02

「…は…はぁ……はぁ……」


 やっとの思いで校門をくぐった。

 夕べは、登校と同時に共学校への入学の感動みたいな物が湧くかな?と思ったけど、そんな暇も余裕もなかった。


 常にあたしは挙動不審。

 なるべく男子を見ないように、目を細めて頼子の腕にしがみついたまま。


「ぷっ…あんた、その顔はないわよ。」


 頼子に笑われたけど、自分の顔がどうかって確かめる気力もない。

 決めたのは…あたしだけど…やっぱり、ハードルが高すぎる!!



「よーりこー」


 はっ…


 ようやくたどり着いた靴箱で、聞き慣れた名前が聞き慣れない声で呼ばれた。

 それが男子の物だと分かると同時に、あたしの身体に緊張が走る。



「あら、勇二。」


 頼子は、入学説明会の時に置いて帰った新しいシューズを床に置いて。


「これが、幼馴染の武城 瑠音」


 あたしの頭をグイとつかまえて言った。


 ひーーーーーー!!


「ああ、噂の。武城さん、はじめまして。瀬崎 勇二せざき ゆうじです」


「は…は…はははははじめまして…」


「るー、ちゃんと目見て」


 頼子は、さらにあたしの頭をグイと…


 いーーーーーー!!

 チラ…チラチラ…チラ……


「ははは…はじめまして…」


 限界。

 泡を吹きそうになってると


「本当に初めてづくしなんだね。楽しい三年間になるといいね」


 瀬崎君はそう言って…


「よろしく」


 あたしに手を差し出した。


「………よろしく…」


 つい、無表情になってしまった。

 だって仕方ない。

 あたしは、男性恐怖症なんだもの!!



「…ねえ、るー?」


 歩いて行く瀬崎君の後ろ姿を眺めながら、頼子が静かに言った。


「……ん?」


「るーは、男の子の事、誤解してると思うよ?」


「…誤解?」


「うん。乱暴で意地悪で嘘つきで…って思ってるんじゃない?」


「……」



 あたしが男性恐怖症になったのは、厳しかったおじいちゃまのせいでもあるけど…公園で会ってた男の子の影響。

 名前も顔も思い出せないほど幼い頃の出来事なのに、された意地悪だけは鮮明に蘇って、小さなあたしに纏わりついた不快感は、あれからずっと離れてくれない。



「るーが思ってるより、優しくて頼もしいんだよ?」


「…そうなの…かなあ…?」


「そうなのよ。だから、少しだけでいいから、バリアを緩めて」


「……」



 あたしのバリア。それが…完全に解除される日が来るのだろうか。

 だけど、それを目指してここに来たのも確か。

 あたしは、夢見てる。


 いつか、素敵な恋をしたい、と。

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