3-4

 二階にある自室から一階に下りた真希菜は、脱衣所兼洗面所に来ると、ドアの上枠に制服のハンガーをかけ、下着や靴下をその場にあったラックに置いて寝間着を脱いだ。脱いだ服は近くにあった籠に適当にかけて、そのまま下着に手をかける。

 とそこで、真希菜はふと洗面所の鏡を見た。

 そこには変わりない景色と下着姿の自分自身が映る。

 鏡に触れてみても、それは何ということもなく、鏡で。

 昨日のように、異質なものは見えない。


(……結局、なんだったんだろ……あれ)


 あの後、自分は例の工場跡に出た。体に異常もなく、異世界から帰ってきたというのに、本当に扉をくぐって移動しただけのような感覚だった。

 なお、出てきた鏡は昔事務所にあった姿見だった。作業員が服装チェックするためのもので、そのまま保管されていたのだ。

 鏡の中に向こう側が見えることはなかった。

 一方通行なのだ。触れても何も起こらなかった。

 そして真希菜はクロノの言っていた通り、壊された扉から外へ出た。時刻は相応に経過しており、辺りは真っ暗。時間にして二時間ほどが経っていた。ちなみに、ワンダースクエアで動かなかったクォーツ・フォンは電源を入れると普通に起動した。

 そして真希菜は例の窓付近に落としていた通学鞄を探し、自宅へと足を向けたのである。

 その時、あちら側へ繋がっていた窓を見てみたが、鏡面化していない窓はもう扉としての役割を果たしていないようだった。またあの時刻になれば繋がるのだろうか。

 自宅についてからは、意外と普通に生活できた。

 軽くだが夕食も摂ったし、入浴もした。課題も済ませたし、例の調べものをしつつも、そう遅くならないうちにベッドに入った。

 あれだけのことがあったのに、それを引きずっていない自分に驚いた。案外、自分は図太かったりするのだろうか。

 ただ右手だけは今でさえ、ほんのりと熱を持っているような気がした。あの世界で機械に囲まれていた恐怖を上書きして余りあるその熱には、少年の行為が絡まる。


「っ~~~~~~!」


 真希菜は恥ずかしさを振り払うようにナイトブラとショーツを乱暴に洗濯かごに放り込みつつ、洗面棚のバレッタを手にして浴室のドアを開ける。

 そして壁にある水温調節器のスイッチを入れると、シャワーを手にして、コックをひねった。


「ホント、なんなの……」


 機械の世界。謎のロボット。夢や妄想、幻覚の類であると思わないでもないが、彼からもらった水晶がそれを否定する。

 ただ、ロボットであるはずの彼の言動はやけに人間臭くて。そうして浮かび上がる彼の奇妙な点は真希菜の思考の糸を複雑に絡ませてゆく。

 真希菜は頭から湯をかけた。

 それで昨日の出来事をも、全て洗い流そうとするかのように。

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