01
鏡の前で、全身をチェックする。
新しい制服。
胸のリボンがふわっとなって、それが新しいスタートを切るあたしを少しだけ笑顔にさせた。
あたしが選んだ共学の高校は、今年開校の
今年開校という事は、『先輩』という存在がいない。
そう。
男子生徒の数がダントツに少ないのだ。
苦手意識を克服するには、申し分ない環境。の、はず。
「おはよ」
門を出ると、頼子が待っていてくれた。
その制服姿に、あたしは一瞬口を開けてしまう。
だって…!!
同じ制服を着てるのに、頼子ったら…カッコいい!!
「頼子…やっぱり制服似合う!!」
あたしが頼子の腕に手を回して言うと
「あんまり嬉しくないけど、ま、いっか」
頼子は首をすくめた。
あたしの両親は世界的に有名な音楽家だ。
父は指揮者で、母はピアニスト。
そして、頼子の両親も、世界的に有名なデザイナー。
あたし達は小さな頃から一緒。
だけど、一人娘という共通点はあるものの、あたしと頼子は違い過ぎた。
長くてきれいな黒髪の頼子は、モデルのようにスラリとした長身で、両親のデザインした服をカッコ良く着こなしている。
頭が良くて、スポーツ万能で、常にあたしの自慢の幼馴染。
かたやあたしは…猫っ毛で、身長も高過ぎず低過ぎず。
特徴がなくて印象にも残らない自信があるほど、目立たない存在。
両親には有り余る才能があったと言うのに、あたしには何もない。
おじいちゃまが生きていた頃はバイオリンを弾かされていたけれど、才能がないと分かると、おじいちゃまはあたしに興味をなくした。
結局あたしには、何の才能もとりえもない。
その上、男性が苦手で恋をした事もない。
あたしの隣に頼子がいてくれるのは心強いし自慢だけど…
昔からあった当たり前みたいな環境に甘え過ぎている自分に気付いた。
あたしが共学に進学すると決意しながらも、両親に言えずにいた去年の12月。
夜、突然、頼子がうちにやって来て。
「知ってる?さっきジョン・レノンが射殺されたんだよ」と言った。
「明日は何があるか分かんない。ねえ、このまま女子校にいるよか、共学に進学しない?絶対損はしないから。」
何の根拠があってそう言ったのか…だけど、その頼子の言葉には妙に説得力があって。
そばでそれを聞いていた両親は
「そうね。そろそろ冒険しなきゃね」
と首を縦に振った。
「…そんな、思い付きで進路決めちゃって大丈夫なの?」
嬉しいくせに、そう問いかけると
「思い付き?閃きって言ってよ!!」
と頼子はあたしの背中を叩いた。
それから、遅い受験勉強が始まった。
BGMはジョン・レノンの『スターティング・オーバー』
その意味が『再出発』と知った時、ジョン・レノンの死が、頼子の思い付きが、あたしに道を与えてくれたと思った。
…そうだ。
あたし、変わるんだ。
そう…決意…したものの……
校門のそばまで行くと、さすがに期待より不安が大きくなった。
そして、ついには…足が動かなくなった。
だって…
ゾロゾロと…校門に向かっている男子生徒…
こんなに大勢の男子を目の当たりにした事がないあたしには、十分な眩暈案件だ。
…今年開校の共学を選んだ。
男子生徒の数が、ダントツに少ないから、と。
…だけど、ね。だけど、あたしにはクラスの半分が男子っていう事実さえ拷問。
家を出た時に比べて、今の足取りは酷く重い。
…大丈夫かな…あたし…。
「るー」
頼子の、いつもより少し低いトーンにハッとする。
「さ、行くよ」
胸を張って校門に向かう頼子の背中は、とても強く見えて。
憧れが、そこにある。と、思わされた。
…そうだ。
あたしは…変わる。
頼子の隣にふさわしい女の子になる。
あたしは、レンガ造りのレトロな雰囲気の校舎を見据えて…一歩踏み出した。
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