第120話

オードブルがやってくる。


ゆっくりとサランラップを開けていく。


サンドウイッチ盛り合わせ。二口大のキュートな四角型のやつ。


これはこの店の看板。具材もパンも、ものすごく美味しい。


ほとんど毎日、この店の昼のサンドイッチにはまっている学生も多い。



そして、地鶏の唐揚げ、アソートチーズ、サラミ数種類、スモークサーモン、ポテトフライ。


高価ではないだろうけど、テリーヌも付いている。


シンプルなものにした。


その代わり、生ビールは飲み放題。


そして、オーナーとの事前打ち合わせで出てきた、気遣い無料サービスの、明太子スパケティ、納豆スパゲティも一人半前ほどづつ、付けてくれている。


そして、今日はマスターの心意気が特にいい。


「義雄さんのご予約ですからね。正さんもだめ押ししてくれて。色々楽しみを用意しておきましたよ」


「ナンも準備をしてくれている」


「このナンはなんですか?」


「ありがとうございます」


「いつもの誰にでも受けるナンの受け答え」


恵ちゃんがクスッと笑った。



「オードブルの具材などもくるめたりして食してください」


「でもメインはビーンズカレー、後ほどお持ちしますよ」


「特別、美味しいの作りましたから」


「最高です。マスターありがとう」



「さあ、みんな揃ったか」


浅野教授が乾杯の音頭をとる。


「はい、みんな揃いました〜」


幹事の義雄が確認する。


「じゃあ諸君。ふとした自然現象の不思議への興味から、今回、このように2報の論文がこの世に出来上がったこと、誠に嬉しく思う」


「誰が主役じゃなく、みんなが主役」


「この、約二ヶ月半という短期間でよく完成させた」


「ありがとう。皆んな。乾杯!」


「乾杯!」


ジョッキを掲げ合う。


あれ? ひと瓶多い?


言うまでもない。


「こずえちゃん。B型コンパの会場はあっち→、座敷の方だよ」


「ここはダメ」


「あ〜あ。とてもひどいことを言いますね正先輩」


「淋しい、胸が何かで突かれた感じです」


「僕は、胸がこずえちゃんに憑かれた感じだよ」


「ねえ、あとで交わろ……」


「えっ? 交尾ですか?」


「違う違う」


「2次会の扇谷で合流しよう、と言うこと」


「今、ここにこうして同じジャルダンにいると言うのに、遠い存在……」


「淋しいです私」


「あら、こずえちゃん。こっちにいてもいいのよ」


恵ちゃんがこずえちゃんを呼び止める。


私たちもお祝いだし、いいと思う。


歩ちゃんや、みどりちゃんも歓迎している。


「こずえちゃんが嬉しくて少し泣き顔になる」


「ありがとうございます。ふつつか者ではございますが、いっとき側においてくださいまし」


「しばらくしたら、あっち→へ戻ります」


「ザ・夏鍋のイタリアンちゃんこの奉公もして来なければなりませんし」


「そんな、こっとで、よろぴくお願いします」


「こずえちゃん、とか言ったな」


「はい。教授」


教授はナンにサラミ、オリーブオイルをかけて乗せて、チェダーチーズを包みこんでこずえちゃんに渡す。


「とっても、まいう〜です」


教授も優しい。女の子には。

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