第55話

「恵ちゃん。じゃあ、シャワーでも浴びてから海に向かおうか?」


「うん。そうする」


「僕も軽く、シャワー浴びてくるよ」



食堂では中締めをしたが、まだ一年生はワイワイ騒いでいる。


底抜けの若さ。血液型合コン、出身地別合コンの成果も上がっているようだ。


皆、心打ち解け楽しそう。


今宵を楽しもう。


明日、僕らは朝食後、大学に戻る。



ーーーーー



「じゃあ、恵ちゃん、行こうか?」


「うん」


オレンジ色のワンピース。綺麗だ。


一年生の中にいるからかもしれないが、普段のおてんば娘さんが今日は特に大人びて見える。


濡れたままの洗い髪のシャンプーの香りと、お気に入りのティファニーの混ざった素敵な香り。僕は魔法にかけられる。


それだけでも胸の鼓動が高鳴ってくる。



二人並んで、海岸への細道を歩いて行く。


手を繋ぐ。


この、ごく自然な行動だけで、言葉にできない嬉しさがこみ上げてくる。


花火をした時とは大違い。夜の海の人影はまばらだ。


「船の明かり、星空。さっきよりも素敵だね」


「うん」


ひと気のない方へと足を進める。


「正くん。一年生の時からずっと私を見つめていてくれたの?」


「いや、恵ちゃんは気にはなっていたけど、三年生までは彼女なんて作らないと心に固く決めていたから。恵ちゃんが誰かに取られても仕方ないと思っていた」


「どうして?」


「話は僕が貧乏なところからはじまるんだ。デートに出せるお金もないし、洒落た服を買うお金もない」


「でもね、心と身なりは清潔にしてたよ」


「だから、オケではモテるのね」


「それはどうだかわからない」


「今のオケは異常。こずえちゃんが僕にクレイジーで今少しブームになっているだけ」


「だいたいわかるんだ。彼女のような陽気で社交的な子は、優しく断れば、すぐに新しい彼氏を見つける」


「あら、それでいいのかしら?」


「僕には恵ちゃんがいる」


「さあ、どうだか。私だって、わからないよ〜。陽気で社交的な子だから」


「でも今日の私は正くんのものよ」


人影のない二人隠れる暗闇の中、互いに寄り添う。



さっきと同じ、僕は背後から恵ちゃんを抱きしめる。


さざなみの音と、微かな潮風が優しい。



「ずっとこのままでいたいね。永遠? だっけ?」


「うん。太陽と共に去って行った海」


僕は無言で背後からブラジャーの下の乳房を優しく手で包んだ。


恵ちゃんは、僕のジーパンのチャックあたりを撫で上げている。


僕は顔を恵ちゃんの濡れた髪に埋める。


沈黙の時。


そして、耐えられない……。


「ちょっといい?」


「うん? 何?」


少し息遣いの荒くなった恵ちゃんが僕に問いかける。


僕はジーンズのチャックを開ける。


密着して背後から抱いたまま、恵ちゃんにそそり出るものを握らせた。


恵ちゃんは、握りしめた手をピストン運動のようにゆっくり動かす。


僕はさらに恵ちゃんの髪に顔を深く埋め、香水と入り混じった香りだけで呼吸する。


さざなみの音が、遠のいて聞こえるようになってくる。


「恵ちゃん。いいかな?」


僕は耳元で囁く。


「何?」


「うん……、あの、出したくて……」


「どうすればいいの?」


「恵ちゃん。手のひらを出して」


「うん?」


恵ちゃんの小さな声。


恵ちゃんは僕の方を向き、右手の手のひらを僕のところに差し出した。


「いくよ……」


最後は自分で。恵ちゃんの手のひらに長い間射精した。


「恵ちゃん、ティッシュある?」


「ううん。ないよ」


「どうしよう?」


「海があるじゃない」


恵ちゃんはお椀型にした精液のあるその手のひらを、こぼさぬよう大事そうにして海まで運ぶ。


「流しちゃうよ。海に」


「うん」


穏やかな波が、恵ちゃんの手をくぐる。


「僕だけ、気持ちよかったね」


「ううん。そんなことないよ。私も」


「戻ろうか?」


「戻ろうか?」


いつものおうむ返しの恵ちゃんに戻る。


船の明かりが僕らを照らし、オレンジ色のワンピースの恵ちゃんが素敵に映える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る