第11話(最終話)暴力男から幼妻を護衛任務
祭りの後の静けさのような余韻が残るなか、レイラは考えるように喋り出した。
「大人は色々と面倒くさいのう。最初から好きなら好きと言えば良いではないか。愛情表現が分かりにくいのじゃ」
市蔵はレイラの言葉を聞くと、門柱に刺さっている
「鶴余がわざとこのままにしておいたんだろ。お前に持っていてほしくて」
レイラは引き抜いたばかりの市蔵から鼈甲簪を奪い取ると、まだ崩れ落ちている成堅の手を引っ張り立ち上がらせ、成堅の両手に鼈甲簪を置いてしっかりと握らせた。
「おぉ。指一本所か全部の指がわらわに触れてもうたな。約束は早くも破られたな」
レイラは成堅に笑い掛けた。
「子どもは対象外だろ」
「言ってくれるわ。うぬがわらわを本気で殺す気がない事は感じていたわ。じゃが、何回もチビと言ったことは忘れんぞ」
成堅も鼈甲簪を懐にしまい、レイラに笑い掛けると
「傷は大丈夫か? 後で薬を届けさせてもらう。本当にすまなかった。そして、ありがとな」
成堅はレイラの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
「ふん。子ども扱いしおって、薬は源爺が持っておるから大丈夫じゃ。これから大変だろうな」
「まぁ、身から出た錆だ。仕方ないさ。待つのは嫌いじゃない」
成堅は、従者たちに声を掛けた。
「お前たちにも、個人的な事で迷惑掛けたな。この通りだ。すなかった」
成堅は頭を下げ、山道へと向かっていくと、従者たちも黙って成堅の後を続いた。
山道から少し横にそれた林に馬を止めていたのか、馬を引いて山道に戻ってくると、レイラと並んでこっちを見ている市蔵の方を、振り返り深々と頭を下げると大声で叫んだ。
「一宗様、今は市蔵様でしたね。貴方の剣術の腕前は噂以上でした。大きな借りが出来申した。必ず返しますので、お元気で」
市蔵は微笑んで、無言のまま、軽く片手を上げて応えた。
「さっ。他のやつらのことも気になるし、俺らも一旦、城下町まで戻るぞ」
「イチや。その前にわらわに言うことがあるじゃろ?」
市蔵は少し悩んだが、身に覚えがあったようで、苦笑いをした。
「レイラは反射神経が、抜群に良いと言っていたから簪は避けられると思ったんだよ。俺はレイラを信じてる。レイラ可愛い。レイラ最高」
レイラは、ため息をつくと市蔵の手の甲をつねり
「イチが『俺の目を良くみろ』と、言っていたときに、一瞬だけ鶴余の簪をみたじゃろ。その時は分からなかったが、鶴余が髪に手をやった時に全て合点がいったわ。わらわが、悟らずに刺さってたら、どう責任を取ってくれるのじゃ?」
市蔵は、痛がりながらも丁重に答えた。
「鶴余には奥の門柱に刺さりやすい様に、調度良い高さだった、レイラの頭上辺りを、力の限りおもいっきり真っ直ぐ狙え。とだけ伝えた。俺は本当にお前を信じているから言えたんだよ」
レイラはつねっていた指を逆に捻った。
「痛い、痛い。レイラ悪かった。何でも言うこと聞いてやるから離せ」
手の甲から捻っていた指を話すとレイラは澄まし顔で希望を伝え始めた。
「毎日、昼四ツ(午前10時)と八ツ半(午後15時)に金平糖とカステラを用意して、わらわが眠くなったら、腕か膝を枕代わり貸すこと。わらわの料理が不味くても文句を言わず食べること。わらわのお喋りに適当な相槌をしないこと。わらわの我が儘は、おねだりだと思うて、しっかり聞き届けること。そして、わらわを不安にさせず、置いてけぼりしないこと」
市蔵は、困ったように髪をかくと
「さすがに多いな。最後のだけは必ず守る」
「それで良かろう。許可する」
レイラはお天道様にも負けない、満面の笑みで答えた。
一部完
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