第176話


 がらがらと、馬車の窓からゆったりと景色が流れゆく。

 それを見守りながら、カイリは居た堪れない心地で隅に座っていた。


 馬車の中には、カイリの隣にリオーネが。そして、向かいの座席にはジュディスと、彼女に腕をがっちり組まれたレインが腰を下ろしている。

 フランツ、シュリア、エディは馬車の外で周囲を警戒しながら足並みを揃えていた。



 ――ほ、本気で居た堪れないっ。



 フランツ達三人が外を歩いているのに、カイリがここにいること自体が居た堪れない。第十三位の中で一番新人なのに、何故のうのうと馬車に居座っているのか。

 事件は、一時間前にさかのぼる。











『じゃあ、馬車に乗るわけだけど! 当然! レインは一緒よね!』

『……あー』

『良いじゃないか。レイン、一緒に乗って中からがっちり守ってくれ』

『……へいへーい。団長の命令とあらば、いくらでも』


 ジュディスの提案に、やけくそ気味にレインが捨て台詞を吐く。頭をがしがしと掻く彼の笑顔は完全に引きつっていた。女性大好きな彼なのに、王女が相手だとやはり気が引けるのだろうか。

 しかし、馬車は四人乗りだ。後二人が乗るわけだが、予定通りだと聖歌騎士であるカイリとリオーネになってしまう。

 とはいえ、カイリはこの中で一番の新参者だ。彼らを差し置いて、自分だけ楽をするわけにはいかない。


『あの、フランツさん。俺』

『あと、イモ騎士。貴方も馬車に乗りなさい。聖歌騎士だったわよね?』

『って、い、イモ騎士……。それ、続くんでしょうか?』

『あら。イモ天使が嫌なんでしょ?』

『は、はい。……イモ騎士です。もう』


 天使よりはマシかと、カイリはもう諦めて受け入れることにした。彼女は本気でレイン以外は眼中にない様だ。酷いあだ名だと、カイリは半眼になってしまう。

 だが、それだけで平穏は戻っては来なかった。



『あと、リオーネ。入りなさい』

『……え? 私ですか?』



 唐突に指名され、リオーネがぱちくりと瞬きする。

 いかにも心外だと言わんばかりの彼女の反応に、ジュディスは気を悪くしたのか盛大に不機嫌になった。ぎゅうっとレインの腕を握り締め、鋭い睨みを利かせる。レインが、ぎぎぎっと錆び付いた様に笑顔を深めた。痛いのかもしれない。


『何よ。王女のわたくしの命令が聞けないわけ?』

『いいえ。……分かりました。王女殿下の望みのままに』


 ふわりとスカートの裾をまみ上げ、リオーネは可憐かれんに一礼する。その所作は、さりげないながらも気品に満ち溢れ、堂々たる振る舞いだ。幼い頃から仕込まれていたのと、彼女自身の気質だろうとカイリは感嘆する。

 だが、それが益々面白くなかったらしい。ジュディスはぐぐっと眉間にこれ以上ないほどしわを刻んだ。どうでも良いのだが、皺を刻んでも可憐な顔立ちというのは得だな、とカイリはしみじみ評価してしまう。


『じゃあ、決まりね。あとのみんなも、今日はよろしくお願いするわ。第十位の辛気臭い顔を見なくてすむと思うと、気分が楽だわー』

『それは光栄です。では、都市に着くまでの間、どうぞ楽にお過ごし下さい』


 フランツが一番大人な対応をして、馬車の周りに控える。シュリアやエディも呆れ混じりにそれぞれ定位置に着いた。

 そうして、レインがうやうやしくジュディスをエスコートして馬車の中へと招き、リオーネ、最後にカイリと続く。


『……えーと、シュリア、エディ。ごめん』

『別に良いっすよ。元々、聖歌騎士が馬車の中に待機することになっていたんですし』

『ふん。わたくしは外でむしろ清々せいせいしましたわ』

『え』


 シュリアの清々しいまでの白状に、カイリが首を傾げると。


『さて、イモ騎士。頑張って下さいませ。わたくし、あれを連呼されたら多分殴っていますわ』

『……なら、シュリアのこと、殴って良いか?』

『……冗談ですわ。――ですが』

『――っ⁉』


 ぐいっと顔を近付けて、シュリアがカイリを見つめる。

 吐息が触れそうなほど間近に彼女の顔がある。その状態に、カイリの頬が熱を持ち始めた。慌てて熱を散らそうと努力するが、彼女の吐息が微かに頬に触れて、心臓が訳もなく跳ねる。



 ――顔、近いっ!



 悲鳴に近い怒鳴り声を上げそうになるのを懸命に飲み下し、彼女の言葉を待っていると。


『リオーネのこと、頼みますわ』

『……え?』

『気に食わないですが、貴方が何とか場を切り盛りして下さいませ。レインは、今回あまり当てになら無さそうですので』

『――』


 小さく言うだけ言って、さっさとシュリアは離れていった。エディと「何を話したんすか?」とじゃれ合いながら遠ざかっていく。

 彼女がカイリに頼みごとをするなど初めてではないだろうか。青天の霹靂な出来事に、カイリはぽかんと頭が真っ白になる。

 リオーネのことを、シュリアが頼む。友人である彼女のことを、気に食わないとはいえカイリに託してきた。

 それは。


『……うん。嬉しい、かな』


 ぼそっとささやいて、慌てて頭を振る。今は舞い上がっている場合ではない。

 ぱん、と軽く両頬を叩いて気合を入れ直す。ただ、任務のことだけを考えよう。そして、リオーネのことを気にかけていよう。

 ファル達第十位のことが抜けたのだから、今はエディのことは置いておいても良いはずだ。出かけ際の不穏な空気が気になったが、出来ることをするしかない。

 そんな風に意気込んで、カイリは馬車に乗り込んだのだが。











「レインって、双璧なんて呼ばれているの! 凄いわ! カッコ良いじゃない!」

「あー、そうかそうか。そりゃあどーも」

「しかも、この容姿で飾らない性格! ああ、これはもうモテるわけよね。どうせ、世の女性の数々を泣かせて浮名を流しているんでしょう?」

「あー、んー、どうだろうなー。オレ、後腐れない方が楽なんで」

「そんな陥落させ甲斐のある男、燃えないわけがないわ。レイン、たっぷりと覚悟をしておきなさい。私が、本当の女っていうものを教えてあげるわ」

「……そりゃあ、どーも。楽しみにしてるぜ」


 にこにこと互いに笑顔なのに、何故か火花が散っている気がする。ジュディスの方は無邪気な火花、レインの方は真っ黒な火花に映るのは、カイリの評価がそうさせているのだろうか。

 この一時間、一事が万事全てレインを如何いかに落とすかに収束しているため、カイリは無言を貫くしかない。場を切り盛りする、という問題でも無かった。

 それに。


「……フランツさん」


 馬車の外では、すぐ傍にフランツがいる。時折視線に気付いて、堂々と手まで振ってくれていた。

 カイリも振り返すが、やはりのうのうと馬車に乗っているというこの状況は申し訳なく思う。

 だが、外からの奇襲があった時、冷静に考えてカイリは役に立つだろうか。ただでさえ、気配の察知や消し方は最近訓練し始めたばかりだ。遠くから弓矢で狙われたら、カイリは回避できるかと問われたら自信が無い。

 故に、他に選択肢は無いのだろう。ジュディスもそれを見越したのかもしれない。――ただの気まぐれかとも考えたが、彼女には何となく引っかかるものがカイリには感じられた。



 先程から、ちらちらと、隙を縫って彼女はリオーネの方を盗み見ているからだ。



 何か話しかけたそうにしている様にも見えるし、皮肉をぶつけたい様にも見えるし、邪険にしている様にも見える。

 つまり、カイリが判断をするには、まだ手にしている材料が乏しすぎる。

 彼女は、リオーネにも一緒に馬車に乗れと言っておきながら、一言も話しかけてはいなかった。馬鹿にするなら、いっそ清々しく馬鹿にすれば良いのに、それもしない。リオーネもにこにこ笑って沈黙しているだけで、全く絡みが無かった。

 だが、そろそろずっと沈黙を保っているのもきつくなってきている。レインとジュディスが殺伐としたラブラブっぷりを見せつけている中、カイリはリオーネに小声で話しかけてみることにした。


「あのさ。リオーネは、他の国に行ったことってあるの?」

「え? ああ、いえ。昔から今の都市に住んでいましたから……。無いですね」

「そうなんだ。……よく考えたら、俺はそもそも別の国にいたんだよね。成人するまで村から出たことがなかったからさ。未だにそこらへんの感覚が曖昧で」

「ふふ、そうですよね。……私は生まれた時から城下にいたんです。お母様が、城下の飲食店を切り盛りしていたんですよ」

「え。……そうなんだ」


 あれ、とカイリは内心で首を傾げる。

 ケントから聞いた話だと、リオーネは二歳の頃にリーチェに引き取られてから表舞台に出てきたということだった。しかも、母は既に死亡していたと。

 リオーネは生まれた時も拉致事件の時もほとんど記憶が無いという様な話だった。教えられた内容に虚偽があるのかもしれない。話題作りに失敗しただろうかと頭を抱える。


「カイリ様?」

「え? あ、えーと。……何か、今のリオーネと飲食店っていうのが結びつかないなあって。リオーネって所作とか言葉遣いとか上品だから」

「まあ。カイリ様、お上手ですね」


 ころころと笑うリオーネに、カイリは胸を撫で下ろす。正直嘘も演技も下手なので、もう既に見抜かれていないかと冷や冷やした。

 だが、リオーネはそんなカイリの心中など露知らぬ様に爆弾を放り投げてくる。



「実は、リーチェ様は私の育ての親なんですよ」

「――っ、えっ!」



 思いきり切り込まれ、カイリは仰天して飛び上がった。むしろ本当に尻が椅子から浮き上がってしまう。

 まさか、そんな大事な話を切り出されるとは。ばくばくと心臓が変な風に跳ね回る。この場合、どう反応したら一番良いのかと悩んでしまった。

 そんなカイリの大混乱を堪能したのか、くすくすとリオーネが楽しそうに笑みを零す。



「やっぱり」

「え?」

「カイリ様。このこと、聞いていましたよね?」

「――っ」



 言葉に詰まってしまった時点で、肯定したと同義だ。

 本当にカイリは隠し事が下手過ぎる。さぞかし気分を悪くしただろうと項垂うなだれた。


「……ごめん」

「どうして謝るんですか?」

「だって、……プライベートなことだよね。勝手に聞かれていたんだから、気分が悪いんじゃないかと思って」


 バレたとしたら、昨日の時点ではないだろうか。

 カイリはケントと帰った後、フランツ達に王族への注意喚起をされたと報告したのだ。他に、色々王族についての情報を教えてもらって、任務の後に話してと言われたことも。

 何故その場で話さないのかと一人くらい意見が上がると思ったが、意外にもフランツ達はあっさりと「じゃあ終わった後に聞こう」と満場一致で受け入れたのだ。ケントは警戒されているのに、妙なところで信も置かれているのかもしれないと思った瞬間である。

 そして、決定打はカイリの今の反応だ。リオーネはさとい。見抜かれるのは時間の問題だった。

 しかし。


「……ふふ。カイリ様って、本当に真面目ですよね」


 口元に手を当てて、優雅にリオーネが笑う。可愛らしいのにどこか大人びた表情に、カイリは一瞬目を丸くした。


「え、っと。リオーネ?」

「前にエディさんのことを私達に聞いた時も引いてしまっていましたから。そういう線引きが出来る人だと知っていますよ」

「……そうかな。迂闊うかつに聞いちゃうことが多いと思うけど」

「そうですね。……でも、カイリ様からプライベートに踏み込む様なことを無闇にするとは思っていないですから」

「え……」

「きっと、『彼』が普通にさらっと有無を言わせず話したんでしょう? 目に浮かびますね」


 にこにことどこか毒を混ぜた様な笑みに、カイリは顔が引きつった。これは怒っているのか、それともケントに対する嫌味か。経験が浅いカイリでは判断がしにくい。

 だが、リオーネの表情は朗らかだ。特に気分を害した風もなく話を戻していく。


「母が死んでから、母と縁があったリーチェ様に引き取られたんです。二歳の時に」

「……そうなんだ。その時にはもう、リーチェさんは今の店を経営していたの?」

「はい。……引き取られた理由は、お母様とはライバルだったからだそうで」

「ら、ライバル?」

「ええ。前に同じ飲食店で働いていた時に、いかに美しく、可憐に、流れる様に繊細にきらびやかに料理の皿をお客様の前に並べられるか、って。当時、リーチェ様はお母様のお店で働いていたんだそうです」

「へえ、そ、そうなのか」


 リオーネの母に出会ったことはないが、リーチェがライバル視するくらいだ。恐ろしく美しい女性だったのだろう。

 そして、そんな女性と競い合って腕を磨いていたリーチェ。――どんな彼女でも、何だかその場にそぐわない様でいて、溶け込んでいる様な奇妙な感覚が襲ってくる。一度しか会ったことが無いのに、馴染み過ぎて笑ってしまった。

 だが、それだけ共に切磋琢磨していたからこそ、二人には信頼関係が強固に結びついていたのかもしれない。リオーネのことを育てていたくらいだ。よほどの絆が無ければ、引き受けないだろう。


「じゃあ、リーチェさんとリオーネは親子くらい離れているってこと?」

「うーん。どうでしょう……。その時から、年齢不詳な感じがありましたから。でも、年齢差は多分親子よりは、歳の離れた姉妹、くらいだと思いますよ。推定ですけどね」

「へえ……」


 確かに、今も年齢を推測しろと言われたら難しい容姿だった。滑らかな肌に絹糸の様な綺麗な金の髪の輝き、スタイルも整っていて、服装のセンスも抜群だ。声さえ聞かなければ女性と信じて疑わなかっただろう。

 流石に、リオーネの母と働いていた頃はもっと若かっただろうが、今二十代だと断言されても疑わない。


「お店の時も思ったけど、すごく仲が良さそうだったよね。女子トークもしてるって言ってたし」

「そうですね。色々とお世話になって……リーチェ様は父親であり、母親であり、……心を許せる友人、という感じでしょうか。一言では言い表せないですね」

「そっか。俺はあの一回しか会っていないけど……リーチェさんって、とても懐が広い人に思えたよ」

「まあ……」

「お店の雰囲気も良かったし、お客さんもみんな楽しそうだったし。……迫ってくることさえ無ければ最高なんだけど」

「あら。カイリ様はリーチェ様の好みですから。諦めて下さい」

「……そんな一言で片づけないでくれ」


 カイリが真顔で拒否すると、リオーネはころころと鈴の音の様な笑い声を立てた。完全に面白がっている。

 だが、リーチェのことを話すリオーネの横顔は柔らかかった。褒められて一瞬嬉しそうな反応を見せたし、本当に大切な人なのだと伝わってきて胸が温かく染まっていく。


「そういえば、リーチェさんはレインさんとも仲が良かったけど、他のみんなとは? あ、シュリアとは仲が悪いんだっけ」

「そうなんです。エディさんも、まあ、パシリ扱いですね」

「……どこででも、エディはエディなんだな」

「はい。楽しいですよね」


 どうしてそんな受け答えになるのだろうか。カイリは不思議でならなかったが、リオーネがご機嫌なのならまあ良いのだろう。無理矢理納得した。

 それに、こうして笑って話してくれるのが嬉しい。カイリの失態もとがめず、彼女自身について話してくれたことに素直に感謝した。



「……、ありがとう」



 ぽろっと、無意識にカイリは零してしまう。

 はっと口を塞いだがもう遅い。リオーネがきょとんと目を丸くして見上げてきた。


「どうしてお礼なんですか?」

「あ、いや。……リオーネからさ、その、昔のこと聞けたのって初めてだから。嬉しくて」

「え……」

「それに、勝手に君のこと聞いたりしたのに、怒ったりしなかった。……だから、ありがとう、って思ったんだ」


 しどろもどろになりながらも、懸命に心情を伝える。

 すると、リオーネは益々きょとんと瞬いてしまった。何だか今までで一番無防備な反応だなと、場違いな感想を抱いてしまう。

 しばらくじいっと凝視され、流石に居心地が悪くなって視線を外したくなってきたその時。


「……カイリ様って」

「……うん」

「……やっぱり、変人ですよね」


 思いきりこき下ろされた。

 変人と言われる率が最近高いなと、カイリは落胆せざるを得ない。


「そうかな。……村の中でも第十三位の中でも、結構普通というか常識人だと思うけど」

「まあ。カイリ様が常識人でしたら、私達は凡人ですね」

「え。意味が分からないんだけど」

「つまり、カイリ様は変人という意味です♪」


 納得いかない。


 むすっとカイリがふて腐れると、リオーネはおかしそうに口元を押さえて俯いた。珍しく素直にツボに入ったらしい。頭を上げないのが良い証拠だ。

 だが、彼女が笑っている姿に安心もする。少なくとも、幼少期の思い出は悪いものばかりではないのだと。


「では、今度はカイリ様の番ですね」

「え?」

「昔話です。私に悪いと思うのでしたら、カイリ様もお話して下さい♪ 失敗談でもドジ話でもしくじり体験談でも何でも構いませんよ♪」

「……それって、俺の恥ずかしい話を聞こうとしているよね?」

「そうとも言いますね」


 とっても良い笑顔でにこにこ促され、苦笑が漏れた。やはり彼女は彼女らしいと微笑ましくもなる。

 しかし、恥ずかしい話か、とカイリが思考を巡らせていると。



 ふっと、視線を感じた。



 肌を刺す様な視線を追いかければ、目の前のジュディスとぶつかった。じっと、リオーネとカイリの二人を凝視している。

 カイリと目が合うと、途端にぱっと視線を逸らしたが、やはり気になっているらしい。その興味が、どういう種類のものなのか。見抜ければ良いのにと歯噛みする。

 数秒ほどぎゅうっとレインの腕を握っていたが、ジュディスは不服そうに溜息を吐き、くるんと可憐にリオーネに向き直った。


「久しぶりに会ったけど、随分と楽しそうに過ごしているのね」

「はい。ジュディス王女殿下も」

「ふん、当然よ。というか、イモ騎士と仲良いじゃない。デキてるの?」

「ふふふ、ご想像にお任せします」

「は? デキてる?」


 ジュディスの質問に、リオーネとカイリは揃って別方向に返してしまった。

 瞬く間に呆気に取られた様な空気が広がり、カイリは、え、とまごついてしまう。


「あれ? 俺、何か変なこと言いましたか?」

「いーや。てか、お前、今の意味通じないんだなー」

「えっと。はい。どういう意味ですか?」

「さっすが、天然培養。変なところで純粋だなー。そういうとこが良いけどよ」


 からからと笑って、レインが褒め称えてくる。全く褒められている気がしない上に、意味は教えてくれないらしい。理不尽だ。

 後でフランツかエディに聞こうと、カイリが少しふて腐れていると。


「ねえ、イモ騎士」

「は、はい?」


 馬車に乗って、初めて話しかけられた。

 今までレインにばっかりアプローチをかけていたのにと、警戒心を抱いて身を引くと。



「貴方、リオーネのこと、どれくらい知っているの?」

「……え?」



 唐突に問われて、カイリの頭に一寸綺麗な空白が生まれた。


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