lll 「 復讐に血 」


「フヘヘへ、なぁなぁあのねぇちゃん生きてんのかぁ〜〜〜?」


 小太りの男がニヤニヤとした顔で、仲間の男達に聞いた。


「そうだなぁ〜〜、死んでんなら俺たちが頂いてもいいよなぁ〜〜」


 仲間の中太りの男もニタニタとした顔で、牢に入っているメイドを舐め回すように見る。

 中にいるメイドは、床にへばりつくように横になっているが、辺りは血だらけだ。


「そうだよなぁ〜〜!!フヘヘへ、じぁさっそく〜」


 小太りの男はそう言って鉄格子に手を伸ばし、中太りの男は牢の鍵を開けた。

 その手は他所の家に入り慣れているのか、相当な手練れの手付きだった。


「楽しみだなぁ〜〜!!」


 鼻歌を歌いながら、男達はメイドを物色する。

 じめっとした地下室にピチャンと水が落ちる音がした。


 あぁ、有り難い。其方から動いてくれるとは。


「さぁ、起きろよねぇちゃぁぁぁ〜ん?」


 ニタニタとした笑顔で、二人の男はメイドに手を伸ばした。

 筈だった。


「なっ……!!!」


 メイドは勢いよく手を振りほどき、後ろに両手を拘束されたまま背後の壁を蹴り上げ、その反動で中太りの男の首を片足で蹴り、大きく円を描いて着地した。

 中太りの男は失神したような形で倒れた。


「お、おまえ!!おま、何もんだ!!!」


 ドサっと小太りの男が尻餅をついた。

 驚いて腰が抜けた他のだろうが、立ち上がったメイドを見て言葉をなくしていた。


「私はコレット・エバーハイム。至って普通のメイドです」


 ギロリと鋭い目が、男を射抜いた。


「た、助けて、助けてくれぇぇ〜〜!!!」


 男が鉄格子に手を伸ばした瞬間、恐怖のあまり重りの様に倒れた。


 腰抜けか。


 ただ静かに牢を出て、鍵を閉めた。


 さて、旦那様の所に行かなければ……


 スカートの裾を持ち上げ、地下室から上へと続く長いらせん階段を登った。





 





 *********










 螺旋階段を抜けて、子爵の部屋へと続く長い廊下を艶めく黒のブーツを見せながら、息一つ荒立てずに赤いカーペットを走る。


 あぁ、血の匂いがする。


 子爵の部屋の前で、鉄臭い匂いが鼻をくすぐった。

 ゆっくりと扉の前で足を止め、スッと土埃を払い身なりを整える。

 コンコンコンッ______っといつものように、三回。ノックをした。


「失礼致します」


 扉に触れると、古びた音が耳に残った。そして、薔薇の花弁のように血が辺りを染めていた。


「旦那様」


 細身の男は全身が血塗れで、特に首からの出血が多かった。他にも、先に殺されたであろう大柄の男達も同じような死に方だった。


「あぁ、何だ。お前か」


 カーテンは開け放たれ、青い満月が子爵を照らした。血だらけの男達の真ん中に佇むその口や服には、鮮血の跡。


「血だらけです。お召し替えを」


 コレットがそういうと、子爵は首を横に振った。


「そんな気遣いはいらない」


 殺伐とした声音で告げると、月夜に目を向け続けて言った。

 その目は、自身と情熱と葛藤に溢れている。


「気付いていたんだろう」


 そしてまた、コレットを見た。


 男達の死因がなぜ同じ点なのか、それは首筋に二つの穴が開いていた、と言うことが何よりの証拠。

 最初、私の後ろに立っていた彼らの首筋は傷跡一つなかった。

 だからこれで、確証になった。















「私が、吸血鬼ヴァンパイアだと」









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