第53話

「さて、行くぞ〜夜の海。花火だ、花火! ナン……」


大樹は息を止める。


「大樹君たちも、一年生のとき、こう誘ってくれれば男の子も女の子も海に行ったのに」


「済まん、済まん。当時はつい結論から先に述べて」


「まあいいわ。行きましょ。夜の海」


みんなでゾロゾロ海に向かう。


「バケツ班、ちゃんと水入れて来たか〜」


「男子が叫ぶ」


「大丈夫よ〜」


黄色い声が答える。



海までの細い道。僕は恵ちゃんと並んで歩く。


大樹と義雄も並んで歩く。



「わあ、綺麗。船の明かりね。夜空も星いっぱい」


恵ちゃん。可愛い。澄んだ目で星空を見上げる。


天使そのもの。


僕の口が勝手に話し始める。


「ランボーは言ったんだ」


「何て?」


恵ちゃんのいつもの不思議顔。暗がりの中、それはまたとても可愛い。


「また見つかったぞ。何が? 永遠が。それは太陽と共に去って行った海」


一年生、大樹、義雄グループからふた足、三足遠のいた距離。


大樹たちは花火場所を見つけに小走り。


僕はどうしたことか立ち止まり恵ちゃんを後ろから優しく軽く抱きしめる。


抵抗はない。


「正くん。好きにしていいよ……」


僕は意味がよくわからない。


でも、恵ちゃんの少し胸元の広いワンピースの左鎖骨辺りから手を差し入れる。


とても柔らかい乳房に手のひらが当たる。指先がふと乳首に触れる。


ビクンと恵ちゃんの体が揺れる。


そのあと、急に恵ちゃんは僕の方に振り向き、僕を強く抱きしめる。


そしてキス。


「正くん。ありがとう」


「いや……、恵ちゃん。こちらこそ……」



「正、花火だぞ、花火。恵ちゃんもおいで」


大樹と義雄の声。


「行こうか」


「行こう」


一年生と混じって大はしゃぎの花火。


花火の明かりに映る一年生の澄んだ目。瞳の綺麗な子ばかり。


「夜の海、楽しいじゃん」


「だろ」


「大樹が一年次に余計なこと言わなければ、一年生からこの快感得られたのに」


恵ちゃんがそわそわして落ち着かない。


「どうしたの? 借りて来た三毛にゃんみたいだよ」


「はい。花火」


僕が恵ちゃんに花火を手渡す。


「ありがとう……」


「恵ちゃん。今を楽しもうよ」


「そうね」


いつもの恵ちゃんに戻る。


「なんで先輩たち仲良くて、そんなに面白いんですか?」


一年生が僕らに声かける。


「それはね、科学を追求している仲間たちだからだよ」


「ふうん」


一年生はよく分からないらしい。


「科学とはね、知ることなんだ」


「知ることはまた科学になるんだ」


僕は一年生の女の子に試してもらう。


「例えば、この花火、バケツの水に入れてごらん」


「あっ! すごい!」


「水の中でも花火が燃えてる!」


「でしょ? な〜んでだ?」


「分からないです」


「そういう分からないことを知るのが科学なんだ」


義雄が言う。



「火薬の周りが防水剤で保護されているものは水中でも消えにくい。でも線香花火のように保護さていないものは消える」


「また、水中で消えない花火は、防水剤だけじゃなく、酸化剤のおかげで酸素が供給されて花火自身の熱源で燃え続けるの」


恵ちゃんも優しく一年生に教える。


「へえ〜。不思議なんですね」


「そういうふうに、感じた不思議を解明するのが科学だよ」


「なんか、先輩たち面白いしすごいですね!」

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