火妖精<クライム>の絵巻物

天に昇ったかがりの炎、むかしに消えた、お星のお歌のこと

 かがりみねは七分のあたり

 くちをあけます観測隊

 黒色火薬のぞらです


 喉をいぶるはあこやの霧か

 さざめくお星のひかりです


 (ツインクル、ツインクル

  こんなに近く光ろうか)

 (や、煙草なぞむない

  危ないんだったら)


 とぼけまなこの見習いどもが

 懐中灰皿をおしあう横で

 望遠スコープ先生さすがです

 屈折率の計算です


 (すこし過ぎるねプリズムが

  あれで燃えたりしないかね)

 (しませんでしょう

  ああ見えて氷です)

 (ではその氷層圏にふるいお歌が

  発掘されると思うかね)

 (されますでしょう

  薄透明な遊色効果イリデッセンスの化石でしょう)


 制服のすそを余した見習いどもが

 くちをわなわな始めます

 ふるいお歌のおはなしです


 (かがりみねからとんで消えた)

 (篝が峰からとんで消えた)

 (火粉石テフラ、高くたかくのぼり)

 (鎖になった梯子はしごになった)


  ((しゃらららん・ざらざら))

  ((じゃららあん・ざらざら))


 鳴るのは宙のむこうです

 炭のにおいのこだまです

 見習いどもはいっぺんに

 蒼白あおくなってもう鋼です


 (そら火がつくぞ)

 (しっ)


 そこで先生すかさずやります

 観測隊の規範です


 (鎖になって梯子になって

  かがりみねのテフラは消えた)

 (お星にぶつかり霧吐いた

  お歌があんまり冷たくて)

 (さあ、ツインクル、ツインクル)


  ((じゃららあん・ざらざら))

  ((じゃらああん・ざらざらざら))


 これはぞらの記憶です

 テフラが昇ったこだまです

 あこやの霧はいっそう濃ゆく

 細かにこまかに匂います


 (ツインクル、ツインクル

  さあ、ツインクル、ツインクル)


 喉の締まった見習いどもも

 ようやく気付きつけがきたと見え

 カッチャ氷斧ピッケルだしました

 ぎらっとしたのはプリズムです


 かがりみね鳴動ふるえます

 観測隊の合唱です


 やがて宙宇は激しくひかり

 氷の鉱石いしを剥きだして

 イリデッセンスもりらりらと

 ねむるお歌を見せるでしょう


(おうたのためにうたううた。おしまい。)

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