3-9
「いってきます」
朝食をとり、支度を整えた真希菜はいつもより少し早めに家を出ることにした。
「あれ、なんか早いね? ……も、もしかして朝の男の子と待ち合わせてたりとか、そういう感じじゃ……」
「だから来てないし、違うってば」
まだ疑っているらしい父を軽くあしらいつつ、真希菜は玄関先に座っていつものローファーを履く。ちなみに父は午後から出社らしい。
「そういえば、お昼用意してないんだけど、大丈夫?」
「ああ、大丈夫。出社するときにコンビニでも寄るよ。まきちゃんこそ、ちゃんと食べなきゃダメだよ」
「うん。今日は私、学食で食べるつもりだから」
週の半分くらいは父の分も含めて弁当を作るようにしている真希菜だったが、さすがに今日は時間に余裕がなかった。
真希菜は玄関で最後の身だしなみを整えつつ立ち上がる。そしていつものように、玄関のシューズボックスに置かれている写真立てに視線を合わせた。
「いってきます」
真希菜は再び――しかし今度はその写真に向かって告げる。いや、写真の中にいる女性に向かって、というほうが正しいか。
写真そのものは普通の家族写真だ。十年ほど前に、今は無きイギリスのオックスフォードへ旅行した時のものである。真希菜は当時六歳で、父が仕事の都合で滞在していたところへ母親と共に出かけたのである。その母親もその都市と同じく、既に消えてしまっているが。
挨拶を済ませると、真希菜はドアノブに手をかけた。
そしてドアを押し開けて、真希菜は父に見送られながら朝の外気にその身を晒した。
玄関を出てしばらく経って。
ちょうど家が見えなくなる地点――家『から』見えなくなる地点というべきかもしれないが――まで来たとき、声がした。
「もういいよね」
同時に、近くの民家の塀から飛び降りてくる影。どこにいたのかは知らないが、クロノは家に来た時と変わらない格好で真希菜の前に立った。
「……やっぱり、待ってたんだね」
「当然」
「……えっと、その、急に追い出してごめん」
身内の不作法で彼を追い出すことになったのだ。一応、謝っておく。
「別にいいよ。……あ、そういえば今朝の朝食、あなたが作ったの?」
朝食に関する話を振られると思っていなかった真希菜は一瞬戸惑ったが、答える。
「簡単なものだけど、フレンチトーストを……」
「ふぅん。今度食べさせてね」
「はぁ……」
どこかで見ていたのか、……あるいは匂いでも嗅いでいたか。彼に嗅覚は……ありそうだ。味覚などがあったとしてももはや驚くまい。自分は彼の設計図を把握しているというだけで、その機能や使われている技術に関しての深い理解があるわけではなかったが、なんとなく、そうした人間らしいところは見た目だけでなく機能としても備わっていると思うのだ。
そしてそんな会話でワンクッションを置いてきたクロノだったが、次にはさっそく本題を切り出してきた。
「じゃ、さっきの話の続きといこう。僕の希望は変わらない。ワンダースクエアへ来て欲しい」
その言葉にはさっきよりも切羽詰まったような、そんな響きがある気がした。彼にしてみれば、体の損傷は一大事である。そうなるのもわかるのだが。
「……あのね。悪いとは思うけど、私には無理だよ。昨日直したのも、すぐ壊れちゃったんでしょ? もう一度私がやってもまたすぐ壊れちゃうかもだし……」
「うん。だからさ、ちょっと考えた。君もワンダースクエアに住めばいい。そうすればいつでも直してもらえる」
「……………………うん?」
「食糧なんかは僕がこっちから調達してあげるよ。いいアイデアでしょ?」
クロノは得意げな顔で(……といっても基本的に眠そうな半眼なので、気持ちそう見える、というだけなのだが)こちらを見上げている。
「あの、それはじょーく的な何か……?」
「本気で言ってるんだけど?」
「ああ、そう……本気……」
と、そこまで話に付き合ってから、真希菜はすたすたと歩き始めた。顔には疲労をありありと貼り付けて。
「待ってよマキナ」
「その名前で呼ばないで」
「なんで? 可愛いのに」
「っ……!」
そこで真希菜は再び足を止めて振り返る。
「なんでそんな勝手なの!? ちょっとは私の都合も考えて!」
往来であるのも忘れて、真希菜はクロノに食ってかかる。幸い、朝のこの時間に大した人通りはなかったが。
珍しくというか、真希菜は心底腹が立っていた。どうやら彼は自分を都合のいい修理装置としてしか見ていないらしい。こちらのトラウマを知らないとはいえ、機械を――それを意味する名前を嫌っている人間に、装置としての価値を求める彼の姿はひどく傲慢に、残酷に思えた。昨日の彼の言葉とか行為にいちいちドキマギしていた自分がバカらしく思える。
しかしクロノは真希菜の勢いにたじろぐ様子も見せず、ぽつりと言った。
「世界の破壊者。オートマトン」
「……?」
「奴らは解式術を使う、イレギュラーな
突然始まった説明に真希菜は特に言葉を返せずにいた。それはクロノの策略なのかもしれないが、真希菜は怒りを挫かれてしまう。
「奴らはあの壊れた世界のどこからか生まれて、解式術を使って暴れまわる。それを止めるのが僕の――クロノスシリーズの役目」
「…………」
怒りの反動で一瞬頭がからっぽになってしまった真希菜は、思わず彼の言葉に聞き入る。そしていつの間にか、思考を未知なる彼らの世界に向けていた。
「……そういえば、昨日も言ってたけど、その解式術ってなんなの」
「ある物質に特殊な式や数……『解式』を組み込んで利用する技術だよ」
それを聞いて、真希菜は真っ先にあるものを思い浮かべた。
「水晶式機械……?」
だがその言葉を、クロノは否定した。
「聞いたことはあるよ。解式を組み込んだ水晶に数の信号を流して利用する技術。でも、解式術で利用するものは
クロノはそこで言葉を切る。そしてそれは、会話の中で真希菜が考え、発言するだけの隙間を作りだした。
「もしかして、グリムとか、グリモアとかっていうやつが関係してる……?」
昨日、メアリが言っていたことを真希菜は思い出していた。それらに関して、メアリは説明が面倒だとも言っていたが。
するとクロノはそこで、妙に芝居ががった仕草で、左手の人差し指を顔の横でぴっと立ててみせる。
「うん。解式術に関してはその二つが重要かな。簡単に言えば、グリムは材料、グリモアは……触媒、っていうのが近いかな」
なんとなく、真希菜は『魔法』という概念を思い浮かべる。あえてファンタジーに噛み砕くなら、グリムは魔力、グリモアは魔法の杖、とでもいう感じだろうか。
「この世界、そしてワンダースクエアには『万物に変換可能な粒子』が存在する。それがグリム。グリモアは、超高速でグリム間を行き来してネットワークを作る情報伝達粒子だよ。こっちは相応にエネルギーも持ってる。そして条件を満たした鏡に溜まる性質があって、そうなると空間移動の効果も持つようになる。高濃度になると赤くなるから、そうなれば視認もできるようになるよ。ちなみにオートマトンは高密度に圧縮したしたグリモアを動力源にしてる。僕も一応そうだけど」
そしてクロノは続ける。
「で、グリムはグリモアを介して解式を認識できるんだ。そしてある特定の解式とその解はグリムに変化を促すことがある。つまりグリモアの作るネットワークに介入して、解式で意図的にグリムを変質させるのが解式術。解式と代入する数字さえ判明すれば、理論上は材料と同じだけの量の物質をなんでも作り出せる『技術』だ」
「えっと……」
昨日の出来事のおかげというべきか、真希菜はその荒唐無稽な話に対して思考停止はせずに済んだ。しかし、納得できるかどうかはまた別の話だ。
「そんな粒子、聞いたことないけど……」
「ま、発見は難しいんじゃない? そもそもグリムもグリモアも極小の粒子だって話だし、基本的に物体を透過する性質があるらしいから。グリモアも自然に高濃度になることはないみたいだしさ」
「それをなんであなたは知ってるの?」
「昔、ある人に聞いた。その人は体内にグリモアを定着させられる体質だった。そのおかげか、彼女は身一つで解式術が使えた。自身の思考の信号をグリモアに乗せて、グリムに伝達できた」
「……それって魔法使い、みたいな感じってこと……?」
「ああ、そうだね。そう言ってたような気がする。解式術を
「なんて人なの、その人」
「名前は、キャロル・ラトウィッジ・ドジスン」
その名に、真希菜は驚いた。
キャロル・ラトウィッジ・ドジスン――今やその名は、たとえ水晶式機械に興味がなくとも知っている者がほとんどだろう。
キャロルは二百年近く前の女性数学者だ。そして水晶式機械の構造や運用方法、今の解式言語の元となった解式群を記した学術書の一部、通称『キャロル・メモ』を遺した人物でもある。
彼女の生きた時代はまだ女性の学問があまり認められていない頃だったため、学者という肩書は正式なものではないが、むしろそうした境遇は彼女の存在を神格化させる一因にしかならなかった。よって今では、水晶式機械の基礎理論を二百年前の段階で組み立てていた偉大な数学者として語られる。
ただ一つ不思議なのは、それほどの発見をしていた優秀な人物にもかかわらず、キャロル・メモの発見まで彼女の存在は全く周知されていなかったということ。彼女に関する記録も異様に少ないのが事実だ。
「あなたは、キャロル・ドジスンと関係があるの?」
彼がロボットだということを加味すれば、二百年前の人物と接点があったとしても、可能性はあるし一応理解もできるが。
「彼女のことは一応覚えてるよ。クロノスシリーズの製作者だし、僕が覚えてる以上に、いろんなことを教えてもらった――と思う」
どうやらクロノの知識は当時、キャロルから教わったものらしい。いくらかは忘れているようだが、彼女が彼に与えた影響は大きいのかもしれない。しかし彼女がこんなロボットを遺していたとは。
「でもそれじゃ、あの世界は何? いつからあるの? なんであの……オートマトンとかいう機械が暴れてるの……?」
するとクロノはちらりとこちらを流し見ながら、
「……魔法使いである彼女は、僕らを作るより前に、一つの世界を作ったんだ」
「世界……」
意味もなく呟いてから、真希菜はふと気づく。
「え、じゃあまさか……」
「そう。それがワンダー・スクエア。彼女が解式術を駆使して作り出した世界の名だ」
「世界を……作った……?」
「そう。理由は、僕も知らないんだけど」
クロノの表情はいつもと変わらない眠そうな半眼。だが話が嘘でなさそうなことだけはわかった。
しかし。
「魔法使いとか世界を作ったとか……それを信じろっていうの?」
「信じるかどうかは好きにすればいいよ。でも昨日のことが事実だったってことは、他でもないあなたが理解してるはずでしょ」
「…………」
あれが性質の悪い妄想、あるいは夢でなかったということは、もう目の前の少年が証明しているようなものだ。信じる信じないに関わらず、未知の世界があり、そこに未知の存在がいたことは純然たる事実である。
そしてクロノは再び口を開く。
「でもね。あの世界は不完全なんだ。キャロルは解式術の行使に失敗した」
「失敗……?」
「そ。彼女が何を求めたのかは知らない。でもあの世界には解式術を駆使して暴れまわる機械の兵士が生まれたんだ」
それが、オートマトン、ということか。
「そしてその世界を直すために作られたのがALICEと僕だ」
「……そのALICEって結局何なの……? あの本も、オートマトンと戦ってるの?」
「いや、ALICEは非戦闘型の人工知能だ。不完全になったあの世界を安全にデリートするために、ずっと世界を修正し続けてるものだよ」
「あの本が……?」
「そうだよ。そしてあの機械の要塞は修正が終わった証でもあるんだ。つまりALICEはあの鋼の領地を広げながら、徐々に世界を無害な形にしていってる」
つまりあれはクロノと同じく、二百年近くあの世界に存在しているものらしい。
「それじゃ、もしかしてあなたはその人工知能をオートマトンから守るために……?」
「うん。ALICEはあくまで修正作業に特化した人工知能なんだ。だから僕らクロノスシリーズが作られた」
「シリーズ、ってことは、ほかにもいるの?」
「今は僕一人。百体いたんだけど、オートマトンとの戦いで徐々に減ってね。で、あるとき強力なオートマトンが出てきて、他のクロノスシリーズは全滅しちゃった。運よく助かったのは僕だけ」
「…………」
「まぁ、僕も致命傷を受けてこっちの世界に飛ばされたけど……義肢や鏡の扉を偶然見つけて、なんとか今の形に復帰できた」
そこまででクロノは一度話を切った。
真希菜としては聞きたいことは噴出していたが、一つ、昨日の時点からからずっと気になっていたことを尋ねた。
「それで、なんで私、あなたの設計図なんて知ってたの……?」
「詳しくは僕もさっぱり。でもメアリ曰く、あの時……昔ALICEが損傷した時に、グリモアの通信網に乗ってクロノス・グラフのデータが流出したんじゃないかって。あの世界の特定のグリモア通信はこっちの世界のあらゆる鏡から漏れ出てるから、その流れに紛れて来て、何かの拍子にあなたに定着したのかもしれない」
「……ALICE、壊れたことがあるの?」
「壊れるとまでいうと語弊があるかもしれないけど、そうだよ。クロノスシリーズが全滅したのと同じくね。でっかいオートマトンが解式術を使って大爆発して、その時ALICEも一部傷ついたってわけ。機能もいくつかは完全に失われたみたい」
「…………」
「ちなみにあの世界間移動の鏡を作るようになったのもそうなってからだね。たぶん傷ついたことによる不具合かなんかだと思うけど」
あの鏡も一種のバグ、のようなものであるらしい。
「そのオートマトンの大爆発ってどういうものだったの……?」
「えーっと、自爆って感じかな。それも火薬の爆発じゃなくて、エネルギーの暴発……みたいな感じだね。で、そのせいで、こっちでは都市が一つ消えた」
「――え」
彼が何を言っているのか、最初、わからなかった。
しかし彼は追い打ちをかけるように言葉を紡ぐ。
「根本の話からしよう。実は解式術には問題があってね」
まるで、よく知った店の欠点を挙げるような調子で、クロノは言う。
「解式術はグリムを使う。グリムは変化して別の物質になる。でもグリムはそれを許さないんだ」
「……どういうこと……?」
「グリムはこの世界で一定の数を必ず保つ物質だ。本来グリモアはそうした数の管理を司るものらしくてね。そしてグリムはそのネットワークで数が減少したことを知ると、他の物質の原子を取り込むことで元の数まで増殖するんだ。増えすぎた分は勝手に消散するらしいけど」
物理の勉強をしているような感覚に陥る真希菜だが、苦手科目ではないので、何とか理解が及ぶ。
「……取り込まれた原子はどうなるの……?」
「当然、消えちゃうよ。グリムに取り込まれた原子は消滅して、それに紐付く物質もその部分は完全に消える。一瞬でね」
「……どんなものでも?」
「無差別だよ。グリムの減少幅が大きければ、その分取り込まれる原子も多くなる。多ければ、人だろうが建物だろうがなんでも消える。そしてオートマトンは自身の戦闘力を維持するために常に解式術を使ってる存在だ。一体いるだけでもどれだけのグリムが消費されているかわからない」
そこで、真希菜は思わず口をはさむ。
「じゃあ、あの世界ってかなり危険なんじゃ……」
「いや、こっちも危険だよ」
「え……でもその消滅の影響って、ワンダースクエアだけでの話なんだよね?」
確かクロノは『世界で』一定に保たれていると言ったはずだ。オートマトンがこちらにいるとは思えないし、この世界に危険はないと思うのだが。
「ワンダースクエアは不完全だって言ったでしょ。残念ながら、ワンダースクエアで使われた解式術の影響――余波とでもいうべきグリムの増減情報だけは全部こっちに来てるんだ。さっき特定のグリモア通信が漏れてるって言ったのはこれだよ。ALICEの修正は結構長く続いてるけど、この部分はまだ直りきってないと思う。キャロルも、この余波に関しては不具合の根本に近いものだから最終段階まで直らないだろうって言ってたし」
「それじゃあ……」
「これもキャロルが言ってたことだけど、こっちの世界――それも鏡近辺は特に危険なんだよ」
「鏡……?」
「うん。それが意図せず増減情報の出口になってるんだって。あ、でも世界間移動の鏡はたぶん関係ないよ。あれが作られるようになる前から、この通信エラーは起こってるんだし」
そこで少しだけ、クロノは間をおいて、
「ちなみにALICEも要塞の修繕とかに解式術を使うけど、その分の増減情報だけは術の行使とともに
「じゃあもし、ALICEが停止したり、完全に壊れたりしたら?」
「グリムの増減情報の話でいえば、壊れたり停止しても問題はないと思うよ。いったん流れたダミーはALICEの手からは離れてるしね。ただALICEは、世界の修復が完全に終わった段階でそのダミー情報すらも正しく『修正』する。それであの世界ごと安全に、完全に消えるようになってるわけだよ」
「……なるほど……」
「けどもちろん、ALICEが壊れるのは問題だよ。それで世界の修正ができなくなったら、それこそどうなるかわからない。今二つの世界はおかしな形で干渉してる状態にあるし、一方の世界が不具合だらけなんだからね」
異質な存在が繋がっている以上、今はこの世界すらもイレギュラーな状態だということなのだろう。真希菜も多元宇宙論とか、量子物理学における平行世界という話を見聞きしたことはあるが、そういう場合、干渉しあう世界というものは得てして不安定なものだと論じられていることが多い。そしてちょっとしたきっかけで消滅する可能性すらあるのだ、とも。
そして真希菜は今のグリムの増減情報――『余波』の話と、先ほど呑み込めなかった彼の言葉とを自然とつなげていた。
「……さっき、都市が消えたって言ったよね? その『余波』ってもしかして『大消失』と関係あったりするの……?」
「ああ、こっちではそう呼ばれてるんだっけ」
――大消失。
正式名称はオックスフォード大規模消失事件。十年前、イギリス・オックスフォードの大半が文字通り、消失したという異常現象である。
昼間の一瞬でほとんどまるまる都市が消え、都市人口に迫る行方不明者を出した未曾有の大災害。原因はいまだ不明。そのため十年たった今でもそこに住みたがる人間は少なく、街自体はなくなったといっていい状態だ。そしてインターネット上などでは現在でもその原因についての意見交換がされることがあり、大規模テロ、英政府の謀略、核あるいは素粒子関係の実験失敗、隕石の衝突、宇宙人の仕業など、様々な憶測が飛んでいる。
「まぁ僕も直接見たわけじゃないけど、その事件、原因は十中八九解式術の余波だろうね。もっと詳しく言えば、さっきのオートマトンの自爆ってことになるかな。規模が大きすぎて、鏡の周囲が危険云々ってレベルのものじゃなかったけど」
「あれが……そんな……」
真希菜はその災害に遭遇していた。
十年前、旅行でオックスフォードに滞在していたときにその被害を間近で見たのだ。そして偶然消滅範囲外にいた真希菜は助かったが、たった数メートルの差で消滅範囲内にいた母親は自分の目の前で消えてしまっている。
父も範囲外で助かっていたが、その時父は仕事で別行動していたため、合流できるまでとても不安だったことを覚えている。
「それじゃオートマトンがいる限り――ALICEが世界を修正しきらない限り、またああいうことが起こるかもってこと……?」
その言葉に、クロノは小さく頷いて、
「大なり小なり、ね。修正が進むにつれてオートマトンの出現は少なくなってるけど、この世界は危ないままだ」
そして彼は左手をこちらに伸ばした。
「消失からは助けられないけど、オートマトンからは守ってあげる。だからさ、僕と一緒に来た方がいいよ」
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