04

「いちいち好きになっていいかなんて、聞かれたくないわよね」


 頼子はそう言って…歌詞にいちゃもんをつけた。


 入学して一週間。

 頼子のおかげなんだけど、気が付いたら周りはみんなあたしを『るー』って呼んでて、それだけですごくクラスに馴染めた気がしてる。


 宇野君と瀬崎君となら、何とか…少しだけ会話もなりたってきた。

 もしかして…あたしって…根が軽い…?って、少し落ち込みかけもしたけど。

 男子と話せない人生なんて!!



「ねえ、るーはどう思う?」


 頼子は相変わらず、歌詞カードを手にしたままで言った。

 今日は、宇野君のお兄さんのお店『ダリア』に来ている。


 …初めての寄り道。

 その何とも言えない背徳感と、それでいて、初めての空間に…まるで自分が大人に近付けたかのような錯覚に陥りそうで…少しだけ興奮している。



「頼子ちゃんは厳しいなあ」


 カウンターの中でグラスを磨きながら、宇野君のお兄さんが言われた。

 なぜか、さっきから同じレコードをリピート。

 オフコースの『Yes-No』

 去年、街を歩けばどこかで耳にしてた曲。

 頼子はサビの部分に来ると何度も文句を言ってる。

 すごく聞きやすい曲で、あたしは好きだけどなあ…



「だって、恋をするのにお伺いたてるなんておかしくない?」


 …恋の仕方も分からないあたしには、答えようがない。


「確認したい時もあるもんだよ」


「そう?あたしは強引なぐらいが好きだけど」


「そんな事言って、強引な男とは合わないって捨ててたじゃないか」


 二人の会話を聞きながら…頼子、いったい今まで何人の方と、お…おおお付き合いを…?と、ドキドキした。

 あたしが紹介されたのは…一人だけだ。


「あれは…思いやりに欠けたからよ」


「頼子ちゃんの理想はエベレスト並みだね」


「ふーんだ…………るーの好みは?」


「は…はい?」


 突然話をふられて、身構えた。

 好み……好みって…


 昔、ママが読んでくれた童話の王子様みたいな…

 って言ったら、絶対バカにされるよね…?

 あんたいくつよ!!って、笑われちゃう気がする…



「か…考えた事もなかった…かも」


 小さく答えると。


「いいよ、るー。あたしがるーにピッタリな人見つけてあげるから」


 頼子は長い髪の毛をかきあげながら、不敵な笑みを見せたのよ…。

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