放課後
「どうやって海まで行こう?」
僕はそう提案した。
「とりあえず電車に乗っていかない?」
沙織はそう言った。
僕らは教室の外から下駄箱まで階段を下って行った。途中様々な生徒とすれ違う。その中に僕の知ってる人は少ない。
周りの人たちはまるで僕らに関心がないように生きていた。そしてそれは当然のことなのだ。
だけれど心のどこかで他人が自分に注目しているような気がしてしまう。そして一体他人は何を見ているのだろうと不思議に思う。
やはり生まれながらの過剰な自意識のせいだった。本当に意識を過剰に持つ人間が自分だったのだ。
沙織は下駄箱で靴を履き替える。僕もそれにならって上履きを下駄箱に入れて、靴を履き替えた。
「太陽の日差しが眩しい」
沙織は手を太陽にかざしてそんなことを言った。
僕も下駄箱で靴を履き替えて外に出る。秋の涼しい風が吹いていた。なんだか一年の中で最も心地が良い季節に感じた。
「確かに眩しいねー」
僕はそんなことを口にした。
「ねえ、優斗は圭介君と仲いいの?」
「え? まぁ」
僕は曖昧な返事をする。
「この間圭介君の噂を聞いたの。両親がこの間離婚したって」
「へぇー」
僕はそう言ったが、圭介からはそんな話は聞かされてなかった。
「二人は話したりしなかったの?」
「いや、いつも適当に話しているだけだから」
僕はそう言った。二人で下駄箱から校門まで歩いて行った。部活動の掛け声が聞こえる。僕は掛け声に耳を澄ませていた。なんだか高校二年生の頃を思い出した。
沙織は相変わらず、目元のメイクを鏡で気にしながら歩いていた。すごく可愛らしい目元だった。
校門の外に出ると解放された気分になる。なんだか今までの憂鬱が吹き飛んだようだ。僕は学校では神経を使うことが多い。
「なんか疲れたなあ」と僕は言って背伸びをした。
「海に行くのやめる?」
沙織はそう言った。
「いや、行くけど」
「なんでまた、海に行こうと思ったのよ?」
「うーん。なんとなく解放されたい」
「解放?」
沙織は不思議そうに僕のことを見ていた。
「そう」と僕は言った。
「何から解放されるの?」
「いろいろな重圧から」
「重圧?」
沙織は不思議そうに聞く。
「そう。重圧?」
「受験とか?」
「違う。そういう意味じゃない」
「じゃあ何?」
「えーと。言葉にするのは難しいなあ」
僕らはそんなどうでもいい会話をしていた。
二人で住宅街を歩いていく。なんだか僕は少しそれが楽しい。沙織といる時はいつもそうだった。彼女は僕のことを楽しませてくれる。
「ねえ、もしも嘘つきだったら」
歩いている途中僕はそう口にする。
「嘘つき?」
沙織はそう言って首をかしげる。
「そう、嘘つき」
「私も?」
沙織はふふふと笑う。
「嘘つきなの?」
「たぶんね」
沙織はそんなことを言っていた。なんだか頭が混乱する。
「沙織」
僕は狭い路地で呼びかける。
「何?」
「手つないでいい?」
「いいよ」
僕の手はじめっと汗で濡れていた。焦りからだ。
「急にどうしたの?」
沙織はなんでもなさそうにそう言った。
「なんだか、自分のことも世界のこともよくわからない」
僕は自分でもわけのわからないことを言った。
「そういうこと私にもあるわ」
沙織は僕の肩を撫でた。
するっと僕の心に恋を炎がともる。それくらい優しく沙織は僕の肩を撫でた。
僕はなんだか疲れていた。それでも海が見たかった。
「大丈夫?」
沙織はそう言ってほほ笑む。僕は急に気分が悪くなり、路上にうずくまる。急に世界の認識が混乱する。
「海に行くのやめる?」
沙織は僕にそう言う。
「うん。なんだか今日は調子が悪いみたい」
僕はそう言った。
沙織に手を引かれながら、僕は駅まで歩いていく。
「今日は家まで着いていくわ」
「ありがとう」
僕はそう言った。
僕は彼女に手を引かれながら、その日、家まで帰った。団地の前で彼女と別れる。
「今日はお疲れ様」
「うん」
僕はそう言った。
家に帰り部屋にこもる。ベッドにうなだれる。時々こういうことがあった。生まれながらに僕は頭が張り裂けそうな思いを抱えながら生きていた。
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