水妖精<ラブル>の御本
月と呼ばれる石ころが、南の海に落ちたとき
これは天の海と地の海とが、いまほど
そのころ、地の海にはまだ、どんな生きものもいませんでした。
はんたいに、天の海にはさまざまなものが、ようやく魚のかたちをして
目もなく口もなく、三角のひれだけで
そんな生きものたちのなかに、ひときわ大きな体を持つものがいました。
あまりの大きさに、そのようすをひとつ例えでは言えないほどでした。皮のなめらかなところは
ほかのつくりはといいますと、
一方その海には、とても小さなものたちも
あるとき、このふたりが、たまたますれ
「おお、今夜はまぶしいなあ、お石さまよ」
重たいまぶたをゆっくりと下ろして大きなものが言いました。
この日の天は
「そうですとも。今夜のお石さまは、めいっぱい光っておられるのです」
「そう、たまにこんなに
「ええもちろん。わたくしどもも、こういう夜は
大きなものは面白そうにのっそり口を開けました。そうしますとあたりが
「それってのは、実際どんなことをやるんだい」
大きなものが聞きました。
「はい。まず、日々の
「ほおう」
「それから、そこへ集めた塵やなにかを食べるのです。一族みんなでです。多くのものが、これがいちばん楽しみだと申します」
「ほおう」
「食べるのにくたびれたら、てんでに遊びます。輪になってくるくるしたり、おしくらまんじゅうをしたりですね。お石さまにはたくさんの穴が開いていますので、かくれんぼうをして
「ほおう」
大きなものはいちいち
「わたしは生まれてこのかた、祭りというものをやったことがないよ」
小さなものたちが、くぼみから
「そうなのですか」
「もしもお前たちに習うとするならば、わたしもうたを歌い、星粒のような生きものを呑み、どこかで踊ったり、かくれんぼうをしたりしなければならないね」
「いいえ、そうともかぎりません」
いま小さなものたちは月をはなれ、輪になってくるくるしてみせました。
「わたくしどもは
これを聞いて、大きなものはひとつ考えをしました。
「では今夜どうだろう、おまえたち、わたしの吹く潮を見てはくれないか。そして歌ってくれないか」
大きなものは大きすぎる体のために、いつでもひとりでいるのが
「ええ、ええ。ぜひとも、そうしましょう。お石さまもおよろこびになるでしょう。いったい、もっと眩しくなるでしょう」
ぞろぞろ踊りをしながら、小さなちいさな、小さなものたちは、あたりに
さて、そうして大きなものは、さっそく月のしたまで
大きなものは見当をつけて、力いっぱい潮吹きだけを考えて、尾をひとふり、海面をめざしていきました。ところが、それは深い天の海底にまで砂ぼこりを立てるような、すさまじい
そして、あっと思ったときには、そのひろい背中が月を押し転がしていたのです。いっしょに、力んだ息が勝手にふきだしていくのを、大きなものはどうすることもできませんでした。
それどころか、あまりに力みすぎたために体のジェリーのところから
こうして
これまでにない、
そのひかりは、やがて天のみちを外れて、ずうっとしたにある地の海へと吸いこまれていきました。波ひとつ立ったことのない暗やみにしぶきをあげて、月は沈んでいきました。ひかりはだんだん弱くなっていきました。ただ、いくつもうまれた細かな泡が、
それから、月と呼ばれる石ころが、どうしてふたたび天にあげられたのか。海のものならばだれだって
(つきがおちたはなし。おしまい。)
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