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「……はぁ」
下駄箱で靴を履きかえて広いピロティに出た真希菜は、肩にかけた通学鞄を持ち直しつつ、ひとつため息をついた。思い出すのは五限目の失態。思い出した瞬間、意味もなく声を出しそうになった真希菜だったが、それはなんとか引っ込めた。
今の時刻は午後四時。六限までの授業が終わって下校時刻だ。周囲は部活動に向かう生徒や帰路に就く生徒たちであふれかえっている。
ちなみに真希菜は後者。
もともと部活に精を出すような性格ではないので、普通科に編入しようともそれは変わらない。水晶式機械科にいた時も、その方面の部活動に参加する意思はなかった。内申を気にしないでもなかったが、自主的な水晶式機械関係の勉強や制作などは一人でもできるのだし、そこで何か成果があればそれでいいと思っていた。
そもそも、自分は人付き合いがあまり得意ではないのだ。友人と呼べる存在も、今となってはいないと言って差し支えない。科を移籍する前は水晶式機械科の数少ない女子の輪に入ることもできてはいたが、あの一件以降、もう付き合いはなくなっている。中学の時の友人に関しても、それぞれ別の高校に進学したため、この一年ですっかり疎遠になっているという状態だった。
(まぁ気楽だし、それは別にいいんだけど)
校門へと歩みを進めながら、心中で独りごちる。
別に強がりというわけではなかった。
一人っ子ということもあって、一人でいることには慣れているし、それを苦痛には思わない。
第一、今の自分にとって他者との関わりはコンプレックスを刺激される要因でしかないのだ。少なくともここ半年に限っては、自然と疎遠になったというより、自分から付き合いを絶っているのだった。
(……早く帰ろ。今日の夕飯、どうしようかな)
冷蔵庫の中身を思い出しつつ、献立を考える。帰りに行きつけのスーパーに寄るべきかとも思っていたが、どうやら必要なさそうだった。一人分なら、昨日の残りの食材でなんとかなる。
自分には歩き以外に現実的な移動の足がないので、買い出しは少量ずつこまめにやっておくべきなのだが、今日はいいだろう。出張に出ている父親も明日には帰ってくるはずだ。
しかし真希菜は一応、
「特になし、か」
真希菜は端末をサスペンド状態にして制服の上着のポケットに入れ、校門へと向かう。
途中、図書室で借りている本が鞄に入ったままなことに気付いたが、返却期限は明日であるし、今わざわざ戻らなくてもいいだろうと思い直す。
肩口を抜けるのは、冬の気配を消した風。
今その風はどこか黄色く霞んでおり、この時期の風景を独特なものへと変えている。空はまだ昼間の様相を呈しており、青空はただ静かに真希菜を見下ろしていた。
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