第3-2話

ポリスの待合室で、俺と爺さんは、じいさんの孫娘だという娘ドワーフとの面会を待っていた。

「ったく、セキュリティ担当の親族が防壁破ってくるとか、どういうセキュリティホールだよ」

ありがちと言えばありがちなのかもしれないが、俺にはSE職の経験がないのでよくわからん。

「オレゴンはうちの親族でも浮いておってなあ。難しい年ごろなんじゃよ」

弱り切った爺さんが吐露するが、ドワーフ族ってことはあの外見でも20歳は超えてるんじゃないのか、と聞いたらどうもそうではないらしい。

「あの子はヒューマンとのハーフでな。」

見た目通りの幼年期らしい。親族で浮いてるのはハーフだからか。

とはいえ、それならそれで、そんな小学生女子ぐらいの娘が熟練ドワーフ渾身のセキュリティ破ってくるってのは話が分からない。

「そこは儂にもわからんなあ。確かにうちの店に入り浸ってはおったが」

「設計資料でも盗まれたんじゃないのか?」

「バカ言うな、と言いたいがそうも強がってられん。実際にジャマー破ったのなら、うちのコンピューター盗み見るぐらいはできておかしくない」

だとしたらとんでもない天才ということになるんじゃが、と爺さんは言い訳がましく続ける。

冗談じゃない。天才だとしてもやってることが完全にアウトだ。マッドが付く天才の方だろう。


「お待たせしました。」

ポリスの制服で身を固めたリザードマンの案内で面会室に入ると、ぶすむくれのガキが、俺がひねり上げた腕をさすりながらアクリル板越しに座っていた。

「オレゴンや。お前何ということを!」

爺さんが声をかける。ガキは無言。

「怪我をしたのか。」

「…そこのブスにやられた。」

ブスとはなんだブスとは。俺は外見だけは美少女女子高生だぞ。

「それはお前がやってはいかんことをしたからじゃよ。」

法的にもそうだし爺さんの商売の信用上もやってはいけない。それをこのガキはわかっているのかいないのか。

「ところで、どうします?ご存知の通り、転生エネルギー所持者相手の犯罪の場合、求刑には被害者の意見が取り入れられますが」

「じゃあ極刑で」

ポリスの問いかけに即答した俺に爺さんと孫は目を丸くする。

「え、ちょ、マジで?」

「お、お前さん、儂とは長い付き合いじゃろ、それはいくら何でも」

「うるせえこっちは命の危機だったんだぞ。殺されそうになったんだから殺し返して何が悪い」

転生エネルギー持ちが拉致された場合、行きつく先は、遅かれ早かれ殺害になる。

転生エネルギー持ちは重要な資源であり、その身分は尊重される。同時に常に命の危険があるので、身を守るために色々な特権がある。

今ポリスが言った、ある程度の裁判権もその一つであり、9割がたは被害者の求刑通りの判決で犯人は裁かれるのが現実だ。

「長い付き合いなのは確かだが、その信頼関係はもう壊れたじゃないか。なら情状酌量の余地はないね」

淡々と続ける俺に、顔面蒼白になるドワーフ。

俺に何を言っても無駄と思ったか、じいさん泡を食って今度は孫娘にかみつきだした。

「オレゴンや、お前も謝るんじゃ!そもそも何でこんなことをしでかしたんじゃ!」

「だってだってだって、その人凄い悪い人なんでしょ!?やっつけてやろうと思って!」

「は?こんな美少女捕まえて悪い人とは言い草だな。そもそもお前とは初対面のはずだぞ」

うん、待てよ?

「おい小娘。お前俺が転生エネルギー持ちだから狙ったんじゃないのか?俺個人を狙ってきたのか。」

だとしたら、爺さんのジャマーが破られたわけじゃあないのか。

「何でだ、理由を言え。理由いかんでは」

「し、死刑をやめてくれるんじゃな!?」

「懲役2万年ぐらいに減刑してやってもいい」

「ひどい!?」

ともあれ話を聞くと、ネットの片隅で見つけた俺の調査レポートを読んだらしい。内容を聞き出すに…あー、あの女か。

「そのレポート書いたのは俺に個人的な恨みを持ってたヤンデレだよ。ストーカーの類だ。そんなもの真に受けるなよ…」

「で、でもでも、すごく詳しく書いてあったし、色々裏付けもとったけど!」

「そりゃ俺も聖人君子じゃねえから叩けばホコリも出るけどよ、こんな幼女に殺されるほどの悪人じゃないつもりだぜ」

「こ、殺すつもりなんてないもん!ちょっとスタンガンでやけどさせようと思っただけだもん!」

まあ拉致目的じゃないなら子供のいたずらと言えなくはないが、相手が悪かったな小娘。

「本官からも、少しよろしいか」

ポリスのリザードマンが口をはさんできた、ってなんでだ?

「この方は、本官の故郷の世界を救って下さった経歴をお持ちの、オリュンポス神会公認の勇者殿であらせられる。そのレポートにあったような、悪逆の徒ではないと断言しよう」

おや

「あれ、お巡りさん、もしかしてオリュンポス出身?」

「は!曽祖父から勇者殿の戦歴は聞き及んでおります。幼年期のあこがれでありました!」

最敬礼された。やめてくれ、俺は担がれただけで大したことはしてないんだ。

とはいえ”おまわりさん”までバックにつくと、幼女としては自分の間違いを認めないわけにはいかないようだ。段々顔面蒼白になり、べそをかき始めた。

薬は十分に効いたようだ。

「爺さん、取引だ。そのウィルス並みに厄介な俺の怨恨レポートを、ネットワーク上から完全に消去しろ。そしたら減刑してやる」

「そりゃまあ何とかできんこともないが、減刑しても懲役2万年じゃ」

「懲役3年ぐらいで勘弁してやるよ。ガキに取っちゃ塀の中で暮らす3年は2万年みたいなもんだろ」

それならまあ、ということで話はおさまった。


ジャマーのアップデートも完了。セキュリティホールも杞憂だったということで、まあまあな結末か。色々面倒でせっかくの休暇が減ってしまったが、残りはゆっくりさせてもらおう。

「大変だったようですね。」

ポリスを出たところで、天上の三つのような美しい声が聞こえた。

「女神パスカル、お耳に入りましたか」

苦笑いしながら振り返ると、案の定、絶世の美をたたえた女神がほほ笑んでいた。

なんだかんだ苦手意識はあるが、この人は俺を心配して身辺に目を光らせてくれている、大切な恩人だ。警察沙汰となれば知らせがいかないはずはない。

「無事に済んだようで何よりです。どうです?あなたにとっては久しぶりの陸でしょう、一緒に食事でも」

「喜んで」

色々面倒はあるが、美人とディナーでこの大変な一日を締められるなら悪くない。


俺と女神は二人して繁華街へと繰り出すのだった。

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