記憶の継承

楽器を片手にゆっくりと立ち上がった彼は赤い布を肩にさげて微笑む、長い蒼銀の髪はまっすぐに伸ばされている途中で軽く縛ってあるそれが風でふわりと浮く、長い前髪は揺られて切れ長の美しい青い目を見え隠れさせている、見据えられたミエルはまたざわりとした感覚を覚える


「ぼくもざわざわする……ぼくに触れてくれる?」


長くてしなやかな手を差し出される、ミエルは迷わなかった


「ずっと……もう誰もいないかと思ってた…」


「……そうだね…ぼくもそう思っていたよ貴方を見るまでは」

指先が触れあうとあの不思議な感覚が薄れてゆく、それにかわって何かに引きこまれていく感覚に身体がかたむく、それを彼がそっと支えて座らせてくれる


「これは……貴方のもの?」


「…不思議だよね……共有してるみたいで」


彼がミエルのフードを取っていく


「…綺麗だ…」


ミエルの蒼銀の髪に触れようと手を伸ばす


「そこまでだ。」


深く引きこまれているミエルには周りの音は遮断されていて聞こえない


「……君は、ミルズ皇帝だね、ミエルを虐めるのはよくない事だよ」

「─よく俺の事をしっているようだな、だがそれ以上触れたらお前を牢屋に入れるぞ」


蒼銀の髪を揺らして頭を左右にゆっくりとふる


「出来ないよ…貴方は本当は優しい人だから」


そういってミエルの額に額を合わせると涙を一筋美しい顔に流した


「ミエル……可哀そうに…こんな重荷をたった一人で背負うのかい……」


そう呟いた言葉にインシグがこわばる。ミエルはまだ意識を深く沈ませたままで座り込んでいた


「お前は誰だ……」

「ぼくは…セーム……ミエルと同じ旅人だ」


インシグはセームからミエルを離す、目は開けていても虚空を見つめる身体はぐらりと傾くそれを支える


「…まだそっとしておいてあげて、時間を旅しているんだ……」


そういって白い手をミエルに伸ばすそれをインシグは掴むと


「触れるな」

「ぼくの記憶を旅している途中なんだ、今やめたらミエルは戻ってこれなくなってしまうそれは……こまる…」


周りのテントから何人かがこちらを伺っている様子に気付いたインシグは軽く舌打ちすると


「お前は、ここで働いているのか?」

「…違う、ぼくは奴隷だ」

「───よし、お前は俺が買う。ついてこい」

「勝手な事はやめてくれるかな……」


セームはインシグを見つめ返す


「ミエルのためだ、わかるな?───イナトここの責任者と話を付けてこい」

「了解いたしました」


背後に控えていたイナトが礼を取る



 




 宿に戻ってきたインシグは抱きかかえていたミエルをそっとベッドに戻す、静かにそれを見守るセームに


「どうすればミエルは戻ってくる?」

「記憶を旅しきれば戻ってこれるよ…僕たちはこうして記憶を継承していくんだ、そして旅する───長い時間を……けれどミエルは継承がなかったようだね、母親

をあんなふうに失うなんて……」


悲しそうに話すセームは長い睫毛を伏せる


「お前達は、記憶を読むのか?」

「…簡単に言えばそうなのかもね、だけど…そんな簡単なものじゃない。これは生きる術で生かす術でもある……君達には到底理解できない事だよ……今すぐにミエルを解放してあげてほしい、彼女は苦しんでいるたった一人で……」


セームがさらりと赤い布を翻してベッドに腰をおろすとミエルの額に自分の額を当てる


「そこにいて構わないよ……ぼくは彼女に何もしないから、貴方と違って…」


それにふっと笑ったインシグが側にある椅子に座ると


「そうだな、お前みたいにお上品ではないからな。俺はミエルに言わせればど鬼畜

らしいお前も気をつけろ何をするかわからないからな」


長い足を組んだインシグは夕日を浴びて輝く二つの月をただ見ているしかなかった 


 ふわふわとした足取りでミエルは草原を歩いている、そこはいつか夢で母と会った場所で暖かい日差しが見渡す限りの草原に降り注いている


『母さん、父さん、どこまで行くの?』

『どこまでも行くんだよ』

『ねぇ、どうして僕達には帰る家がないの?』

『旅をする者だからよ、きっと貴方にもわかる時が来るわ』


蒼銀の髪を持つ家族は幼い子の手を引きミエルをすり抜けていった、ざあっと風が流れると季節が眩暈も起こすほどに目まぐるしく変わっていく、足元に広がるのは雪原で鋭い山々がそびえるそこには赤い物が点々と続いている


『母さん!母さん!死なないで!』

『セーム、さあ立って歩くんだ……』

『なんでっ?なんで母さんは殺されなきゃいけなかったの?僕達何か悪い事したの…?』


母の躯に泣きすがる男の子の身体を父親は抱きしめていた


『セーム…私達は使命があるんだ、だから伝え歩くんだ……ずっと昔からそうして導いてきたんだ。大勢の人がその事を忘れてしまっているだけなんだ』

『いやだ……ぼくはそんなことしたくないっ……あいつらさえいなかったら母さんは死なずにすんだ!』


強風に煽られた雪が親子の身体に容赦なく打ちつける


『みんな死んでしまえばいいんだ!』


叫んだその声が胸に突き刺さる

真っ白に塗り替えられた世界ではミエルは宙をさまよう、ぽつりと頬に触れた水の感触に目を開く、水底から見上げるそこには苦しそうにもがくセームがいる手を伸ばすけど届かない、くぐもった声が聞こえてくる


『この疫病神が!てめえが道を間違えたせいで商売ができなかったじゃねぇか!』

『お前のせいで何度儲けを逃したとおもってやがるんだ!』


水に押しつけられている顔にはいくつもの痣や傷が血を滲ませている。蒼銀の髪が水面に揺らめいている



 「泣かないで…ミエル」


夕日に照らされた室内のベッドで寄り添うセームがそっと頬の涙を拭う


「何をみているんだ?ミエルは」

「記憶だよ……」


額同士を繋げたままで続ける


「ミルズ皇帝、ミエルをぼくにあずけてほしい……」


椅子に座るインシグは足を組んだままで両手は肘掛に置きいかにもと言った体で言い切る


「それは出来ないな」

「…なぜ?」

「お前に話して聞かせる事はない」


同じ部屋ではイナトがドアの前で警護している、きっちりと正面を見据えてはいるがこちらの話しを聞き逃さないようにしているようだ


「そう……あなたじゃミエルを護ることも、幸せにすることも出来ないのに縛り付けるの?」

「……」

「アライナス王と同じ、だね。やはりあなたもただの……人の子だ……淘汰されるべき種族」


切れ長の透き通るほどの青の目がわずかに光を帯びる、


「……!お前もミエルと同じというわけか…」


異変に気付いたイナトは素早く剣を抜くとベッドにいるセームの喉につき当てる


「今すぐにやめなさい──」


鋭く磨かれた剣が喉元にあってもセームは微動だにしない、それどころかくっと首を近づける、一本の赤い線から血が流れる


「ぼくのはミエルのとは少し違うんだ……でも頭が離れる前に目の前の一人くらいなら、殺せるよ」


どくどくとインシグの鼓動が速くなる、椅子に座るインシグは眉ひとつ動かさない


「このまま鼓動が、加速して……耐え切れなくなった心臓はどうなると思う?──沸騰するかのように拡張されていく血管は破れて、やがて体中から血が噴き出す……」


インシグの背中に冷たい物が流れる、毒を飲んだ時の感触を思い出す


「やめるんだ!」


イナトの怒声がセームにかかっても、セームはインシグをじっと見つめる


「……イナト、下がっていろ…」

「インシグ様、しかしこのままでは!」


イナトがぎりっと歯ぎしりさせるも剣を収めようとはしない


「セーム……」


その呼びかけにセームは目の力を抜いた、額を合わせるミエルの頬には新しい涙が流れている


「…ごめんね…いつまでもその記憶じゃつらかったね……次の扉をあけよう……」


インシグは肩で息をつく、その顔には汗が流れていた。イナトはやっと剣を降ろしたが鞘に納めることは終始なかった



 水底で行き息苦しさにもがくと水面に身体が浮く、そこは闇夜だった鋭い三日月だけが浮かんでいる


『な、なぜ……ぼくはどうなるんです…』

『お前の父親はまだ使えた方だったからここに置いてやっていたんだが、お前はまったく役にたたねぇ』


セームが男達に囲まれている


『そしたらちょうど、この方がお前に目を付けてくれてな…よかったじゃねぇか!せいぜい可愛がってもらえよ』


下卑た笑いが響く


「見なくていいよ、このさきはね……もっと先へ行こう」


後ろから目を覆われたミエルはさらに記憶をさかのぼっていく




すっかり日が落ちた部屋でミエルは記憶から目を覚ました

上から見下ろすのは蒼銀の髪のセームだ


「お帰り」

「────ただいま……」

「……ミエル、もう止めてぼくと一緒に…行かないかい?…」


「…わたしと…」


ミエルが起き上がると椅子にインシグが側にはイナトが居る


「答えてやったらどうだミエル?」


インシグが冷たい声で促す、セームは美しい顔をかしげる


「今すぐにとは、いわないよ…まだ時間はあるからね、それに……ぼく次はこの人に買われたんだ……勘違いしないでねぼくは男性が好きなわけじゃないから」

「買った? インシグがセームを買ったの?」


鋭く息を吐くと椅子から立ち上がったインシグが


「俺も男をどうこうする趣味はない!お前だって奴隷から一市民になれてよかっただろうそれとも芸団に戻りたいっていうなら即刻もどしてやる」


セームとインシグが睨みあう、オオカミVSウサギの構図だ


「戻すって……ならわたしがインシグからセームを買うわ!」

「「はぁ!?」」

「……ミエル、ありがとう」


背後に雷をしょったインシグとイナトがミエルを見下ろす。セームがミエルの手を両手で握る、セームの頭をがっちりと掴んだインシグと手刀を振り下ろすイナトが同時に動く


「いいか、お前だけには絶対に売らん!」



 



「ミエル様……あれっほど大人しく待っていてくださいと申し上げましたのに…」


紅茶色の髪をもえがらせて怒るメイアの前でミエルが椅子でうなだれている


「これには深い事情があってね、ね?…」


上目づかいで大きな目を潤ませながらこてりと首をかしげる


「!」


胸を押さえたメイアが頬を染める


「だめよっメイア…今日という今日は許しません!私達の堪忍袋が我慢の限界なのです!」


強気な口調でリリアーナが、花柄の壁紙が美しい壁に向かって話す


「いや……リリアーナ、ミエル様に向かって話さないと」

「だって、ミエル様を見たら許してしまうでしょうっ」


ぷるぷると震えるリリアーナにミエルも降参するしかない


「──わかった、確かにわたしが悪かったわ。だけど必要があれば何度だってするから」


ぷいっとそっぽを向くミエルに


「そうですか…私達も鬼ではありませんものミエル様の致し方ない事情も考慮してさしあげます。ね?リリアーナ」

「そうですわね…仕方ありません…もう遅いですし、お休みになって頂きましょう…」


やっと解放されたミエルはすごすごとベッドに潜り込もうとする


「ミエル様のお部屋はこちらですよ」

「え?今日は別々の部屋なの?」

「そうですよ、新しく同行される方が増えたので部屋割がかわったのです、ご案内いたします」


(セームの事かな?)


インシグに買われたセームはこのまま視察団と行動を共にする事が決まったのだ。あのまま芸団に戻されるなんて事になったらまたあの様な扱いをされるだろう、痛々しい傷や痣鞭うたれた姿などもう見たくなかった

比較的大きな街であるこの宿はシックな造りで廊下にも美しい絨毯が敷かれている。月光石で満遍なく照らされた廊下は明るい、壁には風景画がかかっていて色彩も鮮やかで目を引くその廊下の両脇に部屋が設置されていて、野営の多い騎士団も今日はまるっとこの宿に収まっている

付きあたりの部屋まで来ると前を歩いていたリリアーナがくるりと振り向く


「本日お休みになって頂くお部屋はこちらです」


重厚な扉はいかにも特別な人間用だ…


「いや……ここインシグの部屋でしょ……」


後ずさりを始める背後のメイアに背中が当たる


「今日という今日はお仕置きが必要だと判断いたしました」


すでに重厚な扉をノックするリリアーナ


「はい──おや?どうされましたか?」


イナトが顔を出す


「何でもありません道に迷っただけです失礼いたします」

「ミエル様のご逃亡を阻止するには私達では手に余りますのでお連れ致しました」


メイアの横を通り抜けようとするミエルにリリアーナが必死で捕まる


(インシグ様のお部屋も十分危ないけどなぁ……)


内心そう思っているイナトに背後から声がかかる


「誰だ?」


扉をなるべく薄く開けるだけにしたイナトが後ろを気にしながらもどう答えるか迷っていると


「ミエル様を預かってくださいっ」


引きずるように逃げようとするミエルにしがみつくリリアーナが訴える


「騒がしいな…なんだ?」


陽光色の髪をしっとり濡らしたインシグが扉を大きく開ける


「皇帝陛下!し、失礼いたしました……」


メイアが礼を取る


「メイアか構わん、何を騒いでいるんだ?」


そこで廊下を這いずるリリアーナとミエルが視界に入ると怪訝そうな顔をする


「そ、それが先ほどミエル様の逃亡癖についてお話をしたのですが……ミエル様がまた逃亡すると宣言なさって──私達の手にはおえないと判断いたしました……あのそれで」

「ほう……脱走の宣言か。なるほどな。それはそれは……」


完璧に見下した口角だけを上げたインシグの顔は目が笑っていない。


「イナト、ミエルは次はどこへ脱走すると思う?」

「へっ?それはセー………さあどこでしょうね…厨房とかですかね。ハハ」

「俺には手に取るように想像がつく」


冷気を感じて周囲が静止する中


「クックック…ちょうど試してみたい拘束具があったな、ミエルに感想を聞いてみるとするか」


コツリと一歩踏み出すほどにすごみを増すインシグにミエルが青褪める


「ご、ご冗談を……」

「冗談に聞こえたかな?謝罪しよう本気だ」


口だけで笑うインシグに衿を掴まれずるずると部屋に連行されていく、部屋の中にいたイナトに親指で合図を送るとインシグはバタンと扉を閉めてしまった

外に出されたイナトが頭を抱える後ろではメイアとリリアーナが祈るポーズを取っていた

 ソファに投げ出されたミエルはすぐに態勢を正す、そこには仁王立ちのインシグが見下ろしている、風呂上がりのインシグの髪から滴がぽたぽたと絨毯に落ちている

白い夜衣の上から紺のナイトローブをはおっただけの姿に


「髪かわかさないと、風邪ひくわよ?……」


(とにかくこういう時は話をそらすのが一番よ)


「あ、暖かい飲み物をとってきましょうか?」


どんどん冷気が増していく無表情のインシグは微動だにしない。ミエルは下を俯いて絨毯の模様である花を数える


(だめだ、花が細かすぎて…)


今度は壁紙の花柄を数える。ちらりとインシグを伺ってもまだ動く気配はない


「お前は行くのか?」

「はい?」


数えに没頭していたミエルは何を言ったのか聞き取れなかった


「お前はあの男と行くのか?」

「どこにですか……」


インシグが何を指しているのか気付くが、簡単には出るはずもない答えをせまられて困惑する


「記憶を共用したのだろう、セームから聞いた。お前達の一族は旅する者だとも」


(俺が知りえない物までもセームは知った、会ったばかりの男がいとも簡単にミエルに触れた)


俯くミエルの蒼銀の頭を見下ろす


「…旅する者…今までそれが何を示しているのか解らなかった、でも今日セームが教えてくれた。よくわからないけど……セームと離れてはいけない気がする…」

「ではお前は責任を捨てて去るのか、さすが姫神だな。ミルズに来たのも和平を背負ってきたのだと思っていたがとんだ見当違いだ、今回の工事もやはり疲弊させるためだけの物か、多くの戦争を生み出したのも自分勝手な理由だったんだろう!」


矢継ぎ早に言われミエルは俯いたまま


(そう、思われていたんだ…違うわたしがそう思わせていた、だからこれでいいのよ、嫌われていたほうが都合がいい…)


「何を勘違いしていたのかしら──最初からそうだと言っていたじゃない。勝手な妄想をしてわたしを責めるのはお門違いよ」


言っている間に身体の芯が冷えていく錯覚がする、まっすぐに見て言えればよかったのにインシグの顔を見るのが怖かった


「その通りだな。───だが俺は約束は違えない主義でな」


どかりとベッドの淵に腰を下ろしたインシグは俯くミエルと視線を合わせる


「工事を三年以内にという約束だったな、その約束が護られた暁にはお前を自由にしてやる。好きに生きるがいい、だがそれまではどこに行くことも俺以外の男に揺らぐのも許さない」


ミエルは笑って見せた


「約束、ね」


(もしその約束が護られた頃には、わたしは殺さなきゃいけない)


突き放された言葉が予想以上に辛くて、胸が熱くなる、これほどまでに他人に踏みこまれていたのだと思うと情けなくて自嘲する笑いがこみあげてくる


「お前はこっちで寝ろ、俺はソファで寝る」


そういって上掛けを引っ張り出すと、どけと言われたミエルは重い足取りでベッドに潜り込んだ、室内の明かりを消され真っ暗になった室内に衣ずれの音がする、どうやらインシグもソファに戻ったらしい。沈み込むようなクッションに頭を預ける横向きに寝ている先に大きな窓がある、その先の暗闇に目をこらすとわずかに星が瞬いている、雲が薄く空に幕をはっている


「明日は……曇るわ……」


呟いた声が静寂に飲まれていく、只一人暗闇に居る。


(何故だろう……何故インシグなら理解してくれるかもと思ったんだろう)


目頭が熱くなって涙が込み上げる、声だけは絶対に漏らさないように唇を強く噛む、鉄錆びの味がしたってかまわなかった




































































「見なくていいよ、このさきはね……もっと先へ行こう」

後ろから目を覆われたミエルはさらに記憶をさかのぼっていく




すっかり日が落ちた部屋でミエルは記憶から目を覚ました

上から見下ろすのは蒼銀の髪のセームだ

「お帰り」

「────ただいま……」

「……ミエル、もう止めてぼくと一緒に…行かないかい?…」

「…わたしと…」

ミエルが起き上がると椅子にインシグが側にはイナトが居る

「答えてやったらどうだミエル?」

インシグが冷たい声で促す、セームは美しい顔をかしげる

「今すぐにとは、いわないよ…まだ時間はあるからね、それに……ぼく次はこの人に買われたんだ……勘違いしないでねぼくは男性が好きなわけじゃないから」

「買った? インシグがセームを買ったの?」

鋭く息を吐くと椅子から立ち上がったインシグが

「俺も男をどうこうする趣味はない!お前だって奴隷から一市民になれてよかっただろうそれとも芸団に戻りたいっていうなら即刻もどしてやる」

セームとインシグが睨みあう、オオカミVSウサギの構図だ

「戻すって……ならわたしがインシグからセームを買うわ!」

「「はぁ!?」」

「……ミエル、ありがとう」

背後に雷をしょったインシグとイナトがミエルを見下ろす。セームがミエルの手を両手で握る、セームの頭をがっちりと掴んだインシグと手刀を振り下ろすイナトが同時に動く

「いいか、お前だけには絶対に売らん!」

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