第54話

皆んなで、ワイワイガヤガヤ合宿所に戻って来た。


「プシュー」


明らかにノンアルコールビールとは思えない。飲めば飲むほど皆陽気になる。


とうとう、一升瓶まで登場した。伊豆の美酒らしい。


義雄も持ち込みのお酒、つまみをテーブルに並べる。


恵ちゃんがお酌をしてくれる。


「恵ちゃん、飲まない?」


「ううん。私はいい」


「さて、皆さん。合コンを始めましょう!」


大樹が急に叫ぶ。


また、あれか……。



「さて、いま座っている席を一度立って、血液型がA型の人は左前テーブル、B型の人は右前テーブル、O型の人は後ろの左側テーブル、AB型の人は右後ろテーブルに移動しましょう」


皆、グラスを片手に移動し始める。


恵ちゃんと僕はO型。大樹はB型。義雄はAB型。僕らも分散する。


「意外に均等に分散されるのね。AB型は少ないけど」



「さて、皆でお見合いするように話を盛り上げていってください!」


最初は静かめだが、次第にガヤガヤ、笑い声も飛び交い始める。でも、AB型の席は意外に静か。


しばらく、皆で歓談する。何となしか、B型コンパの席が明るい。


20分も経ったろうか、どの席もワイワイして楽しそう。意外に血液型コンパは、同士で盛り上がる。


「さて、次に他己紹介をいたしましょう。制限時間、一人1分厳守です」


「大樹せんぱ〜い。他己紹介って何ですか?」


少し酔って呂律の回らない男の子が質問する。


「皆んな、自己紹介は嫌なほど済んだでしょうから、他己紹介。今右となりにいる人と二人ペアで、例えばその人の名前の由来。出身地の特徴、好きなアーティスト、好きな食べ物などなど、他人から聞いたことを他己紹介します」


「自分が他人に紹介される。そんなゲームみたいなものです」


「は〜い」


「50人いるから約1時間。話し合いは今からワンペア5分くらい取りますから、それを1分で紹介できるよう短く他己紹介してください」


「そうそう、大切なことがあります」


「他己紹介は、明るい話、プラス面の話のみ、何でもいいです。しかし、人を傷つけたり、不快にしたり、その人の政治、宗教に関わる話などはやめてください」


皆んなでガヤガヤ、ペアになって互いの聞き取り合いが始まる。


さて、他己紹介が始まる。血液型合コンで気もあっているのか、時間も予定通りスムーズに運ぶ。


「加藤洋行さんの洋行の名前は、洋、つまり7つの海を飛び回り、行くは、世界の色々なところに行けるよう名付けられたそうです!」


「なるほどね、加藤、英語できるしな」


「将来、楽しみだな」


色々なリアクションのつぶやきが聞こえる。


やはり、ペアの相手の名前の由来の他己紹介が多い。この他己紹介は、盛り上がると言うより、へえ〜そうなんだ、と言う内容のものが多い。



「さて、他己紹介も終わり、懇親もより深まったと思います」


「続きまして、出身別コンパ!」


「北海道、東北の人は左前テーブル、関東の人は右前テーブル、中部、近畿の人は後ろの左側テーブル、中国、四国、九州の人は後ろの右テーブルに移動しましょう」


これは、関東の人が少し多い。


また歓談が始まる。血液型コンパより盛り上がりが大きい。


やはり、同郷の話題。皆楽しんでいる。



「皆さんには後で、それぞれのグループで、地方の面白い方言を紹介していただきます」


大樹は先に発表内容をアナウンスする。


「北海道では、とても美味しいを、なまらうまい、と言います。なまらは、とてもという意味で、味だけでなく、なまら疲れた、なまら面白い。英語で言うveryと同じの形容詞です!」


「鹿児島では、だるいことをてせ、とても疲れることをてせ〜と言います。宮崎や大分では、面倒臭いことを、よだきいと言います」


「だから岩崎、実習で疲れた時、てせ〜って呟いていたんだ」


「田辺は、よだきい、よだきいが口癖みたいだしな」


地方別コンパも盛り上がる。



夜も10時をまわった。


一年生が音頭をとる。


「それでは皆さん。そろそろ終わりにしましょう。そして四年生の先輩方に盛大な拍手をお願いします!」


食堂中割れんばかりの歓声と拍手。僕らは深くお辞儀をした。


皆、大いに喜んでくれた。他己紹介、企画コンパのおかげで、どうやら話したくても話せなかった男の子、女の子たち同士、仲良くなったらしい。



「さて、海行くヤツ、いない?」


「大樹が一年生のイケメン、何人かに声をかける」


「おいおい、大樹、行くのかよ?」


僕が聞くと、


「まあな」


「歩ちゃんに怒られるぞ」


「はいはい」


大樹は4−5人連れてまた夜の海に向かった。



「恵ちゃん。大樹、呆れるね」


「いこうよ、海」


「えっ?」


「さっきの続きが欲しいの」


「正くんが欲しいの……」

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