第49話
「来たぞ〜、海だ!、山だ!、温泉だ!」
「伊豆ね。爽快ね!」
「え〜と、タコの木、タコの木。あれはタコノキ科、Pandanus属」
「だから、正よ、二日間くらいのんびりいこうよ」
「いこうよ」
「はいはい」
僕は植物検定の冊子をしまう。
「おはようございま〜す」
50人の一年生の若々しい声が僕たちに響く。
「やあ、おはよう!」
陽気な大樹が手を上げて挨拶返しする。
果樹園芸実習は4日目の朝。4日も一緒に寝泊まりすれば、皆心が打ち解けて来る頃。
懐かしい、僕らもこうだった。
初めは何も知らなかった僕たち。3年間の日々が、僕たちを何とか知恵や論理を駆使することのできる四年生にまで成長させてくれた。
「先輩たちは朝ごはん食べて来たんですか?」
「ああ、食べて来た」
「な〜んだ。もしもの時に備えて、朝ごはん、残しておいたんですよ」
手作りのぐちゃぐちゃな形の卵焼き、切り方の太さがまちまちのオクラ。そして焼きすぎているアジの開き。味噌汁には、増えるワカメが増えすぎている。
まあ、この7日間は、一年生の完全自炊生活。班ごとに料理の良し悪しが分かれる。女の子が居れども料理が上手いとは限らない。
でも、皆んなで楽しく食べれば、何でも美味しい。
オケの後輩も3人いる。トロンボーン、チェロ、フルートの子。
「こずえちゃんのお気に入りの正先輩、おはようございます」
「あらあら、伊豆に来てまでなの?」
恵ちゃんが笑う。
「こずえちゃんのお気に入り、は余計な接頭語だよ」
僕らは皆んなで微笑む。
「早速俺たち、バナナワニ園に行くからね」
「あら、先輩方、果樹実習のサポートじゃないんですか?」
「建前、建前。毎年の四年生の楽しみな自由時間だよ」
「な〜んだ」
一年生は少しがっかりしている。
「夜は頑張るからね。皆んなで遊ぼっ」
「は〜い」
皆一斉に声を上げる。
ーーーーー
「ワニよ、ワニ! 君たちどうしてここにいるの?」
恵ちゃんのおとぼけが始まる。
「ワニ園にワニがいなくてどうする」
大樹が言うと、
「あら、どこだかのテーマパークには、クジャクがいると言って、いなかったことがあるのよ」
恵ちゃんが言い返す。
「確かに。どこだかのスナックで、新しい子が入ったのよ、と言って入っていなかったことがある」
「大樹よ、それは例えが違うだろうよ」
僕は二人に呆れる。
「まあいい。ここにはいる。ワニさんも、カメさんも」
「うん。可愛いね」
「見て見て! レッサーパンダよ。可愛い!」
「アニメのアライグマ、ラスカルに似ているね」
「アライグマとレッサーパンダはどこが違う?」
大樹が皆に問う。
「アライグマのラスカルは、実はレッサーパンダをデフォルメして作られたキャラクターなんだ」
「アライグマとレッサーパンダの違いは、体色と顔の模様の2つ」
「レッサーパンダの体色は鮮やかな赤茶色、アライグマは灰色がかった茶色」
「顔の模様も違って、ほっぺに白い模様があるのがレッサーパンダ、太い眉毛のような白い模様が特徴的なのがアライグマ」
「義雄、詳しいね」
「オタクのような詳しさね。ぬいぐるみ、抱いて寝ているんじゃないの?」
恵ちゃんも感心する。
「ねえねえ、見て見てフラミンゴ」
「赤からオレンジ色の体毛。グラデーションがとても綺麗ね」
「あの体毛の色は餌から来ているんだよ。主としてβカロチンとか」
「カロチノイド!」
「そう」
「犯人を突き止めたわよ。色を出す餌はニンジンね」
「恵ちゃんの脳の働き調べてみたいよ」
「エサは水中の藻類やエビなどに含まれるカロチノイド」
「オレンジならオレンジ、赤なら赤」
「ちなみに、餌にカロチノイドが含まれていなければ白になるんだ」
「ふ〜ん。なんか、カーネーションが白だとか、赤だとか、そしてオレンジ花色になる謎に、微妙に繋がる部分あるかな?」
「無いね」
皆んなで笑いながらも、一本足で立っているオレンジ色のフラミンゴが、オレンジ色のカーネーションに重なって映る。
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