第2話 出会い

石造りの廊下に二人分の足音が響いている。先程の騒動が嘘のような静けさだ。

「そ、そういえばナッシュ小隊長と口論してたけど?」

しばらく続いていた沈黙に先に耐えれなくなったのは後ろを向いたガーネットだ。

聞き覚えの無い名前だったが、そもそも団内で絡んだ事のある人が少ないおかげで誰のことを言っているのかはすぐにわかった。

「別に。あっちが一方的に突っかかってきた。それだけ。」

「そうなんだ……気をつけてね?」

「何を?」

「家柄もあるけどナッシュ小隊長って団内での権力が結構強いから、何かされたら心配だなって。」

「大丈夫でしょ。あの人強くなさそうだし。」

「そういう事じゃないんだけど……」

苦笑いをする彼女は聞こえない程の声でそう言うと、会話を止め前を向いた。

フェルにはルーベルス家というのがどういう家かは分からないが、家名があるということは貴族階級である事に間違いはないだろう。

人間がそもそも好きでないフェルだが、貴族も例外ではない。長年の経験から7割程の貴族はろくな奴ではない事を知っているため、関わりたい人種であるはずもないのだ。

ちなみに、この聖騎士団の理念は「王国を守護すること」なのだが、そのせいか聖騎士団に入っていることは貴族にとってはかなり重要なことらしく、貴族の占める割合は高い。

そういった点を踏まえると確かに、貴族同士で徒党を組まれると自分にとってかなり面倒な事になる。

そう考えていると、

「着いたよ。ここが聖騎士団第151小隊の隊舎。」

目の前にあるのは簡素な木の扉。

『151』と鉄のプレートが打ち付けられているがそれだけだ。

「戻りました!」

とガーネットが扉を開けると、

パンッ!!という破裂音と鼻をつく焦げた匂い。フェルは咄嗟に横に跳び退き、腰に手を伸ばし警戒をする、が、

「おーい、悪かった悪かった。そんな驚かすつもりは無かったんだ。」

「すごい勢いで跳んだわね……」

そう言って出てきたのはいかにもだらしがないボサボサの黒髪の男と、いかにもしっかり者といった格好の女だ。こちらは、栗色の髪を後ろでまとめている。

「噂の新人君だろ?ルーベルスの坊っちゃんと揉めたっていう。まずは入りなさいな。」と、男はこちらに背を向け中に入ろうとする。

敵意が無さそうな事を確認し、付いていく。

前の男が片手に筒状の何かを持っていることに気づき、それが先程の破裂音の正体なのは分かるが火薬の匂いとは違う焦げたような匂いはなんだろうか。

そう訝しんでいると、

「隊長!料理したんですか!?」

「おうよ。是非とも新人君を歓迎しないと、と思ってな。」

「料理下手なの自覚してください!ルチアさんも止めてください!」

「仕方ないじゃん。席外してたら勝手に作ってたんだから。」

「ああもう!私が作り直します!」

という会話が聞こえてきた。

焦げた匂いは、料理に失敗した結果らしい。

「……下らない」

そう呟きながら、警戒を緩めフェルは中に入った。

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