第4章 優樹、海里とステーキについて話す(後編)

 海里がスマホを回したりひっくり返したりして言う。

「CPUの他についてる部品って、カメラとかもそうかな」

「そうですね。スピーカーとかマイクもそうか。ないと電話ができない」

「結構いろんな部品があるんだね」

「はい。で、そういう部品を組み合わせることでひとつのスマホとかゲーム機とかの形にするんですけど、部品がみんな、電気の力で動いてるんですよね」

「電子機器ってやつか」

「まだあるのか!」

 優樹はメニューを指差して言う。

「このステーキランチみたいなもんで、ステーキは重要だけど、いろいろ合わせて初めて一揃いになるので」

「ううん?」

「ステーキがCPUで、ライスやポテトやブロッコリーが他の部品、みたいな」

「なんか、たとえに無理がない?」

「と、とにかく。こいつらが何か仕事をするときには、必ず電気を使う必要があります」

「うん」

「まず、コンピューターの中心にある、いろんな計算ができる部品。細かいことを言うとこれにも、単純な計算が得意なやつとか、たくさんの数を一気に計算するのが得意なやつとか、種類があるんですけど、どれも計算すること自体に電気を使います」

「うん」

「で、この部品自体は、1秒間に何百万回とか計算できる力があるんですけど、ふだんスマホでできることって、単純な計算どころじゃなくて、もっと色々ありますよね」

「そうだね」

「そういうのが全部、単純な計算をすごく複雑に組み合わせてできてるんです。例えば、文字は0から255までの数字になってマス目に保存されているって話しましたけど、それを画面に文字として見せてくれないと意味ないですよね?」

「まあ」

「だから、1文字ごとに、スマホに入ってる『この番号の文字はこういう形』っていうデータを見て画面に文字の絵を描くんですけど、その文字を画面のどこに、どれくらいの大きさで出すかとか、全部計算しないといけないんです」

「なんかもうややこしい感じになってきたね」

「我慢してください。あとは、画像とか音声は圧縮……つまり削れるところを削って、保存するのに使うマス目を少なくしているって話もしましたけど、圧縮するときも複雑な計算をしないといけないし、再生するときも元に戻すために計算をしないといけない」

「動画とか見てるとバッテリーが減りやすいのはそのせい?」

「そうなんです。細かく説明するとややこしいので、すごくざっくりまとめると、ややこしいアプリとか、画面が派手なアプリとかは、計算に電気使いますね。……あ、動画の場合は、画面が付けっぱなしなのも大きいですけど」

「そうなの?」

「音楽聴いてるだけだと、結構バッテリー持ちませんか?」

「あー、持つかも」

「ちなみにスマホの画面って今2種類あるんですけど。1つは液晶とかLCDって呼ばれてて、もう1つは有機ELとかOLEDっていうタイプです」

「液晶の方だけ聞いたことあるな。というか、全部液晶だと思ってた。テレビとかは全部液晶だよね?」

「テレビでも有機ELのがありますよ。液晶に比べると高いから、テレビでもスマホでも、値段高めの機種が有機EL使ってることが多いみたいですけど」

「えー、そうなんだ」

「液晶は、ランプで画面全体に光を出しておいて、黒くしたいところだけ光を遮る仕組みなんです」

「ふうん」

「だから、画面に何か写ってても写ってなくても、だいたいずっと電気が必要で」

「えっ。画面暗いときは、電気あんまり使ってなさそうなのに」

「ですよね。有機ELのスマホは、電気を流したところだけ光る仕組みなので、極端な話、真っ黒な画面にちょっとだけ白い文字が出てるみたいなときなら、電力消費がすごく少ないです。なので、スマートウォッチみたいに画面をつけっぱなしにしたいやつは、有機ELだといい感じらしいです」

「これはどっち?」

 海里が自分のスマホを見せた。

「ちょっと調べますね……これ、海里さんのスマホのスペック……つまり詳しい性能が書いてあるページなんですけど、ここ見てください」

「TFTって書いてある」

「TFTっていうのは液晶の種類なので」

「液晶かぁ。……次に機種変するときは、有機ELにした方がいい?」

「値段と相談ですけどね。余裕があるなら、『有機EL』とか『OLED』って書いてあるのを選べば大丈夫です」

「計算するのと、画面を付けるのが電気食うと」

 そのとき店員が、優樹の頼んだステーキランチと、海里の頼んだ鉄火丼を持ってきた。


 ステーキを切り分けながら、優樹は続けた。

「あとは、電波と、センサーですね」

「電波?」

「電波っていうのはまぁ、携帯電話会社のアンテナと電波をやり取りするのに電気がかかりますよってことですけど」

「それはまぁわかるかな。電話かけたり通信したりすると電気食うってことでしょ」

「ですね。まぁ、スマホって、使っていないときでも近いアンテナを探し続ける仕組みなので、その分と……あと、この前も話しましたけど、バックグラウンドでアプリが動いてる分もありますからね」

「ほっといてもバッテリー減っていくのはそれでなのか」

「あー、あと、Wi-FiとかBluetoothも電波ですね」

「どんどん出てくるね」

「すみません……Wi-Fiっていうのは、この前話したみたいな、家とかで携帯電話会社通さずに通信するときに使うやつですね」

「ブルーなんとかっていうのは?」

「たまに見ませんか、スマホ用のヘッドフォンとかで、ケーブルつながってない無線のやつ」

「あぁ……電車とかで、たまぁぁに見るね」

「あれもスマホとヘッドフォンの間で、Bluetoothっていうルールに従って電波をやり取りしてるんですけど、使ってないときも『近くにBluetoothでつなげられる機械あるかな』って探してるんで、その探すのをオフにしないと電気使い続けますね」

「いろいろ使うなぁ」

「あと残ったのがセンサーですね。これはまぁ、それほど大きくないし、使ってなければゼロなんですけど」

「さっき、『GPSのセンサー』って言ってたけど、GPSも電気使うの?」

「あ、そうですね。GPS使うのでよくあるのだと、地図アプリ使ってナビしてるときかなぁ。まぁでもこれは」

「必要だよねえ」

「そうですね。あと、紛失したときにスマホがどこにあるか教えてくれるサービスってありますけど、あれもGPS使ってるんですよね。これも削れるかっていうとなかなか……」

「前になくしたときに使ったなぁそれ」

「結局、使わないセンサーだけオフにしようっていう、当たり前の感じになりますね」


 ちょうど昼休みも終わりに近づいていて、2人は店を出ることにした。

「おごるよ」

「え、いいんですか?」

「いろいろ教えてもらったしね」

「……ベラベラ喋っただけですけど……」

 レジで会計をしていた海里が、

「すいません、これもお願いします」

 プラスチックのヘビの玩具を店員に渡した。

「か、買うんですか、それ」

「優樹にプレゼント」

 そう言って海里がヘビを、優樹の首にかけた。

「これで家まで帰るといいよ」

「えぇー……」

 不満そうに言いつつ、優樹の心の内では、安価な子ども用のヘビが、急に何だかとてもよいもののように思えてくるのだった。

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