第119話

さて、論文完成の打ち上げパーティーの前に、オケの部室に寄ってみる。


今日は血液型コンパだから、オケのメンバーは楽器を練習している姿ではなく、部室はほぼ待ち合わせ場所になっている。


僕はO型コンパに出られないし、こずえちゃんとの厄介な炎上話も少しトーンを押さえなきゃいけない。


まあ、軽く顔を出しに来た。



こずえちゃんがいる。


たまに僕から声かけしてあげよう。


こずえちゃんの二の腕を人差し指で軽く押す。


「ピンポ〜ン、おとぼけもので〜す」


「正先輩。本当のことを言っても全然面白くないですよ」


「でも、ギャグのレベルはまずまずです」


「まあ、今忙しいので不在通知入れといてください」


「どこに?」


「……」


「あら? 今、いやらしいこと考えてたでしょ?」


「僕は……、別に……」


「私に言わせるんですか? 18の乙女に」


「ねえ皆んな、正先輩ってね〜、言わせるのよ私に」


バイオリンの女友達同士で、ひそひそヒソヒソ話す。


「あ〜どうしましょう。どうぞ神様お助けください」


こずえちゃんはオーバーな神頼みのリアクション。


やっぱり、普通に声をかけとくだけでよかった……。



「おう、正」


「おう、隆」


「今日の飲み会。同じ店なんだって」


「ああ、偶然も偶然」


「B型コンパはこずえちゃんが店決めたから、正とやっぱり波長が合うんだろ」


「何をおっしゃるうさぎさん」


「偶然の恐ろしさに驚くだけだよ」


こずえちゃんが飛んでくる。


「最初のパーティー会場予定は生協でした。でも8時で閉まるので盛況じゃない、と烙印を押しました」


「それで、ザ・夏鍋、イタリアンちゃんこを準備してくれるジャルダンにしました」


「イタリアンちゃんこ?」


「はい。地鶏にトマトソースがしっかり絡み、ネギ、お野菜、お餅もフワフワ」


「夏鍋で、このジメジメした梅雨時期を吹き飛ばします」


「いや、このジメジメ感は十分残ると思うんだけど……」


「そしてシャケの混ぜご飯」


「シャケはこの夏場にはマイナーじゃない?」


「そこで下打ち合わせにて話しました」



『今が牡蠣入れ時ですね』


『こずえちゃん。牡蠣は冬だよ』


『値段もありますよね。この鮭の切り身、イクラになりますか?』


『イクラは無理だよ。ハハハ』



「コック長に大受けして、そこでなんとかしてくれることとなりました」


「あと、ジャルダンのコック長の弱みを、私握ってしまったんです」


「何それ?」


「我が教育学部の某美女4年生と不倫しているんです」


「そんなの奥さんにすぐバレるじゃない。奥さんといつも一緒に厨房にいるんだもの」


「それが、見て見ぬ不倫なんです」


「ちょっと待った。頭を整頓させて」


「見て見ぬ振り。見て見ぬ不倫……」


まあ、いいか。一緒だ。



「まあ、僕たちの園芸学研究室はビール会。教授、助手も交えて」


「お気楽に行くよ。教授のいる時間は大樹と義雄にはプレッシャーになるけど」


「サンドウイッチに、地鶏の唐揚げ、アソートチーズ、サラミ、スモークサーモン、ポテトフライなどなど、お子ちゃまオードブルフルコース」


「ザ・夏鍋! なんて考えもつかなかったよ」


「まあ、同じ穴の狢。正先輩もオケの方にもいらしてください」


「あのさ、どうせ全部の血液型コンパ、二次会で、扇谷に合流するんでしょ」


「当たり前です」


「扇谷の、つみれを突かずして結構ということなかれ」


「なんか、どこかで聞いたセリフだね」


「僕は帰るからね」


「え〜え〜」


「恵先輩とですか?」


「うん」


「えっ! え〜」


こずえちゃんは、がっかりと悔し顔。


「そうそう、私におとぼけものの不在通知が届いてました」


「どこに?」


「扇谷さんに行った後に、正先輩だけにお見せします」


「誰も知らないと・こ・ろ、いやそれは嘘です、愛していると言わないで欲しかった、過去にそこを知っていた男性が二人ほどいました……」


「まあ、ほとんど知らない秘密の花園です!」


「こずえちゃん。今晩、絶対! お酒は控えてね」


「素面でこうなんだから」


「飲むとどうなるか分からない」


「初めての私を前に、サクランボ状態にならないでくださいね」


「だから、それ今、素面で言える?」

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