3-14

「やっと帰ってきたわね」


 クロノが鏡を抜けると、そこにはメアリがいた。彼女は感覚機関を開きながら、クロノの様子を吟味するように転がる。


「一人……ってことはあの子にはフラれたのね?」

「まぁ、そんなとこ」


 メアリの砕けた表現を意にも介さずクロノは答える。するとメアリも動きを止めて、


「だから言ったでしょ。アタシのいう通り、無理やりにでもあの子をここに留めちゃったほうが良かったのよ」

「……かもしれない」


 その返答に、メアリは少しばかりの驚きを見せる。


「やけに素直じゃない。何かあった?」

「……いや」


 そう言いつつクロノは一度瞑目してから、目を開いた。


「それより、あっちの世界でR型の砲弾を見つけた。本体がこっちにいるかもしれない。しかもその砲弾、普通に活動してたし、壊せた。おまけに、中にメアリのレンズっぽいものが入ってたんだけど」

「……なるほど。あいつそんなことしてたのね」


 当然といえば当然だが、メアリは既に本体の存在を把握していたらしい。にもかかわらず、砲弾のあちら側への転移を今知った風なのは少々気になるが。


「本体はやっぱりこっちにいるんだね?」

「そうね。厄介な状態ではあるけど」

「……厄介?」


 含みのあるメアリの言葉に、クロノは聞き返す。


「要塞を食ってるわ。あいつ」

「……どういうこと」


 聞いたことがない特徴だ。そもそも食うという概念が当てはまるのかさえわからないが。


「どういうも何も、言葉のまま。要塞を突き進みながら破壊しつつ、残骸を体内に取り込んでるみたいなのよ。アンタ今砲弾が普通に壊せたって言ったけど、もしかしたら取り込んだ要塞の部品を砲弾の材料にしているのかもしれないわね」

「変な奴……」

「そうねぇ。でも、砲弾を撃ち出さなかった理由も判明したわけだし、対処は可能なはずよ」


 しかしそこまでメアリの言葉を聞いて、クロノは疑問に思う。


「ねぇ、さっきも今知った感じに言ってたけど、どういうこと? あの砲弾、ALICEの鏡から出て行ってたんじゃないの?」


 要塞全体がメアリの監視下にある以上、ALICEの鏡の出入りも、メアリは監視できるはずである。R型本体の位置を特定できているなら尚更だ。しかし今回、メアリは砲弾の行先を知らなかった。ということはあの砲弾、ALICEの鏡を抜けたわけではないというのか。


「今のところ、こっちで砲弾の射出は確認できてないのよねぇ。つまり転移にALICEの鏡は使ってないっぽいわ。まぁ、転移できるような装置をオートマトンがどこかに自前で作ったってのが妥当な推測かしら。アタシが把握できないとなると……自分の体の中とか」

「なんでオートマトンがそんなもの作れるのさ。まさか、学習能力でも身に着けたっての?」

「さぁね。イカレ野郎のすることなんて想像つかないわ」

「……被害状況は?」

「この辺りは大丈夫だけど、もう二十区画ほどは潰れちゃってるわ。全体からすれば被害も微々たるものだけど、このまま放置ってわけにもいかないわね」


 そしてクロノはメアリに告げる。


「本体の場所まで案内して」

「その体で行くの? 今度こそぶっ壊されちゃうわよ」

「……いいから早く」


 クロノに急かされ、メアリは戸惑いつつも案内を始める。


「……なに怖い顔してんのよ」


 そんなことを呟きながら。

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