水音
小林 一茶
第1話 始まり
水は川から海へ、海から雲へ、雲から雨へ、雨から川へ、そして。
ぴちゃ、ぴちゃ。
蛇口を締め損ねたのだろうか、水滴が落ちる音が微かに部屋に響く。日常的で珍しくもない音。さして大きいわけでもないその音が今日はやけに煩わしく感じる。
日を跨ぎようやく面倒な宿題を終わらせたのだ。静かに眠らせてくれ。そう思いながら音の元であるキッチンへ向かう。
家族も皆床に就き薄暗い家の中を月明りを頼りに歩く。生まれてから十数年住んだ家だ。薄暗いからといって躓いたりどこかに足をぶつけるようなことはない。
きゅっ。
キッチンの蛇口をしっかりと締め直す。これでようやく静かに寝ることが出来る、と自室へと踵を返す。
ぴちゃ。
しっかりと締めたつもりだったのだが、力が弱かったのだろうか。自室に向かう身体を再びキッチンへと戻す。
「----------------------っ!」
振り返ると同時。視界に入るものがあった。
咄嗟に喉から発せられるはずだった音は形を成さず、目の前の見慣れた風景も黒く滲み見えなくなった。意識が遠のいていくの感じながらまた音を聞いた。
意識を手放す直前、水の音がさっきまでよりも大きく聞こえた気がした。
水音 小林 一茶 @kobayashi_issa
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