姫神付きメイドの受難 2

 ミルズ国 中央区間サイルズ 王立図書館 重要機密保管区 古文書室



「おや?それは王城からの書簡じゃないのかな?」


 紅い蝋封された書簡をもった騎士が図書管内の役員に書簡をわたしている時だった、手渡された職員は震える指で書簡を受け取ろうとしていて、発言の持ち主に目を瞬かせる


「あぁ!!丁度いいところへ~!クローム様!陛下直々の書簡だそうです~!」


 瞳に涙をたっぷりとふくませて駆け寄って来る


「サシャそろそろ、わたしの名代をしてくれないといつまでたってもわたしは多忙のままで、このままでは私は倒れてしまいそうだよ?」


 そういいながらも、サシャから書簡を受け取ると、蝋封を開ける、インシグの字で間違いないあいも変わらず美しい字を書くものだと感嘆する、インシグとは級友で2年ほど学業を共にした、通常は4年なのだがインシグは秀でた才能で2年という快挙で卒業してしまったのだ。クロームは現在王立図書館の筆頭書院の院長として務めている


「クローム様?なんと書かれていたのですか?」

「うん。近々皇帝陛下がここを訪ねてくるそうだ、お忍びでね。秘密部屋を秘密裏に拝見したいそうだよ、サシャお前には誰が陛下かわかるようにしておくから、私がいなくてもきちんと対応するようにね」


 にっこりわらってサシャを見ると、サシャは白目を向いていた。




 ミルズ城



 色々と残念すぎるこのアライナス王女の世話係として、周りからは最初、同情や不憫などを寄せられていた

 当初二人もその通りだと考えていて、こうなったら何としてもこの国から追い出してやろうと意気込んでいたが、もはや二人からは、この王女を何とか一人のレディにしてあげなくてはと親心にも似た感情しかわいてこなくなってしまってきていた

 クッションからガバリと顔をあげたミエルが


「王立図書館に行くわ!」

「「はぁ!!!???」」


 顎が外れるかと思うわ!!何言いだしてんの、この人!馬鹿なの!?


「………メイア‥‥わたしはそこまで馬鹿では、ないと思う…」


 声に出してしまっていたことにびっくりしているメイアだが、もうここまできたら言うだけ言わなければと制服のスカートを強く握る


「ミエル様、いいですか。今しがた陛下は許可しないとおっしゃりました、その通りです。

 貴方様はどこにいっても、悪意の的なんです、表に出ればただでは済まないのですよ‥‥わかってください」


 横でリリアーヌがいい事言ったわ!とばかりに頷いている。ミエルはクッションに指を沈めたりしながらも黙って聞いているようだ


「アライナスではね‥‥あまり書物は読めないの。いろんな歴史に触れてみたい、知りたい、の世界のことを。だから・‥‥」


 蒼銀の髪を揺らしながら、そっと外に目をやるミエルに心が締め付けられる…

 確かにここに来てから一歩も外を歩いていないミエルは今は軟禁状態で、それは多少なりとも親心を持つ二人にしてみれば同情できる出来事でもあった

 だから


 今の状態は別にほだされたとか

 子犬みたいなミエルにキュンとしてしまったとか、そういう事では断じてない!兵舎にいって、兵装を探して声をかけてみるが、どの兵士もいま余っている兵装はないという困った二人は、倉庫で相談中だ。


「余ってないなんてことありえるのかしら…?」

「ま、まさか陛下に感づかれてしまった、とか?」


 アハハ、まっさかぁ‥‥とメイアとリリアーナは血が引く思いになる。


「考えてもみて、もし陛下が気づいていたら、私達牢獄にはいってるわよ」

「‥‥それもそうね!メイアの言うとおりだわ…!」

「こうなったら騎士寮の誰かに兵装を譲ってもらいましょう!」


 しっかり者のメイアの言葉に大きくうなずいて倉庫を出た二人はいそいそと騎士寮に向かった

 騎士寮に入る前に、門番室で入室の許可を取らなければいけないので、恋人がいるとか何とか言って入室許可を取ろうと決めた、いかつい扉をノックすると、騎士から入室を促される

 事務的な事をする部屋ということもあって、内装は質素だが、奥まった部屋に案内されると、そこにはいるはずのない人物がデスクに頬杖をついて、にこやかに二人をみやっている。

 イナト=シュレイン この騎士団を総括する人間だ。陛下の左腕と言われ、歴代きっての剣技をもつ美丈夫だ。真っ白な髪をサイドにたらして、金色の目で上目遣いで見られていると、心臓を射抜かれたような気分になる。


「珍しい、ここにレディが来られるとは、何か御用ですか?」


 メイアは内心、いやいや総裁がここにいること自体が珍事ですよ~~と泣きたくなる。だがここはミエル様の親────いなメイドとして役目を果たさなければと勇気を奮い立たせる


「あの、実はとある騎士にお会いしたくて、その許可をいただけませんか?」

「ほう、とある騎士とは誰でしょうね?」


 椅子からゆっくりと立ち上がったイナトは窓際に立ち、騎士寮の中庭を見つめる


「そ、それは申し上げられません…人に知られてはいけない仲でして…」


 そう発言したメイド───確か名をメイア=リンドヴァーヌ 地方貴族の第二子だ。なかなかの度胸持ちだと感心する


「そうですか、ではそのメイド服でその秘密の騎士に会いに行くにはよくないでしょうね‥‥自分も是非協力させていただきましょう。そうですね───明日もう一度ここへお越しください兵装をご用意しておきましょう」

「えぇ!?」


 こんなにすんなり嘘が通るとは思ってもみなかったが、目の前のイナト総裁がそう協力してくれるならしめたものだ!リリアーナもメイアの手を取って、よかった! と目をうるうるしている


「あ、ありがとうございます!」

「秘密の騎士・‥‥あなたに思われて果報者ですね」


 にっこり微笑むその姿も壮絶に美しかった‥‥‥

 イナトはまた視線をメイアから話して中庭に戻す、秘密の騎士ミエル様もよほどの手練れだと見える、この健気で賢いメイド達を簡単に篭絡してみせる。

 さっそく午後にでもインシグ様にご報告しなくては、と居慣れない門番室を出た


「じゃぁ、明日兵装をもらえるならば、王立図書館に行くのは明後日にするわ、あとはこの、ヘアピースもあるし」


 リリアーナの持ち物だ、彼女は自分の赤髪を気にしているようで茶色のヘアピースを余所行き用に用意していたらしい、燃えるような夕日のようできれいなのにもったいない、といったら顔まで真っ赤にしていた

 メイアもリリアーナも同行すると意気込んでいたが、二人にはミエルはこの部屋にいることにしてもらうというためにもここにいてもらわなければいけない、もしミエルが抜け出していても、廊下で番をしていて気付かなかったといえば、罪もなくてすむ。



 執務室


 イナトが部屋を訪れると、恐ろしい顔をしたフィノとジェイドがインシグとデスクをはさんで対峙していた


「おや?イナトこの時間は騎士達の訓練時間では?」


 そういうフィノの手には分厚い資料が乗せられている


「はい、そうなんですが、インシグ様に報告があって────どうしたんです?三人して」

「それがさ、面白い事になってるんだよ、あの王女様がミルズ国が臭いって───ぷふー!」

「臭い!?」

「我が国が臭いっていうなら、アライナスは腐ってますがね」


 モノクルの奥の目をひきつらせるフィノはあきらかに、今年はじまって一番に怒っているようだ


「ミエルは遠回しにだが、この国の足りていない箇所を的確に示してきている。流民を受け入れてから、ミルズ国の浄水下水に関しては疎かになっているだろう、河川にしても氾濫などの抑止工事などは何十年前にした記録しか残っていない。仕事が斡旋できかねている流民に関しても、一部からは批判があるときいている」


 インシグは膨大な書類、記録らをつぶさに見て、こめかみに指を押し込む、


「陛下、前王が引退なされてからわずか3年で、内政から毒を出し、無駄な経費削減、はたまたアライナスに追われた流民達の受け入れや配給など多岐にわたっております。」


 フィノが言うことも正論だ、国民誰もがそう言うだろう、それまでのミルズ国は腐敗していたのだから、貴族は税金を払うこともなく平民は高い税金を搾り取られ、政治は身分にとらわれ自身の財産を肥やすためだけに使われていた。

 このすべてを改革し、わずか三年でミルズ国を建て直したインシグは異才ともいえる

「フィノ、一国の王はこれだけしたから、それでいいと言ってしまえば、終わりだ。進みをやめた国は亡びる」


 インシグの厳しい言葉に内心フィノはよくぞそうおっしゃってくれたと安心する。もしここで肯定されてしまったらフィノはインシグにきつい一発をお見舞いしなくてはならなかった


「じゃぁさ、インシグはどうするの?いっておくけど三年以内って相当無茶しないとだめなんじゃない?」

「今、軍事費を割く余裕はない、いくら和平交渉でミエルをよこしていたとしても、アライナスは隙を与えればすぐにでも進行してくるだろう」

「商業、農業、土木工事費などにもこれ以上の経費削減は望めませんね。」

「フィノ経費削減はしない。」


 三人一様に首をかしげる


「この件にからむ工事に関しては、商業商会にしてもらう。」

「商会ですか‥‥‥?商会自ら国のために金は使わないと思いますが」

「あんなあくどい連中が慈善事業なんてするわけないじゃん~」

「しかし、利益がからめば動くだろう?

 河川に関しては河川敷にコクリの木を植える」

「コクリ───高さは成木でおよそ10M実は年に二度実をつけ、実はコクリ酒や粉にして主材料としても使えるってやつだね~」


 フィノとイナトは顔を見合わせる


「ジェイドにも知らないことがあったようだな、コクリ木はどうやら薬にもなるらしい、それを商会の管理下に置き、利益は商会のものとする。労働者に関しては流民を雇用してもらい、きっちりと管理してもらう、工事期間中に採用した人間については、称号剥奪され、手放された貴族家を使用しそこに居住させる」

「それならば、コクリ木の利益は相当なものになるでしょうね…商会は動くでしょう、流民の問題もおいおい安定していくでしょうし、商会には私が事案をまとめて書簡にして送りますがよろしいですか?」

「草案は俺がまとめておく、書簡や商会との交渉はフィノ、お前に任せる。」


 ソファにどっかり腰をおろしたジェイドが指を噛んでしぶい顔をしている


「‥‥‥もっと知識を集めないと‥‥‥おれの知識がインシグなんかに負けるだなんて……明日はきっと嵐だ……」

「……失礼なやつだな……それとフィノ。コクリの収入が見込めるまでの期間の費用は国家資産から捻出させる、そのうち商会もコクリの商品に価値を見出せば特許申請もだすだろうから、そのときに特許申請にそれなりの要求をする。」


 一通り話を得たインシグだがもっと案をださなければならない事が多い。こめかみに指をあてる仕草のままに


「とにかく…みんな下がれ、俺は忙しい。各自指示した通り動くように」


 ぶつくさいいながら退出していくジェイドを先頭にフィノも続くと、執務室を出る間際でイナトがインシグに向き直る


「インシグ様、動きましたよ。」


 と一声かけて退出していったのを見送りながら、インシグは予測通りに動くミエルに軽いもんだと笑みを浮かべた。








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