第41話
「恵ちゃん。ところでハーブは何を取ってきたの?」
「ペパーミントとローズマリー」
「いつもの紅茶、クールで爽やかな味に大変身するよ」
紅茶を注いだカップに、ペパーミントを2枚浮かし、ローズマリーをほんの少し。
「ああ! 全然違う。いつもの紅茶が大変身だ」
「でしょ」
恵ちゃんは微笑む。
「では、歩ちゃん作のクッキーも頂きましょ」
「美味しい! サクサクでくるみ入り。食感も味も抜群だね」
僕はあまりクッキーを食べない方だが、これは美味しい。感動もの。
「チョコクッキーの方には、チョコチップが入っているね。これもサクサク」
「歩ちゃん、このサクサク感、どうしたらできるの?」
僕が尋ねると、
「女の子の秘密よね〜」
「秘密よね〜」
恵ちゃんと歩ちゃんが見合って相槌を打つ。
「恵ちゃんの秘密はあてにならないな」
「あら、どうして?」
「だって、ここで作った里芋の煮っころがしに、みりん入れ忘れたことあるじゃない」
「今度、正くんのバースデーケーキには、しっかりとみりん入れておくよ」
皆んなで笑う
「しかし、店なんかじゃ売っていない手作りの美味しいクッキーに、ハーブを浮かした紅茶。弁当屋の弁当の後に、一気に高級洋菓子店の味わいの組み合わせになったね」
「ハーブ。いいなあ」
大樹が呟く。
「このペパーミントとローズマリーはね、ここ1番の頑張り時! みたいな時に飲むの」
「そうだ、恵ちゃん、ハーブ検定だか何かの資格があるんだよね?」
「うん」
「リフレッシュしたいときは、ペパーミントやカモミール。ストレス解消にはパッションフルーツやハイビスカス」
「やる気を出すときには、ローズマリー、レモンバームそしてレモングラス」
「女子力アップはにローズヒップ」
「ふうん。恵ちゃん、家では毎日飲んでるの?」
「うん。飲んでるよ。庭で採取して乾燥させておいて、いつでも好きなものが飲めるようにしている」
「女子力アップ、僕らが飲んだらどうなるの?」
「さあ? 男の子にモテるようになるんじゃない」
皆んなで爆笑。
「しかし、ハーブを少し加えただけで、やる気も出るし、安らぎもするね」
「ハーブにはね、アロマテラピー効果と薬理効果があるの」
「立ち上る香りを嗅ぐことで、鼻からハーブの揮発性分が吸収され、匂いの化学分子が鼻を通って脳に到達し、穏やかなアロマテラピー効果をもたらすの」
「薬理効果は、ハーブティーに溶け出す水溶性成分に、タンニン、フラボノイド、ビタミン、ミネラルなどの栄養があって、消化管から体内に吸収される」
「さっき言った、いろいろな目的別に体調バランスを整えることができるの」
「毎日飲まなきゃだめ?」
「うん。3ヶ月以上くらい続けると、その効果がわかってくる」
「じゃあ、俺、ローズヒップ飲む」
「義雄は、パッションフルーツ、ハイビスカスかな? 意外にストレスたまってそうだし」
大樹がふざけたように話す。
「でも、紅茶に葉を2−3枚浮かべるだけで、こんなにもスッキリして安らぐんだ」
僕は感心する。
「すごいでしょ。ハーブ」
「うん。すごい」
「園芸学研究室の皆んな、仲良くて楽しくていいですね」
「卒論の他に、オレンジ色のカーネーションの秘密を一緒に解いたり」
歩ちゃんが微笑む。
「生物環境工学の四年生は、いわゆる真面目で静かな人達だけですから……」
「あまり互いに交流も望まないし」
「確かに、奴らはおとなしいよね。一年生の時からそうだった」
「伊豆で夜の海に誘っても、誰も来なかったし」
「大樹、僕も義雄も行かなかったよ。例えが悪い」
「ランチさえ、一緒に取ること、ほとんどないんですよ」
「僕らの研究室は、個性のぶつかり合いだからね。皆でワイワイするのが当たり前なんだ」
「皆んな歩ちゃんが可愛いから、気軽に誘えないんじゃないの。恥ずかしくて」
「うちもそうですよ。恥ずかしくて、皆私のこと誘ってくれなくて……」
「どこの口からそんな言葉でる?」
恵ちゃんは姿勢を正し、上を向いて目をパチクリさせる。
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