第105話

「ところで紀香ちゃん、夕子ちゃん、出身どこだっけ?」


「千葉県です」


「習志野、権兵衛です」


「だ・か・ら、こずえちゃんの故郷は知ってるし、そんなダジャレ、耳に入らないよ」



「私は広島県です」


紀香ちゃんが答える。


「へえ〜。広島のどこ?」


「三原市です」


「見晴らしのいいところです」


「だ・か・ら、こずえちゃんには聞いてない」


「でも、本当に三原市いいところだよね」


「ほら、正先輩も言った」


「僕のは、市にアクセントがあって、こずえちゃんのは見にアクセントがあるでしょ?」


「尾道や三原市に行ったことあるんだ。広島に行く途中。先輩の車で」


「え〜っ。何キロくらい走ったんですか?」


紀香ちゃんが驚く。


「800キロちょいかな?」


「すごいすごい」


「京都の桂川SAまで一気に走り、そのあと一気に笠岡市に向かった」


「カブトガニをゆっくり見て、そのあと尾道観光」


「そして三原市で食事」


「とにかく瀬戸内海の島々が美しく、魚介類はとびきり美味しい」


「シャコとか美味しかった〜」


「そのあと、宿泊は広島県の片田舎の先輩の実家」


「大きな石風呂が気持ちよかった」



夕子ちゃんの故郷は?


「北海道の小樽です」


「またまた、遠いところから」


「おた〜るのひか〜り、蝦夷のゆ〜き〜」


「こずえちゃん。何でもダジャレにしちゃダメだよ」


「は〜い」


「小樽は僕の母の故郷なんだ」


「へえ〜。そうだったんですか」


「2〜3度行ったことがある。運河だけじゃない。オシャレで住みやすそうな街だよね」


「はい。北海道にしては雪が少ないし、大都市札幌もすぐ近く。海も綺麗ですし、食べ物も美味しいです」


「うん。坂の街で美術館やオルゴール堂あり。ノスタルジックに包まれた素敵な街だよね」


「そうそう、函館、札幌と並んで、北海道三大夜景のひとつ。天狗山からの夜景もいいよね」


「正先輩。貧乏な割にあちらこちら知ってますね。天狗にならないでくださいよ」


「こずえちゃん。貧乏、だけはいつも余計だよ」


「誰なの? 貧乏人を三日間も日光へ連れ出したの。伊豆にも行ったでしょ?」


「はいはい」


「でも、昨日の日光は経費でタダだったんですよね?」


「正先輩の行く会社、よいしょある会社ですから」


「はいはい。由緒ある会社です」


「さて、トイレ休憩しようか」


「このサービスエリアはウサギの国があるらしいです。楽しみです!」



「ウサギの餌を買ってきました」


「ほら! みんな飢えてます」


「あのさ、僕たちも飢えてるんだけど……」


「うえをむういて、あ〜るこ〜をおおお……」



「何だか少し、ぱらっと雨みたい」


僕は百均まみれのカバンに入っている折りたたみ傘を取り出した。


「天気予報では、晴れだと言っていたのにね」


「まあ、梅雨の時期だから多少の雨は仕方ないか」


僕はこずえちゃんに傘をかけてあげる。


「これはこれは、ずいぶんとダイソーなものを」


僕は相変わらずのこずえちゃんのギャグに呆れる。

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