第106話

「いっただきま〜す!」


中華料理店。単品だの定食だの色々注文。


女の子たちは、パシャパシャスマホで写真を撮っている。


珍しくこずえちゃんも。


「この春巻き、パリッパリで美味しいです! 焼き餃子も大きくて美味!」


紀香ちゃんや夕子ちゃんが大喜び。


「これが、宇都宮餃子っていうんですか?」


「違うよ。僕の知っている宇都宮餃子は、もう少し小さめで柔らかく、具も違う」


「ここのは、パンパンでニラもたっぷり。焼き加減も丁度いい」


「お腹が空いているからじゃなくて、ここの中華、最高です!」


こずえちゃんは、あんかけ焼きそば、エビチリ、ニラ団子に舌鼓を打つ。


「まいう〜! 最高です、ここの味。味付けにメリハリがあります」


「私たち、同期の子達と横浜の中華街もたまに行きますが、正直まだ、ここほど美味しいお店を知りません」


紀香ちゃん、夕子ちゃんも舌鼓を打つ。


「ニラ団子。最高です!」


「もう、カフェテリアのニラ饅頭は忘れます」


「本当?」


僕はこずえちゃんの言葉を信じない。


「嘘です。あれはあれでいいんです。やっぱり近くで用を済ますでしょう」


「私が正先輩で用を済ましているように」


「おい正。本当にこずえちゃんで用を足しているのか?」


「隆よ。聞いてるだろ? 義雄からとか」


「今僕は仲の良い女の子と一緒なの」


「ああ、まあね」


「でも、こずえちゃんと伊豆でキスしたとか、牛丼と一緒にアパートにおもち帰りしたとかの方が、オケでは噂になってるぞ」


「はぁ……、全く……」



「美味しい美味しい! 全部美味しい。幸せです」


「チャーハンも、思いっきり食べちゃいます」


「無礼講ですみません」


僕は昨日食べたから知っているが、確かにここより美味しい中華料理店を探すのは難しいかもしれない。


「セットについてる杏仁豆腐ください!」


僕と隆は、女の子三人に杏仁豆腐を振る舞う。


「え〜っ! 甘さ、柔らかさ、杏仁の加減が絶妙。優しい味」



「正よ、このお店、本当に美味しいな」


「今度、俺、里菜ちゃん連れてこようかな。最近グルメなデートしてないし」


「大樹さんからLINEが入っています」


「料理を見て美味しそうだと。また、日光に来る計画を立てるそうです」


「もしかして……、大樹に送った? LINE」


「はいっ!」


まあ、予想はしていた。でももう大丈夫。


さすがの彼らも今回だけは動けまい。


「来週の水曜あたり、都合がいいらしいです」


「まじ? 勘弁してよ……」


「まあいい。僕がいる必要がない」


僕は居直る。


「ランチと、東照宮、日光植物園だけらしいです」


「却下、却下。後で僕から連絡しておく」


「里菜ちゃんも、来週水曜なら大丈夫そうだ」


「あのさ……、隆も」


「まあいい。繰り返すけど、僕がいる必要がない」


「正先輩は必要です。オケのLINEも炎上しました」


「美味しい中華に、日光観光、初夏の爽やかな植物園散策」


「皆、食いつくわけです」


「そこで誰が植物園案内できます?」


「……」


「この件は私にかませてください」


「任せてください、じゃないの?」


「心配は無料です」


「ツアーガイドの正先輩分の旅費、食費はかかりません。皆で割り勘で出します」


「僕、そんなことされたくないよ」


「そこまで貧乏じゃない」


「ボロは着てても、心はナイキ、ですね」

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