三つのオレンジ色の恋

第40話

「クッキーがあるなら、食後にはハーブティーといきますか」

恵ちゃんが採取袋を実験室に取りに行き戻ってくる。

「スーッとするミント系でいきましょ」

「ペパーミントとスペアミント、どっちがいい？」

「どう違うの？」

義雄が尋ねる。

「そうね、スペアミントの方がスーッと感が強いよ」

「あのさ、生葉でハーブティー入れると苦くて青臭くない？」

「生葉の９０％は水分だよ。香りも飛びやすいし」

僕が言うと、

「紅茶に浮かせるの。２−３枚。香りだけを楽しむ方法」

「生葉でハーブティーを入れると、ミントでは６−７枚必要よ。確かに苦くなるよ」

「家では、ハーブを乾燥させておいて、それだけでいれてるけど」

「ミントの種類は恵ちゃんに一任するよ」

「うん」

「ついでに、この前飲んだレモングラスも取ってくる」

「どうして？」

「三毛にゃんに」

「三毛にゃん？」

「うん。猫はレモングラス大好きなの。多分、ムシャムシャ食べるよ」

「あれ、子猫ちゃんがいるんですか？」

歩ちゃんがベランダの三毛にゃんを見つけた。

「うちの研究室の明石さん。猫大好きなんです。ペット禁止のアパートで猫飼っているんです。名前はアイガー。ベルナーアルプスの一峰でスイスを代表する山の名前」

「でも、教授が猫や犬、大嫌いで。研究室ではあまり話題にしないんです」

「それは困ったね。教授、学部長でしょ。園芸学研究室で猫飼っているのバレたら大変」

「私、秘密にしておきますから」

「まあまあ、その話はさておき、ミント、取ってくるね」

恵ちゃんは、農場の方へ向かっていった。

「買ってきたぞ〜」

大樹が大きなレジ袋を２枚両手に持ってきた。

「あれ？　恵ちゃんは？」

「今、農場にミント取りに行ってる」

「ミント？　また何で？」

「食後のクッキーとともに頂くハーブティーだよ」

恵ちゃんが帰ってきた。

「さて、皆んな食べましょう！」

「いただきます！」

恵ちゃんの音頭で、一斉に声を合わせる。

「正、義雄。スポーツ弁当値上がりしてた」

「いくら？」

「５００円が５３０円になってた」

「ワンコインじゃなくなっちゃったね」

「やはり、食事は学内の値段に敵わないね。安いから」

「でも、カフェテリアの値段の設定は高めだと思うよ」

恵ちゃんが言うと、歩ちゃんが、うんうん、と首を振る。

「僕らはあまり行かないけど、カフェテリアの二階の喫茶ラバルス。あそこのランチは美味しいけど高いらしい。７−８００円くらいのものもある」

「私、たまに行きます」

歩ちゃんが話し出す。

「値段は高いけれど、パスタ類、イタリアン系はとても美味しいですよ」

「カフェテリアのカルボナーラより？」

恵ちゃんが聞くと、

「カルボナーラはカフェテリアが上かな？　でもあとはラバルスの勝ちです」

「いいよな〜、皆んな懐暖かくて」

「僕は、生協が一番。定食は３００円台で、サラダをつけても５００円いかない」

「あら、この前行った貧乏専用の新港さんは？　カレー１７０円、ラーメン２００円」

「毎日、カレーとラーメンだけ食べていると飽きるでしょ」

「私、新港も行きますよ」

「えっ？　歩ちゃんも行くことあるの？　新港に」

「はい。あそこのカレー、とても美味しいです」

「それがね、歩ちゃん。大樹くん、新港でカレーをジャケットにこぼして、右往左往していたの」

歩ちゃんが、クスッと笑う。

「遠出するとおしっこが近いし、研究室では歌いながら踊ってるし、変なヤツだろ？」

歩ちゃんが少し大きめな声で笑う。

「ほっといてくれ」

義雄は照れる。

「さて、昼食も済んだし、三毛にゃんもレモングラスと奮闘しているし、食後のティータイムと致しましょうか」

「歩ちゃん。ちょっと手伝ってくれる？」

「はい」

恵ちゃんと歩ちゃんが、紅茶を入れる準備を始める。