第107話

「さすがパワースポットです」


「東照宮、すごいです」


「さて、家康公のご利益を授かりましょう」


こずえちゃんは目が爛々としている。


「陽明門、すごいですね」


皆んなでじっくり見回す。僕も。


3度目だけど素晴らしい。筆舌に尽くしがたい素晴らしさ。


「次に神厩舎です。16匹の猿がいます」


「人間の一生が風刺された作品で、作者は不明なのだそうです」


こずえちゃんは色々調べてきている。


「1面は、母猿が手をかざして子猿の将来を見ています」


「2面目は有名な三猿。3匹の猿がそれぞれ耳、口、目をふさいでいます。見ざる言わざる聞かざるです」


「3面、座っている猿の姿。一人立ち直前の姿を表しています」


「4面、猿は大きな志を抱いて天を仰ぐ。青い雲が“青雲の志”を暗示しているようです」


「5面目。猿の“人生”には崖っぷちに立つときも、迷い悩む仲間を励ます友がいます」


「6面、物思いにふけっている姿。恋などに悩んでいる姿」


「7面目、結婚した2匹の猿。大きな荒波の彫刻は、これから夫婦で乗り越えてほしいという願いがあります」


「8面、お腹の大きな猿。やがて母親になって1面へと戻ります」


こずえちゃんの説明はツアーガイドさん並みだ。暗記力がすごい。脱帽する。


教育学部に必要な、人に物事を丁寧に分かりやすく伝える素養。満たしている。


「眠り猫の先には、家康公の墓の上に立つ宝塔があります。真横と真後ろが、特にパワーが強いらしいです」


「隣には、願いが叶うといわれている叶杉のほこらがあります」


東照宮の正門を出て右手にある石灯籠が続く参道。今日で3日連続だ。


道の先には二荒山神社。


「二荒山神社、強いパワースポットです」


「パワーのある2つの神社を繋ぐ上新道、とても強いパワーが集まっています」


「私には分かります。ものすごく強いです」


確かに歩いていると、不思議、強い霊気をこの三日通じて感じられる。



「さて、夫婦杉です」


「正先輩。縁結びの神です。おみくじ結びましょう」


「ああ、僕、恵ちゃんと結んだから」


「どこですか?」


「右の下から2番目の一番はじっこ」


「これですね。まず外します」


「おいおい! 勘弁してよ」


「そして、私たちのこれをつけます」


「だ・か・ら、外すのは勘弁して」


「分かりました。その意見はのみます」


「隣に結びます」


「御神木に一緒にそっと触れましょう」


僕は仕方ない、言う通りにする。


「これで恋人との良好な関係を築けるパワーを授かりました。恵先輩との上をいきました」


「はいはい」


僕はこずえちゃんを軽くあしらう。



ーーーーー



植物園で入園料を払い、駐車場に入る。


「結構軽だらけ、猫灰だらけですね」


「こずえちゃん。駐車場の車からギャグ始めない」



「ここが植物園ですか?」


「想像していたのとは違いますね。自然植物山です」


「そう、ここは自然の中で、自生している、あるいは自生している植物の中で色々な草花を魅せる植物園なんだ」


「たくさんの花が咲いてますね」


「知りたい花だらけです」


「猫……」


「こずえちゃん。ギャグはいらないよ。花だらけで十分」


「はいはい」


僕は三日目。


でも、隆、こずえちゃん、紀香ちゃん、夕子ちゃんに花の名前や意味、その他諸々関連する話を丁寧にしてあげる。


「正先輩。花には格別詳しいんですね」


「いつの間に覚えたんですか?」


「子供の頃から覚えたよ」


「さて、この花はなんですか?」


「こずえちゃん。自分を指差さない」


「説明は省くけど。可愛いよ」


「いつの間に覚えたんですか?」


「二ヶ月半で」


「嬉しいです。先輩の欲に立ちます!」


「こずえちゃん。欲はいらないよ」

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