第3話 第151小隊 1

「さてと、待ってる間暇だから自己紹介でもどうだい?」

そう切り出したのは隊長と呼ばれていた男だ。

隊舎前での1件から中に入ったフェル達はガーネットが歓迎用の料理を作ってる間リビングで待つことにしていた矢先の一言だ。

正直、自己紹介などどうでもいいのだが、しばらくこの小隊にいなければならない身ではあるため、最低限名前くらいは知っておいた方がいいだろう、そう思い沈黙で肯定の意を示した。

「まあ、まず新人君から自己紹介してもらえるかい?」

「フェルだ。」

「……それだけ?」

不満げなのはルチアと呼ばれていた女だ。

「まあまあ、俺は嫌いじゃないぜ。だがよフェル。獲物くらい教えてくれねえとこっちとしても戦闘の時にフォローとかがしづらいってもんだ。それくらい教えてくれねえかい?」

「……これだ。」

意外な、しかも言い分としては正しいフォローに戸惑いながらもフェルが置いたのは剣の柄だ。

シンプルな構造に銀一色といった飾りっけのない物だが鍔がない。それが2本分、大きさは長剣のそれより少し小さめだ。

「ねえ……あんたこれ使えるの?」

ルチアが疑わしい目を向けているのも無理はない。

フェルが置いたのは魔法剣の柄だ。魔法剣は刀身を魔力によって形成するもので、故に刀身には重量がない。

つまり、実際の剣を振るうよりも肉体的な負担が無く、持ち運ぶ時は柄だけになるため邪魔にならないという利点があるのだが使うものは僅かしかいない。

なぜなら、とてつもなく使いづらいのだ。

本来なら流動的である魔力を一定の形にとどめる必要があるためかなりの集中力を要するが、戦闘中にそこまで気を使う余裕が大抵の者にはない。

そもそも、切れ味自体が魔力の質に左右されるため魔力に秀でる貴族くらいでしか必要な切れ味を引き出せず、貴族にとっては幼少時から慣れ親しんだ武器があるため魔法剣を使う必要がない。

そういうどうしようもない不利を抱えた武器それが魔法剣なのであり、新人が興味本位で持っては行けない武器であることには間違いない。

それが分かっているからこそのルチアの疑問であり、フェルもそれが分かっているからこそすぐに答えを示す。

フェルが柄を握ると音もなくペールブルーの刀身が形成される。その刀身に揺らぎはなく、むしろ美しいとさえ思えるほどだ。

だが、それだけではルチアの疑惑を解消する事は出来ない。

「――そんじゃ、まあ模擬戦やりますか?」

その隊長の一言にルチアとフェルは頷き、互いに軽装のまま隊舎前の中庭へと向かった。


中庭でフェルと相対しながら気に食わない新人だ、とルチアは思う。

コミュニケーションを取ろうとしない、先輩に敬意を払わない、挙句の果てに使う武器が魔法剣と来た。

実用性が伴わない武器を認めるわけにはいかない。認めれば、最終的に被害を被るのはこちらだ。

慣れ親しんだ細剣を抜きながらフェルの様子を見ると、あちらも自分の武器を構えるところで目を閉じてしばらくしてから刀身を形成した。

やはり、集中をする必要はあるらしい。

となると、予定通り速さと手数で撹乱し魔法剣を維持できなくなったところを攻めるのがベストだろう。

互いに武器の間合いより少し遠く距離を取る。なおもフェルは魔法剣をだらんと下げ構える様子がない。

絶対に考えを改めさせてやる、そうルチアは心に決め集中力を高める。

一瞬、場に緊張感が漂い、団長が試合開始の合図をし――

刹那、ルチアは容赦なく頭目がけて突きを打ち込む。

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