婚約第一歩
晩餐に向けて午後から支度されるはめになったミエルは
メイアとリリアーナは入浴も手伝うといわれたが、それだけは遠慮させてもらう
アライナスではすべて一人で行ってきたし、ドレスというほどのも着たことがない。
普段着はシャツにトラウザーかもし、父王に呼びつけられた時などは、腰もしめない胸も開かない袖口がゆったりしている物を着ていた
浴室から出ると、リリアーナが髪を乾かし、梳いてくれる、初見で髪をばっさり切っていたので、メイアがハサミで整えてくれた、化粧もといわれたが窮屈だったのでそれもいらないとつっぱねた
今宵だけはインシグのご機嫌をとらなければならない、なのでフィノのもといインンシグの誘いは無下には出来なかった
メイアが見るからに重そうな、藍色のドレスをかかえて持ってきた
悪態が口から出そうになったがこらえている
「お顔おかくしになられてください?お心がお顔に出ていますよ……」
とあきられたが、どんな顔をしていたかは自分では確認できなかった。ミエルは両腕をピンと伸ばし……かかしを思い出していた。
耳やら首やら金具を装着され、かかしみたいね‥‥とつぶやけば
「子犬でしょ……」
ボソボソ二人が何か言うので不思議におもってはいたが小さくて聞こえなかったので、聞き返さないでいた
また誹謗中傷かもしれない、姫神だから恨まれて疎まれて当然。
戦好き、殺戮だっていとわない老も幼も殺して回る、血を好むだとかまぁ、軽いものではそんなあたりかしらね、と素面を突き通す。
「まぁ───60点というところですね」
ふぅふぅと息をつく二人に促されて姿見を振り返る。
紺色のドレスは鎖骨をあらわにしてうではほっそりと肘まで張り付いてそこまできてフレアに広がる、背中はあまり露出がなく腰はコルセットで細く保たれていて、薔薇を逆さにしたようにスカート部分は幾重にも広がっている
ペチコートは白の総レース、足さばきでふわりふわりとレースを見せる
宝石は華美にならないように自分の眼の色と同じ薄い青色、イヤリングも小ぶりな珠の3蓮だ
「ありがとう」
二人に礼を伝える何も反応がないので鏡越しに二人を見ると、ぽかんと口を開けたままに固まっている、小首をかしげると
「当然のことをいたしたまでです…‥‥仕事ですので……」
と答える。
そのとき姉の姿を思い出す、あぁそうか目上の者から下の者に礼などとってはいけないのだ、もっと完璧に演じなければ、姫神はアライナス国に大切にされてきたのだと……そうでなければ陛下に侮られてしまう。
侮られれば自分の要求など聞き入れてもらえないだろう
コンコン扉をノックされる、メイアに目配せで合図する、静かに扉をあけると、演習場であったきりの陛下が礼装で立っていた
黒色の3揃えのコスーツの上着には功章が3つ、功章の先には月光石が光っているスラリとした体躯も鍛えられていてたくましくもしなやかだ、穏やかな金色の髪はやわらなか陽の色が混じっている
そこにだけ太陽があるみたいに輝いてる
瞳は強い意志が宿る碧だ、抜刃のようにすっと目じりまで整っている。さすが一国の王威風堂々と室内に入って来るインシグと鏡の中で目線が合う
(いま、微笑んだ?)
インシグは鏡の中のミエルにコテリと首をかしげて静かに話しかける
「ミエル嬢、今宵は俺の誘いを受けてくれてとても光栄だ。貴方は薔薇のようだね」
しっとりと低温ながらも美しい声色に耳を澄ます
「さあ、時間だ。」
すっと手を差し出されたことで、また姉を思い出す、たしか差し出された腕に手をかけるのだ。
陛下の完璧なエスコートにメイド達もうっとりしている様子だったので、この男に視線が注がれていれば自分の失敗はさほど目立たないだろうと内心ほっとした
ミルズ国、第一継承者として国王となった男は意外にも高身長なのだと知ったのは、今しがた
エスコートされて歩いていると、ミエルの頭は陛下の胸に届くかどうかといったところだ
歩幅もかなり違うだろうが、隣を歩いていてもまったく苦にならない
回廊は緻密に装飾が施されていて等間隔に並ぶ支柱に中庭は幻想的な噴水に背のある樹木が植えられている淡く光るのは月光石だろう闇夜に浮かぶは見事な円を描く月だ
陛下の肩越しに見るその光景は騒然とした美しさがあり一枚の絵画の様
それにしても わからない 食事をするだけというだけで 鎧のようなドレスを着たり、宝石を身に着けたりエスコートしたり、されたり まったく何の意味も見いだせない。
しかも食事をするためにこの無駄に長い廊下をだらだら歩いて、たまにメイドとすれ違ったりするたびに好機の眼にさらされている……ミエルだけは居心地の悪さを痛感していた。
しかし隣の男は平然と歩く、すれ違うメイが腰を折りながらもうっとりとした表情で目線を送れば、横目で流しながらやわらかい表情をたたえる陛下にメイド達がよろめいている
何て男だ。
こういう人間は自分が他人にどういった印象をあたえるか熟知している。
わたしと同じだ、自分をどう演出するかわかってやっているのだ、だけど。わたしはこういった使い方はしない。異性を惹きつけるためにしたことなど皆無だ。
ふと、影が足元に落ちた、月が陰ったのかと頭上を見上げる とたんに眉が引きつったのが自分でもわかった
「何……?」
「髪飾り。神秘的な髪にとてもよく似合ってる」
最高に甘ったるい笑みで見下ろしている
「エスコートだけでなくて、褒めるのもエチケットなの。大変ね。」
頬を引きつらせるミエルにクックッと静かな笑い声をたてる、空気まで甘くさせることができそうでぞっとしそうだ
「褒めるところがなくても褒めるのが決まり事だと、ある人に教わっていてね、特に、未来の妃になりえそうな人間とは良好な関係を築いていかなければ、貴方だってそうだろう?」
とたんに雰囲気が変わったので今度はしっかり目を合わせる
冷たい笑みに冷たい目に、思わずエスコートされている手を振り払おうとする
すかさずエスコートに差し出した、反対の手を添えてくる────なんて甘いものじゃなかった。
がっちりと手を押さえつけられている。思い切り悪態をついてやる。ミエルが深く息を吸い込む
「黙って。もう部屋の前だ。」
「わたしは何も困らないの、しっていた?」
うーんと困ったような顔をしてみせる、も まったく困ってなさそうだ。それからはっとした顔で
「俺は困る。だからこの晩餐を上手にすませられたなら、貴方のお願いを聞こう、どうだ?」
お願い、という部分がやたら癪にさわったけれども流しておく
「賢い男は嫌いなの。約束は違えないで。」
押さえつけられていた手を緩めて、今度は優しくなでられる、お互い手袋越しなのにもかかわらず温度が伝わってきて、ぞくりとする
「かわいい貴方のお願いなら何でもきいてあげたくなってしまうな」
キラキラ、いや。ギラギラした悪魔みたいな笑顔で笑う、なまじ髪の色が太陽みたいなので恐ろしい
「では、全て聞いてもらうことにしましょうか」
さぁ、晩餐(戦場)へ出陣だ コツリとハイヒールを踏み出した
月が地平線に向かって真上に移動したころ、時計塔の鐘が響いて、晩餐もようやく終わりを迎えた
インシグは急用があるとかで、早々にわかれてミエルは一人で足早に部屋に戻ってきた
部屋に入るなり、ハイヒールを放り出して、装飾品もむしるようにドレッサーに投げ出す
ドレスはとても一人では脱げないので、待機していたメイアとリリアーナに助けてもらったそのまま浴室を進められたけど、毎日の日課をおわらせなければいけないので、断る。
メイアが気を利かしてベットに夜衣を用意しておいたらしいが、それではなく自分で用意しておいたシャツとトラウザーだけを着て
素足のままに、テラスに重く帳をおろすカーテンを開け、夜空を見上げる、ほんのすこし雲がかかって星は陰っているが 見れないわけではないので安堵する
ミエルの後ろでおずおずとリリアーナが口を開く
「晩餐会はどうでしたか?――――あの……楽しめましたか?」
夜空を見上げたまま、頭を横に振る。
「そうですか……お疲れでしょうから、これで下がりますが何かあればお呼びください」
扉が閉まる気配を後ろに感じたまま、溜息をこぼす貴族が30名ほど集まる室内には、それぞれが思い思いの香水をふってきているのだろう、酔いそうなほどの匂いが蔓延していて、ミエルには耐えられなかった
それだけではなくて政治のことから集まり、どこの貴族が金回りがよいだの、あそこの貴族は最近、事業に失敗したらしいだの、食事が運ばれてきてもおしゃべりは続く
どうやって食べているのかいつのまにか皆の皿の上からきれいに物は消えており、ミエルは咽かえるほどの匂いのせいで食事はのどを通らなかった
そのまま給仕に片づけてもらう、食べられないので透き通る液体が注がれた細工の美しいグラスだけに集中することにした。
やっと男性たちのおしゃべりが終わるころに、待ってましたと言わんばかりに女性たちのおしゃべりがはじまる
オペラ鑑賞がどうだった、自分の娘息子の自慢話、結婚適齢期だとか、陛下にぴったりだとか
まぁとどのつまりどうだっていい会話を延々と……
そうかとおもえば、突然に男性の声でアライナスの流行はどういったものかと聞かれたときには茫然としてしまいそうだった、ずっとグラスに集中していたミエルは
はっと顔をあげると上座に座っていた陛下と目が合う。
「アライナスの流行り、ですか‥‥私はドレスよりも兵装のほうが」
「ゲリドウル閣下はアライナスにご興味がおありでしたか。これは興味深い。」
すかさず陛下が口を挟んだので私の意見は最後まで話せなかった
じとりと陛下をにらむ、インシグはそんな目を真っ向から受け止めても微動だにせずに見返してくる
思った以上に陛下の声色が低かったので ゲリドウルという男はあわてたように、身振り手振りをまじえながら
「いや、興味というほどではありませんぞ、皇帝陛下……未来のお妃様があまりにお美しいので──つい、好奇心です、ハハハ」
「ならいい。」
ゲリドウル閣下は恰幅のいい腹をさすりながらほっとした様子で、そばに座る妻も扇で半分顔を隠しながら乾いた笑い声で一気にひえきった場を何とか収めようとしているようだった。
結局は無駄な努力に終わったわけなのだが。
(疲れる………)
テラスから離れて、定位置になった長椅子になだれこむ、春は近いがまだ夜になると冷気が流れる、それでも今日はアルコールを摂取したせいか寒さを感じない、シャツをトラウザーにしまうのも億劫で、久しぶりに自由になった素足が心地いい、睡魔に誘われるままに眠りに陥った。
インシグはミエルと別れた足でイナトの部屋に訪れていた
イナトの部屋は騎士団の寮が完備された最上階に位置している、インシグ達の部屋までの距離は近い、有事の際にはすぐに動けるように
部屋に入るとイナトは何も言わずに2人がけのソファへ促す、イナトはインシグの礼装に一瞥しただけでインシグからの言葉を待っている
室内は白とグレーで統一されており、イナトの几帳面さをあらわしているようだ、続き部屋の奥には書斎があるが、騎士団の団長とは思えないほどの蔵書で、趣味が読み物というのも不思議なものだ
「明日…いや3日後に王立図書館に行く。」
「そうなんですか、護衛はおまかせください。」
ソファに持たれかかりながら天井を睨む顔をするインシグはそのままに
「護衛はなしだ、俺だけが行く」
それまで立っていたイナトはやれやれといった様子でインシグの向かいソファに腰を落とす
「お忍びですか、フィノは知っているんでしょうね。」
「知っている。教えてないが。」
ふむ、とうなずく、フィノなら教えなくても知っているだろうと納得する。
それほどまでに内情には精通しているのがフィノだ、そうでなくては王の側近などは出来ない。
「では、なぜ自分には 教える のです?」
それまで天井を見上げていたインシグは体を起こし、長い脚に肘をつき手を組む、額を手に当てるので表情はうかがい知れない
「ミエルが王宮内の書物を読み漁っているのは知っているだろう?この国の何かを知りたがっているようだ、それが何かはわからんが、アライナスにいて知れない事となれば、その何かは王立図書館にしかない」
「なるほど……でインシグ様は図書館に行く事にしたと──ミエル様から頼まれたのですか?」
「これからだ。」
「え……これから、とか。ひょっとして何か聞くのをお約束してしまわれたんじゃ……」
「………」
沈黙が流れる。
「………とにかく、ミエル付きのメイドが兵装か何か借りに来るかもしれん。そうしたら素直に貸してやってくれ。アレの髪は目立つからおいそれとは街には出ないはずだ、きっと変装する。」
イナトは一考する。
ということは、インシグ様は許可しないつもりなのだと、でなければ変装など必要ないものだ、そしてインシグ様もお忍びで王立図書館に向かう
「ご命令通りにいたします。インシグ様もご無理なさらぬように、ミエル様は何か強烈なものをおもちなのでしょうし」
あぁとつぶやくインシグのつむじを見ながら、イナトはどの兵装をわたそうか考えていた。
ソファを立ち上がり、扉に手をかけるインシグにイナトも後を追う
インシグは怪訝そうに眉を吊り上げる
「……何だ?」
「もちろんお部屋までお送りいたします」
碧色の眼が細くなる、そのままインシグと同じ目線のイナトを見やる
「一人で戻れる、俺をなんだと思ってるんだ。五歳児じゃないんだぞ」
「インシグ様はこの国の王です。御身を御守りするのが自分の役目です」
「イナトお前とは同い年だろう、同じく学業も共にした、それに俺は自身のことぐらいは守れる」
「そこ!なんですよー、何でも出来てしまわれるから、そうすると自分達は不要になって仕事がなくなってお給金がもらえなくなって好きな本も買えなくなってしまうではないですか」
だから、ね?と透き通りそうなほどの魅力を傾けられると黙っているしかなくなるから、この男はやはりどこか異種族の血を受け継いでいるのではないかと思う。
「……それでも俺にはお前たちは、一家臣ではなくて友なんだがな……」
(そう思い行動してくるからこそ、この御方を失うわけにはいかないのだ、太陽な輝きをもち民に平等に接する稀有な方だ。)
とイナトは静かに手にした剣に力を込める。
ミルズ国に来てから6日目の朝、強い冷気で目が覚める、テラスのガラス扉に開けっ放しだし、タオルケットも畳んだままなので、からだは冷え切っている、思いっきり体を伸ばしてほぐす。
暖炉そばに役目を待つ愛剣をそっと指を這わす、なぞった後がぼんやりと光を放つ、愛剣は月光石の中でも特に希少な月輝石を使われているらしい、大古の昔奇跡の技をつかって完成させたものだとされている。
アライナスの大神殿の地下に埋もれていたのを持ち出して使っている。どんな戦場でも手放したことはない。
瞼を閉じるといつの時のことだって鮮明に思い出すことができる、血にまみれた自分も血だまりに横たわる人々も、そんな自分にはもう誰もよりつかない、もとより誰からも見向きもされない人生だったが、それでもこの愛剣だけは傍にあった、いつか眠るときが来るんだろうその時を迎えるまで私達は同じ輪の中にいる
洗面台で顔を洗い目の前の鏡に映る自分を見る。何かを視るように力を込めると、ぼんやりと光を帯びるその瞳で自分を視る。何も視えない、これこそが自分だ。
「ミエル様、おはようございます。皇帝陛下がお越しです」
ノックもせず、メイアがそう言ういなやいや、インシグが部屋のバスルームに入って来る、鏡の前でそのまま固まる
そうしている間にも部屋に入ってきたインシグは鏡越しにミエルの顔を見ると、少し目を見開く
そのとたんにしまったと思った、堂々と眼を見せてしまったことを後悔しながらも、正常な眼に戻そうと息を吐く、瞼をきつく閉じたままにして
「少しは待てないんですか、もし着替え中だったらどうするの‥‥」
「着替え中だったら?俺の好みじゃないからなぁ…。それに、この部屋は続きだって教わらなかったか?いつだって部屋に入ってこれるが一応こうやって正面の扉から入ってきた。」
つまり着替え中でも何ら問題無いということだ。
「続きから入ってきたら、迷わず殺す。」
「おはようミエル嬢、今日は昨日の続きをしようとおもって来たんだが」
こいつは人の話を聞いてないのか、会話の受け渡しにいらつく。昨日の続きなんてあるわけもないが、そこでインシグが何をいっているのか察した
「国王陛下、ミエル様、お飲み物を御用意いたしました。」
リリアーナの声にひかれて、お互い向かい合わせのソファに座る。インシグはすぐそばの暖炉の剣を気にした様子で眺めていたが特に何を言うでもなく、用意された紅茶のカップに手を伸ばし、味を堪能している
「それで、何かお願いは決まったかな?」
「………この国に入ってきて、わたし気付いたんです」
カップに口を付けたままでインシグの瞳に光がはしったきがする
「この国はわたしが安住の地とするには、とても 臭い。」
ハハハハッとインシグの笑い声が飛ぶ中、給仕をするメイド2人が凍り付くのを目の端で確認するもミエルは続ける
「その臭いを取り払ってください、三年以内に、でないとここには留まれません。そうなれば協定も無効ですね」
「三年以内に出来ればもう少しこの和平に協力的になってくれるということかな?それならばもっと詳しく話してくれないか、貴方が言う臭いを発生させている原因などについて」
「用水路の臭いですね、川もドブ臭くって。市街地等もドブ臭いですね、この国は例えるなら肥えた豚のようで、食べるだけ食べて、排せつ物などはそのまま、管理もしつけも出来てない。」
インシグは氷のような眼差しで見つめ返してくる。メイアとリリアーナに関して言えば、カタカタと震えている、持っている茶器が震えで割れてしまうのではないかというほどに、
「わかっているのか?それはアライナスの姫神が戦好きのせいで、侵略された人々が我が国になだれ込んでいるせいだと。」
もちろんその通りだ、侵略した土地の人々がここになだれ込むように謀ったのはミエルなのだから
「もちろん。それでいてミルズ国王の統治力の低さも治世力の無さも。
わたしの要求するのはその一点です」
「3年以内に貴方のいうように、臭いを消せと、それがあなたのお願いか?」
「要求ですね」
「昨日、俺は お願い を聞くといったからな。要求には答えられないな」
絶句するわたしにインシグはにやにやと下卑た、実際はにこにことしているだろうが、いらいらさせられる今日という日がはじまったばかりなのにもうすでに二回目のいらいらだ
「………お願い、です」
「いいだろう。」
「あと。王立図書館というものがあるそうで、行ってみたいのですが…ここにいても暇です」
「お願いはもう終わっただろう。」
カップをソーサーに戻す。
「かわいいわたしの お願い はいくつでも聞いてあげたくなると」
インシグは、大きくゆっくりとうなずく、目の前の絵画から抜け出てきたようなミエルを見据える
「確かに俺は 聞いてあげたくなるといった。だから聞くだけは聞いた。王立図書館へ行くことは許可しない。」
すっくと立ちあがり、優雅に立ち去る。どうやらミエルのお願いは彼の矜持に傷をつけただろう。そのことだけで今日のいらいらを解消できるだろうと内心ほくそえんでみせる。そんな事を考えた瞬間インシグは足を止めて振り向く
ぎょっとするミエルに
「そうだ、もう一つ。我々の婚約パーティは2週間後だ。」
「ありえない‥‥‥!!」
驚嘆を隠せないミエルを置き去りにインシグは部屋を後にした。
「絶対に出ない!!!会場ごとずたずたにしてやる!!!」
はじめてきくミエルの絶叫が回廊にも響いてきている
「何て清々しい朝なんだろうな」
朝の風でなびく、陽光色の髪をなびかせて、白い歯をのぞかせ微笑む陛下を見て、廊下で待機していたフィノとイナトの深い溜息が聞こえた
ありえない!ありえない!絶対に!愛用しているクッションに頭を打ち付けて怒りをぶちまけているミエルを前にメイアとリリアーヌががっくりと肩を落とした
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