3-15
初めてそこを見たとき、そこには真っ黒で平坦な大地しかなかった。
……いや、『しかない』というのは適切ではなかったかもしれない。
そこには空も空気も重力も、光すらもあったからだ。しかも私の背後には、地面から生えるような形で立つ身の丈ほどの金属板――鏡面加工された鋼板がある。
しかしその世界にあるものは異質だった。空は大地と同じく黒く、太陽のような光源も見えない。のっぺりと空間を満たす、不気味とさえ思える明るさが黒い世界を照らしていた。
そして異常はもう一つ。自分が確かにここにいるのだ。
この世界において、自分はあくまで精神体とでもいうべき存在として設定したはずだった。鏡に吸い込まれる感覚があっても実際に動いているのは自身の精神情報のみ。そしてここに入った後はどことも知れぬ場所からゲームを自由に俯瞰できる――そういうものであるはずなのだ。しかし明らかに今自分は異世界にそのまま移動している。完成したワンダースクエアの解式書も手元に持ったままだ。
「なんだ……これは」
すると、驚く私の前に突然、影が落ちた。
見上げると、そこにはいつの間にか巨大な何かが出現していた。ずんぐりとした丸い巨体でこちらを見下ろし、地面に影を作っている。
影とは、光源を遮った先にしか出来上がらないものだ。つまりこの空間は一応、空から光が降り注いでいるらしい。私はそんな――半分意味もない分析をして、そして改めて、その巨体を見据えた。
「
球形の胴体。先端が尖った円錐状の脚。不釣り合いに長い手。全体的に赤みを帯びた色をしていて、それは錆びているようでもあり、血のようでもある。
それは私がP型と名付けて用意したものであった。
ギギギギギ。
何百年経とうと変わらないと思えるような音を立ててオートマトンが動く。私は咄嗟に身構えた。この機体が自分を主人として――いや、もはや味方とすら認識していないことに私は気が付いた。
直後、オートマトンは拳を振り下ろしてきた。私は真横に飛び退って、かろうじてその一撃を回避する。だが背後の鏡はオートマトンの一撃を受けて砕け、大小様々な破片が周囲に飛び散った。するとどうだろう。少し離れた別の場所にまた鏡が生えてきた。
私は舌打ちし、目の前の破壊者を見上げた。
とんでもないミスを犯したのかもしれないと、胸中で呟きながら。
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