I 「 復讐に始まり 」


  もうじき、祭りが始まる。‬

  王妃がこの国に来た祝いの日である「転生祭」。それは王室のご生誕日と同じように、盛大に開かれる。その為に、街も人も祭りに向けて舵をきっていた。‬


「お嬢ちゃん!果実でも買っていかないかい?」‬


「野菜はどうかねー!」‬


「この布地、滅多にないよー!!」‬


  派手にやるだけあって、商人の輝きも一際目立つ。だがその中を、彼女は掻き分け歩いた。‬

  上は白のブラウスに黒いリボン。ふわりと広がるスカートは大きく波を発ち、お団子の髪には赤いバレッタが輝く。するりと、風とともに、紅色のリボンも流れた。‬

  手にしている大きな焦げ茶色のトランクケースはボロボロで、女性が持つには重そうだが彼女は軽々と持ち上げながら、片手に紙を持ち足早に向かう。‬

  大通りに程近い場所に、大きな邸宅がいくつか見えてきた。人通りよりも、馬車が多い。けれどよく見かけるのは、貴族とその従者達ばかりだ。‬

  コツコツとブーツの音が石畳に響き、ゆっくりと止まる。‬

  大きな階段と重々しい扉。如何にも、歴史ある由緒正しき御家おいえという感じだ。‬

  自然と鞄を持つ手が強まり、前髪が揺れた。けれど、歩む背に迷いは無い。一段一段とゆっくり登っていく。‬

  扉の前に着くと、黒いスカートを翻し、木の葉が揺れた。‬

  重い鞄を横に置き、錆びついたライオン顔のノッカーをコンコンコン、と叩く。‬

  息をのむ緊張感と、張り詰めた空気の匂い。‬

  葉が泳ぎ、風が音と共に流れる時、ギギィーーーと耳障りな音を出しながら扉が開いた。‬

  ‬




「お初にお目にかかります」‬




  後ろに足をクロスさせ、スカートを持ち、優雅にお辞儀をする。‬




「コレット・エバーハイムと申します」‬





  この出会いが、憎き者達への復讐の始まりだった。‬






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