整えて、いざ…電話に出ると。


『何あんた先に帰ってんのよー!!』


 耳をつんざくような怒声。


「ごごごごめん…」


『ごめんはいいけど、どうして帰ったの』


「…ちょっと…やっぱり苦手だなって…」


 ごめん、頼子。

 あたし…今、嘘ついた。



『それにしても、声ぐらいかけてくれたって』


「そうよね、そうよね…あたし…本当にごめんなさい」


 自己嫌悪。

 そのうえ、この激しい脱力感でへなへなと座り込む。


 両親はパーティーで不在。

 …良かった。

 心配かける所だった。



『んー、まあ無事ならいいわよ』


「そこ、まだお店?」


『店出たとこの公衆電話』


「…ごめん…せっかく連れてってくれたのに」


『いいわよ。じゃ、あたしはライヴ楽しんで帰るから』


「うん。ごめんね…」


『じゃあね』


 電話を切って、溜息。

 震える足でソファーまで歩いて、倒れ込むように突っ伏す。


「……」



 髪の毛が長い男の人って…本当にいるんだ…

 さっきの人を思い出して頭をぶんぶん振ってると、フキさんが紅茶を持って来てくれた。


「楽しい事でもあったんですか?」


「…どうして楽しい事?」


「帰って来られた時、目がキラキラされてましたよ」


「……」



 目がキラキラしてた…?


 宇野君や瀬崎君と話をした時とは違った。

 赤茶色の髪の毛が、あたしの脳裏から離れない。

 長い前髪が、目を隠してたけど…


 フキさんの入れてくれた紅茶を飲みながら、あの人にもう一度会いたい…と願った。

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