第50話

「小腹空かない?」


「全然。恵ちゃんお手製のおにぎりで僕らは大満足だし、お腹いっぱいだよ」


「正は五つも食べたんだよ」



「でもさ〜」


「わかったよ。デザート感覚でグルメしよう」


「うん! ありがと」


パインボード二つに、それぞれにフレッシュバナナジュース、そしてバナナパフェを頼む。


「美味しい!」


「最高だね!」


「でしょ?」


「ご当地ものはご当地で口にするものよ」



「夜の海の出会いみたい」


「大樹、それは何の例えだ?」


「ご当地で会った子は、そこでご馳走になると言うこと」


「あ〜あ。また……」


恵ちゃんがため息をつく。


「でも、何度も聞いていると、相手がいるわけだから、相手も楽しいのよね、きっと」


「おっ? 恵ちゃんわかって来たね。そういうことだよ」


「ねえねえ、興味はないけど、最初にどういうような言葉かけるの」


「うん。一例だけどね」


大樹が話し出す。



「こんばんわ〜。あっ! 君の瞳とても綺麗。まつげの角度もとっても素敵」


「牛乳のように白い肌」



「まあ、こんな風に始めるかな」


「そのあとは?」



「おだやかな水平線 僕はそこに永遠が見えるんだ」



「46億年前のむかし、生まれたばかりの地球には海など無かった」


「岩石がとけたマグマだけが地表をおおっていたんだ」


「歩いて地球上、何処へでも行けたよ」



「空は、蒸気や窒素、二酸化炭素などのガスでできた原始大気でおおわれていたんだ」


「やがて、地球の温度が急に下がって、原始大気の中に含まれていた水蒸気が雨となり、地上にふりそそぐようになる」


「地球全体が豪雨の時代となったんだ 熱湯の雨だよ」


「地球上、年間の雨量は10mを超え、すさまじい大雨だった。日光の届かない暗闇の中、それが約千年もの間、毎日続いたんだ」


「岩を削り、岩石の水溶性の要素を全て溶かしこみ、地表の低い部分へと流れ、そこに溜まった」


「そして、地球の70%が海になった」


「海。僕らの体も海の一部なんだ。かけがえのない海から生まれたんだ」


「43億年続いている、寄せては返す渚でたわむる」


「そして今ここに、君という天使が舞い降りてる」


「できれば、今宵仲良くして、互いに大切な命、そして永遠を語らないかい?」



「まあ、こんな風かな?」


「それ、何かの論文のイントロダクションにできそうね」


恵ちゃんが感心する。


「ナンパって意外に頭使うのね」



「正くんのように、バナナはバショウ科バショウ属。原産地は熱帯アジア、マレーシアなど。属名はMusa属」


「バナナの木と言われるように、高さ数mになるが、実際には草本であり、その意味では園芸学上、果物ではなく野菜と分類される」


「それとか、イチゴ、 Fragaria属は、バラ科オランダイチゴ属の半落葉性草本であり、これも広義には野菜に分類される」



「こんなんじゃ、女の子口説けないね」


「当たり前」



「僕も、面白い詩とか書いてるよ」


「あら、どんなの?」


恵ちゃんに見せてあげる。



ー 実のなる恋 ー



買って来たよ 缶詰パイン


シロップ漬け4枚入り


甘酸っぱくて美味しいの



ゆっくり食べよう


穴を覗いてフルーツ友達ご紹介



一つ目の穴を覗くと マンゴーさん 


ウルシ科のマンゴー属 Mangifera indica

ヒンドゥ教では大宇宙の神様だよ



二つ目の穴から ココナッツさん


ヤシ科のココヤシ属 Cocos nucifera L.

ポルトガル語でココス(サル)の意味

孔がサルに似ているからだよ



三つ目の穴は パパイアさん


パパイア科パパイア属 Carica papaya L.

実は、恐竜時代の生き残りと言われている古代植物



四つ目の穴からは ドリアンさん

アオイ科のドリアン属 Durio zibethinus

言わずと知れる 王様の果実、そしてまた果実の王様



あっ! 全部食べちゃった!


自己紹介を忘れてました パイナップル

パイナップル科アナナス属 Ananas comosus

実が『松ぼっくり』に似ていて、リンゴのようなあまい香りがするから、

pineとapple、組み合わせて『pineapple』



僕らにもね、花言葉があるんだよ



一つ目 マンゴー 「甘いささやき」


二つ目 ココナッツ「思いがけない贈り物」


三つ目 パパイア 「燃える思い」


四つ目 ドリアン 「私を射止めて」



こうして恋のステップ踏んでいくよね


そうして締めのパインの花言葉 それは「あなたは完全です」


はい! ここまで! 実のなる恋の成立ですよ



「まあ、こんな風に」


「学問風の詩の作りね」


「論理とストーリーを構築する、正くんらしい詩」


「私、好きよ。でもやはりナンパ文句は大樹くんの勝ち。科学的かつ面白いもん」


「僕、恵ちゃんに好かれるだけでいいよ」


「あら、こずえちゃんには?」


「残念ながら、大樹の殺し文句の方が勝ちだ」


「だから安心して。僕には恵ちゃんしか見えないし」



「おいおい、どうしたんだ正。バナナの角に頭でもぶつけたか?」


大樹と義雄が冗談混じりで僕を笑う。


「いや、こずえちゃんなら、正くんの話、興味あるわよ」


「どうして? 恵ちゃん」


「女の勘よ」


「女の子って、その人しか見えないと、何を言おうとその人の虜になるの」



「恵ちゃん。正の詩にある、甘いささやきみたいのあったのかな?」


大樹が聞く。


恵ちゃんは、恥ずかしそうにバナナジュースのストローに口を当てる。



小さい声で、


「何だか……、そんなのあったよ……」

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