03

 がーん。


 教室に入ると、いきなり愕然する事態だった。

 …席が決められてる……しかも…男女交互列!!

 て事は、両サイドに男子がいるって事で…


 あたしは倒れ込むように自分の席につくと、さすがに新しいだけあって傷がないなあ…なんて、違う事に気を向けようとを机の表面を見つめた。


 …大丈夫。

 今までずっと一緒だったのに、同じクラスになったことすらない頼子と同じクラスになれた。

 それだけでも、じゅ…十分心強いわ…うん…そうよ。

 振り向いたら頼子がい…よ…頼子の席は…う…うわああ…頼子を振り向こうとするたびに、視界に複数の男子が入って…思うように頼子を振り返る事も出来ない…!!



「武城さん、頼子の幼馴染なんだってね」


「ひ…えっ…?」


 頭の中が真っ白になりかけてる所に…隣の席に座った男子から声をかけられた。


「俺、宇野 誠司うの せいじ。勇二とは幼馴染なんだ。」


 そう言って、宇野君が前の席を指差す。

 そこには、先ほど靴箱で握手を交わした瀬崎君が…いるようなんだけど…

 あたしはと言うと、その宇野君の指先を見るのが精一杯で二人の顔をまともに見る事も出来ない。


 もはや、気絶寸前。

 だけど…耐えた。

 …大丈夫。


 う…宇野君は、よ…よよよ頼子の友達の…瀬崎君の…幼馴染…

 …そう。

 二人は…あたしと頼子みたいな…幼馴染…



「よ…」


「ん?」


 初めての共学。

 せっかく声を掛けてくれた、頼子のお友達。

 あたしは意を決して、話しかけてみた。


「よ…よよよ頼子とは、どういう…知り合いで…?」


 すごい!!あたしすごい!!


「あー、俺の兄貴がやってる店に、頼子がよく来ててね」


「…店?」


 そこで、あたしの視線が宇野君を捉えた。

 店って…?


「昼間は喫茶店で、夜はライヴハウス」


「……」


 よ…頼子、そんな所に出入りしてたなんて…


 眉間にしわが入って、握り締めた両手もわなわな震えてしまった。

 そんなあたしの表情に気付いたのか


「あ、でも健全なお店だよ?」


「そ…そうそう。音楽を楽しむお店だから」


 宇野君と、その前の席の瀬崎君は、取り繕うようにそう言った。


「音楽を…楽しむ…お…お店…」


 そ…そっか…ちょっと胸をなでおろす。


「今度、武城さんもおいでよ。頼子となら大丈夫だろ?」


「え…えっ?」


「絶対楽しいから」


「……」



 …何だか…頼子の言ってた事が分かる気がする。

 二人とも、優しい。

 あたしが抱いてた、男子のイメージとは…違う。


 …あまり詳しくないけれど… 宇野君は、たのきんトリオのマッチに似てる。気がする。

 かすかな残像の宇野君を、頭の中でマッチと並べる。

 …マッチとトシちゃんの区別がつかなくて、時代にも話題にも乗り遅れてるあたしが言うのもおかしいけど…


 瀬崎君は…170cmの頼子が見上げてた。

 スポーツカットの爽やかな人。

 中学時代はバスケットで県代表だったと頼子に聞いた。



「あ…あの…い…いい一応…両親の許可を…」


 ポケットからハンカチを取り出して、握りしめてしまった。

 手の平…汗びっしょり!!

 だけど、うつむいてしまったあたしに対して、宇野君も瀬崎君も何でもないように…


「うんうん。家の人がいいって言ったら、みんなで色んな所に行こう」


 優しく言ってくれた。


 …頼子から、あたしの事…色々聞いてるんだろうな。

 その頼子の配慮と…宇野君と瀬崎君の気遣いに感謝した。


「…ありがとう…」



 恋が始まるとは思えないけど。

 それでも、友情が…まずはそこから、始まるといいな。

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