ll 「 復讐に再来 」






  昔々。魔王軍がこの世界に蔓延(はびこ)っていた頃、とある勇者が転生してきました。


  黒い服に革靴を履き、ボサボサの髪をした青年。それが勇者です。


  彼はありとあらゆる奇跡を起こし、人々から崇められる存在になりました。


  そして、数多なる種族も彼に付いて行きます。


  その後、勇者は魔王を種族たちと倒し国王の娘をお嫁にもらい、仲良く暮らしたとさ。











 *********











  名門中の名門、ハースト子爵家。

  その栄華は国中の人々が知るほど、素晴らしいものである。

  そして一族の中でも特に才を認められたのが、ロメオ・ハースト現当主。

  その栄華をさらに広げ、天にまで伝わる。と言われるほど、功績を残す人物だ。

  それもそのはず。ロメオ子爵は、あのかの有名な勇者とともに魔王征伐へと赴き、戦果をあげた英雄の一人でもある。


  コンコンコンッ、コンコンコンッと何度も地響きの様なノック音が、古めかしい扉をさらにギシギシと言わせる。

  扉の前には橙色の髪を跳ねたままにした、寝起き頭の様な青年がいた。


「エバーハイムさーん!子爵に至急、お手紙でーす!」


  郵便屋の青年、アルフレッドが茶色のハンチング帽を取りながら手紙を持つ手を振った。


「お、きたきた!」


  メイドが、足音を立てながら扉の前に来るとアルフレッドはにんまりと笑ったが、コレットは気にすることなく顔を見せた。


「アルフレッドさん。ありがとうございます。確かに、承りました」


  アルフレッドの手から手紙を受け取ると、深々と一礼する。


「エバーハイムさん、そんなに堅くなくてもいいと思うッスけど?」


  ハンチング帽を被りながら、コレットを見た。その顔はいつもと変わらず、笑顔ひとつない。


「はぁ……?これでも、物腰は柔らかい方だと心得ております」


  いや〜、流石にそれは違うでしょ。と、思ったが心の中に留めておくことにした。


「まぁ、いっか!そんじゃ、失礼しやッす!」


  軽く会釈をして、明るく弾ける様なテンションでアルフレッドは走っていった。

  ふと、コレットが手元を見ると至急の手紙にしてはとても綺麗だった。


「ロイス様。聞き覚えのない方ですね……」


  さて、早急に届けなければ。


  転生祭まであと、一ヶ月。

  名門の子爵家となれば、準備は万端でなければならない。だがその分、メイドの苦労は計り知れないものであった。


  開け放たれた窓から長いスカートに、真っ白なエプロンが風になびく。


  そろそろ、窓を閉めないと。


  一人のメイドは長く続く大理石の廊下を迷いのなきままに歩き進む。すると、大きな扉の前で足を止めた。

  コンコンコンッと、軽くノックをする。


「入りなさい」


  失礼します、と言う言葉と共にメイドは足音も立てずに中へ入った。


「旦那様。ロイス様、と言う方からお便りが。至急、お読み下さる様にとの事です」


  メイドの目の前には、中肉中背で白髪(はくはつ)の紳士がいた。

  この人が、ロメオ・ハースト。ハースト子爵家の現当主である。だが、生涯独身で子供や奥様はいない。


「あぁ、わかった。下がりなさい」


  碧眼の優しい目をメイドに向けながら、受け取った手紙をじっと見つめる。


「かしこまりました」


  深々とお辞儀をし、メイドは退出した。


  このハースト家には、多々問題がある。それは、使用人が一人しかいないことだ。

  子爵自身、人が多いのが苦手だから。と言うのが理由だ。

  けれどその分、たった一人の負担は大きい。

  勿論。炊事洗濯掃除調達の全てをやるのだが、子爵が使用人は一人だけだからと、家政婦長(ハウスキーパー)

  そして、家令を兼任する異例の形となっている。

  女が家令など。そしてその他でも前代未聞のことだが、そつなくこなす彼女がそこにいた。


  さて、まずは洗濯物を畳に。そして、それが終わり次第夕食の準備を。


  大量の物干し竿にかかるシーツを勢いよく取り、手に取ったものを片っ端から畳み続ける。

  ついでに物干し竿まで綺麗に拭き取り、仕舞いう。

  淡々と部屋中や廊下を走り周るが、足音は一切響かず、本日二回目の明後日用のシーツやシャツが用意周到にクローゼットの中に入っていった。


  お次は、ディナーの用意を。


  地下室近くにある調理場へと、足を進めた。

  広々とした部屋に前もって用意していた食物を台の上に並べ、包丁を用意した。


  本日のディナーは……

  小麦粉と卵で和え、小まめに盛り付けた彩あるヨークシャープディング。

  肉本来の美しさが際立つ、ローストビーフ。

  ひき肉をマッシュポテトで鮮やかに衣で包んだシェパーズパイ。


  そして、デザートは………


「悪りぃなねぇちゃん!!!」


  メイドがじっくりとメニューを考えていたところに、背後から大男がレンガを持ち上げて、メイドの頭めがけて振り落とした。


  あぁそういえば、調理場の窓を閉め忘れた。


  ゴンっと言う地響きの様な音と共にコレットは倒れた。頭部からは、どくどくと血が床に広がる。


「おい。その女を牢にぶち込んどけ」


  後ろから今度は、細身の男が出てきた。黒い服をきたサングラスの男だ。


「あいよ」


  メイドを殴った大男は細身の男がボスなのか、指示にすぐ動いた。


「ははは……アッハハハ!!!」


  細身の男は額に手を当てながら、ひたすら笑い続ける。


「さぁて、テメェらいくぞ!!我が物顔のお貴族様からたぁ〜〜っぷり奪ってやろうじゃねぇか!!」


  そう指示を出すと、後ろにいた強力の男達が顔を見せた。


「「「おぅ!!」」」






 _____ As you say《仰せのままに》.______







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