泣かないで

@enadorioitii

最初、つまり始まり。

ある日、私の両親は死んだ。あっけなく、交通事故で。小説などではありふれたことだからかもしれないが、私はそれを聞いても何ら動揺しなかった。本の読み過ぎなのかもしれない。

しばらくするうちに葬式系統のイベントも終わってしまった。もともと友人がいなかったらしい両親。葬式に来たのは私とご近所さんと遠い親戚くらいで。

みんな私に同情したが、金銭的な手助けをしようとはしなかった。確かに、私立高校に通う金食い虫など、誰が面倒見るんだという話である。自嘲的と思うかもしれないけど、どう考えてもこれが事実だ。

だから、そこで傷付くことはなかった。人間の良心などこんなものなのだから。ちなみに、彼らは遺産を求めなかった。遺産はかなりの額ではあったが、そこは私への情けだったらしい。ただしこれは親族と私の手切れ金ともなった。



私は誰もいない家にただいまを言う羽目になった。学費は運良く免除されることとなり、どうにか出費を抑えて生活ができている。そんなこと必要ないくらいには遺産はあるけど、シンドバッドになるのは嫌だ。

食事は、毎日料理が出てきたあの頃とは違い、自ら台所に立って料理をしている。静かな食事、だがそこには気まずさではなく、孤独の影が漂っていた。



こんな日常が3ヶ月ほど続いていき、私は孤独感で狂いそうになっていった。『もう一人はいやだ、だれか、だれか!』心が叫ぶあまりに自分を見失いそうになる。

そのとき、私は自分の性別を思い出した。私は、十月十日の間孤独から自分を解放してくれる手段に気付いてしまった。

下腹部を優しく撫で、空っぽのそこに意識を向ける。そこに命が宿ることが、私には堪らなく魅力的なものに思えた。

だが、このときの私はまだ思い留まっていた。というより、孤独感がまだ理性を喰らってはいなかったというのが正しいかもしれない。ただ、この“気付き”が、全ての始まりであることはには間違いないだろう。

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