皇帝の思惑 3

 テラスから望む景色を、手すりに腰かけ見つめる。

 穏やかな風が髪をさらっていく

 庭園では小鳥がせわしなく鳴いていてそろそろ季節は春を向かえようとしている、アライナスからミルズ国にきてから二ヶ月


「穏やか……」


 ふっと自嘲する、そう穏やかすぎるのだ。

 自分の計画に早くも破綻の兆しが見え隠れしている

 ミルズ国王陛下と婚約?するところまではこぎつけた、まぁこの場合はもぐりこんだというに相応しいのだが

 次は要求を呑んでもらわなければならないのだが、インシグと顔をあわせる機会がないのだ‥‥‥

 王宮内の図書は許可が下りたものは全て読みつくしてしまったがめぼしい情報は得られていない


「さて……どうしよう……」


「さて……どうするか…」


 彼女が何を企んでミルズ国へきたのか真相をしりたい

 直接的に問いただすわけにもいかない 

 そもそも正直な答えが返ってくるはずもない。そしてもう一つ頭を痛くする要因がある

 アライナス国第二王女 ミエル=レイネット 彼女を迎えた今、婚約パーティ等という付加が加わって来る 

 家臣等にせっつかれはしたものの、執務が立て込んでいるという言い訳ももはやついえた。

 家臣共がいつにもまして働きに働き、山の様だった書類も見事整理されてしまったのだ。


「婚約パーティでのご衣裳は、兵装にしますか?」


 優雅に午後の紅茶を口に運ぶフィノをにらむ


「どこの馬鹿が、婚約パーティに兵装で臨むんだ………」

「ですが、あの姫神がドレス等着ますと思います~?陛下、今まで用意したドレスも宝飾品も一切身に着けておられませんよ、あの方」


 カツッとカップソーサーにカップを戻す


「ですから、きっと婚約パーティもあの兵装姿で出撃するんじゃないですか」


 ニヤリと笑うフィノの顔が恐ろしいブルッと悪寒が走らせる


「それについては俺が話を付ける、フィノはそれ以外を滞りなく進められるようにしてくれ」

「そのお言葉お待ちしておりましたよ  フフ」


 盛大に溜息をついてインシグは、背もたれに体重をかける。


「フィノ今夜の晩餐にミエル嬢を参加させるように手配してくれ」

「我が国が他国に侮られないためにも、ぜひご健勝ください。そのためだけの婚約パーティです」

「わかっているさ」


 椅子事テラスに身体を向けて、後ろ手で退出を促すと静かにフィノは部屋を後にした



 フィノはそのままミエルの部屋までやってきていた、ミエルの部屋の前にはメイドが2名立っている、取次をと声をかければ、恭しくお辞儀をし、中にいるミエルに声をかける


「ミエル様、フィノ=アルバート様がおこしです」


 一息の後、よく透き通る声が返ってきた


「どうぞ」


 そうやってやっと重たい扉が開く、メイドは扉をそのままにして一人だけ室内にフィノと入る

 偽りとはいえ王妃となる人物と男性が2人は醜聞だ


「何か?」


 フィノはミエルを下から上まで目線で追う

 今日も今日とて、軽やかな‥‥いやはっきりいってラフすぎる格好だ。いつもは女性を花よ蝶よとほめる、ほめるところがなくても褒める。

 だがこれは駄目だ、見事なまでに美の無駄遣い

 それに驚いたのは、立派な長椅子がテラス付近にまで移動されていて、しかもクッションやらタオルケットがたたまれているところを見るとそこだけを居住としているのはあきらか。静かにモノクルをただす、今確実にフィノは死んだ魚の目をしている…


「陛下から今夜の晩餐に出席するようにとの仰せです」


(なんでこの人、さっきから死んだ魚みたいな目を……)


 しかも突拍子もない話をされて思考停止に陥っている


「……ばーさん」

「ばんさん ですね」

(あぁ……晩餐ね。)

「それでその晩餐に拒否権はありますか?」


 言葉遣いがおかしくなってしまったけど、意味は伝わるだろう

 するとモノクルに手をかけたまますごい笑顔で見下ろされた、凍った。メイドもミエルも部屋も。

 ミエルがしぶしぶ二つ返事をすればフィノはとっとと部屋を後にした


 一息ついて外に立っているメイドに声をかける、すると最初は嫌そうな目や態度だった彼女たちは、ここ最近は雰囲気も柔らかい


「何用でしょうか?」


 答えたのはミエルよりも背が高い彼女はメイア、黒の瞳にきりっとした目鼻立ちに、明るい茶色の髪をお団子にしている。といってもこの王宮ではメイドはみなお団子にしているらしい。手招きして入室を促すと、もう一人のメイドで確か名前をリリアーナという、赤髪にぽっちゃり顔に愛らしいオレンジがかった瞳をくりくりとさせてなんとも可愛らしい


「申し訳ないんだけど、今夜晩餐に出なくてはならなくて……」

「はい。聞こえておりました」


 メイアが じいっ、と見つめてくる


「この格好でもおかしくないかしらね?」


「「はぁ!!??」」


 ここでも二人のメイドの声がこだましていた。


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