第3話 デッサン

彼女は窓辺の椅子に腰掛け、机に手をおいて座るように促した。


モデルになるのも緊張するが、先程と同じく不思議な感覚が身体を支配する。

椅子に深く腰掛けてしばらくすると、その感覚は強くなり私の思考は散漫になってきた。手足の感覚は薄れ、頭で「考える」と言う事を忘れていた。


月の光だけが私を照らし、いつもは気にならない美術室の油絵や木炭、紙の匂いが鼻腔をくすぐっていた。


「あなたの髪って長くて綺麗よね。指も細いし。」


彼女が話し掛けた時、スッと現実に戻ったような気がした。


そうなの?

私って髪が長かったっけ?

指は?

背丈は?


私って「ど・ん・な・か・お」なの?


あれ?


何でこんな事考えるの?自分の事なのに。

私の鼓動は早鐘のように、脈打ち始めた。

部屋の中では、彼女が木炭で私を書いている音だけが響いていた。


怖い。怖い。怖い。私の心の中は恐怖でいっぱいだった。席を立って、この場所から逃げ出したい!!

その思いとは裏腹に、私の身体は椅子に縛り付けられたように硬くなっていた。


「ほら、簡単にだけど書けたよ。中々上手く書けたんじゃない?」

彼女はちょっと自慢気にスケッチブックを差し出した。

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